闇バイト等組織犯罪対策に新たな武器を
闇バイトによる凶悪事件やSNSを利用した違法薬物密売事件が跡を絶ちません。警察では防犯対策に加え、取締りにも力を入れています。昨年関東で続発した連続強盗事件等でも多数の実行犯が検挙されています。だが、首謀者の検挙には至らず、犯罪が繰り返されています。
私は福岡県警で主に工藤會対策など暴力団対策に従事してきました。当時も組織犯罪の課題を意識せざるを得ませんでした。それは、組織犯罪対策に対し、世界標準の捜査手法が日本警察に欠けていることです。
私が現場を離れた後、福岡県警は工藤會トップの総裁・会長らを検挙し、2人に対しては、一審、二審とも厳しい判決が下されました。だが、工藤會トップの指示がなければあり得なかった幾つもの事件が、実行犯やその指示役幹部までで止まっています。
そして、他の主要暴力団トップに対しては、工藤會のような捜査は及んでいません。それは、暴力団等組織犯罪に対する捜査の武器が十分とは言えないからです。
闇バイト対策で警察が力を入れている防犯対策についても、ニュース離れが言われる若者達にどれだけ届いているでしょうか。
ならばどのような対策が可能でしょうか。アメリカやヨーロッパ諸国は組織犯罪対策のため必要な捜査手法を整備してきました。それは潜入捜査や司法取引などです。
私は、我が国警察においても、それらを採用すべき時期だと考えてきました。潜入捜査は仮装身分捜査とも言われます。報道によると今回、警察庁は仮装身分捜査の導入を決定したようです。
潜入捜査は、既にアメリカ、フランス、ドイツなどで行われています。麻薬犯罪や武器取引等の重大な犯罪について、警察官が架空の身分を与えられ、架空身分のために必要な文書を作成、使用等できます。一方その活動は厳格に定められています。あまり知られていませんが、既に我が国でも麻薬取締官や麻薬取締員は、麻薬犯罪捜査にあたり、厚生労働大臣の許可を受けて、何人からも麻薬を譲り受けることが認められています。
闇バイト等では、応募者に免許証など個人特定資料が要求され、主犯者の指示に反すれば本人・家族への報復が示唆され脅迫されます。
一方、SNSで実行犯や受け子・出し子を募集しても、応募してくる者が仮装身分の警察官だと思えば、闇バイト募集も躊躇せざるを得ないでしょう。また、暗号化ソフトを使っても、バイト申込者に化けた警察官なら、そのやり取りを証拠化することも可能です。
許されざる者は自ら手を汚す事なく、配下を犠牲に多額の資金を得ている闇バイトの主犯や暴力団トップです。防犯対策が第一ですが、刑事警察では「検挙に勝る防犯無し」とも言われてきました。
そして、職業的犯罪者ほど捕まると判っていて無理はしません。
被害者も加害者も作らないため、組織犯罪に対し、潜入捜査を活用して効果的、適正かつ的確な取締り等が行われることを願っています。
また、警察が新たな捜査手法を導入することに不安を感じる市民も一部にはいるでしょう。麻薬取締官等のように法令で、例えば警察官の職務執行権限を定めた警察官職務執行法などで、仮装身分捜査について明確に規定してはどうでしょうか。
そして、アメリカやイタリアなど主要国で認められている司法取引についても是非、前向きに検討していただきたいと思います。
「取引」という言葉には私自身も抵抗があります。ただ、自らの罪を認め、ありのままの真実を正直に証言するなど、適正な捜査に協力した被疑者・被告人に対しては配慮が必要だと思います。
そのように適正な捜査に協力した者については、その求刑や刑罰を軽減することが必要ではないでしょうか。真に罰せられるべきは、自ら手を汚すことなく仁侠を標榜する暴力団トップや、多額の資金を得ている闇バイトトップ等だと思います。
令和7年1月10日 暴追ネット福岡代表 藪正孝