みかじめ料、どうやって断る?

 東京・神田の飲食店経営者ら暴力団にみかじめ料を払った疑いで検挙

 本年7月末までに、東京・神田の飲食店、風俗店計3店舗の経営者3人が、東京都暴力団排除条例違反で、警視庁から書類送検されました(注1)。
朝日新聞の報道によると、容疑は、2019年10月~今年1月、指定暴力団・住吉会の幹部に計72万円のみかじめ料を支払ったというものです。
 この住吉会幹部は、これらの店からみかじめ料を受け取ったという同条例違反ですでに起訴されているそうです。
 また朝日新聞は、暴力団側にみかじめ料を支払ったとして過去に摘発されたことのある東京都内でキャバクラを経営する 男性の話も掲載していました。
 この男性は、10年ほど前に、従業員をしていたキャバクラの経営をオーナーから引き継ぎました。 それまで店は、ある暴力団の組に毎月15万円のみかじめ料を支払っていたそうです。
 男性が店の経営を引き継ぐ直前、その組の暴力団員から呼び出されました。男性は暴力団との関係を断ち切るつもりでした。
 男性が組員に「もう払えない」と言うと、組員は物腰も柔らかく「困ったことになるよ」「この辺りはみんな払っている」と答えたそうです。
 結局、月々の支払いを月3万円に下げるとの条件を持ちかけられ、男性は「この程度なら」と要求に従ってしまいました。
 その後、「店が大きいから」と、みかじめ料は月6万円に引き上げられました。
 みかじめ料を払っているからといって、何か店が得するようなこともなかったそうです。
 男性は、客や従業員に危害を加えられ店の評判が落ちたりすることを恐れ、「先代から払ってきたし、みんなも払っている金。危険が回避できるなら、と水道光熱費と同じ必要経費ぐらいに考えていた」とのことです。
 また、「警察に四六時中守ってもらえるわけでもないし、相談するという発想が出てこなかった」そうです。  結局、警察に摘発されたことで、「(自分が)摘発されたことで、きっぱり断る口実ができたのはむしろよかった」と朝日新聞の記者に語ったそうです。

 警察には相談しにくい?

 今年は、暴力団対策法(正式名称「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)が施行され丁度30年になります。 暴力団対策法は平成4年(1992年)3月に施行されました。
 しかし、これらの記事を見て、暴力団からみかじめ料を要求されるなど、違法、不当な要求を受けても、 やはり警察には相談しにくいと考える人がまだまだ多くいることを再認識しました。
 実際には、暴力団対策法施行以前に比べ、暴力団からの違法・不当要求に対しては、間違いなく断りやすくなっています。 それを更に強化したのが、平成23年(2011年)までに全国で制定・施行された暴力団排除条例です。
 暴力団対策法により、中止命令そして再発防止命令という制度が新たに設けられました。  また、各都道府県ごとに一つ、暴力追放運動推進センター(略称・暴追センター)が置かれました。暴追センターでは、暴力団に関する無料相談等を行っています。
 中止命令は、暴力団対策法に基づき指定された指定暴力団の暴力団員が、その所属暴力団の威力を利用し、みかじめ料や用心棒料等を要求する等の一定の行為を行った場合、都道県公安委員会がその行為を中止するよう命令し、 その命令に従わない場合は、暴力団対策法違反として検挙されるという制度です。
 再発防止命令は、指定暴力団員が同種の行為を繰り返す恐れがある場合、1年以下の期間を定めて、公安委員会が同種行為を行わないよう命令するものです。
この中止命令、再発防止命令に違反すると、3年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられます。

 一人で悩まず、まず相談

 暴力団員による違法、不当な要求や行為に対して、市民や事業者の皆さんに訴えてきたことの第一が、「一人で悩まず、まず相談」ということです。
 そして第二が、「暴力団を必要以上に恐れない」ということです。
 よく、警察などは「暴力団を利用しない」「暴力団に金を出さない」「暴力団を恐れない」と言いますが、 私は「暴力団を恐れない」と市民や事業者の皆さんに言ったことはありません。
 なぜなら、暴力的犯罪組織であり、時に市民に暴力を振るうのが暴力団だからです。また、暴力団は時にお礼参りと呼ばれる報復行為を行うことも決してゼロではないからです。
 だから、私は「暴力団を恐れない、それは無理ですよね」とまずお話しします。そして「でも、必要以上に恐れないでください。 それはなぜか、暴力団は脅しのプロだからです」と続けます。
 「脅しのプロ」というのは、暴力団員は常に警察の取り締まり対象であり、何か違法行為が発覚すると逮捕されてしまうからです。無理をしたり油断すると、彼等は警察に逮捕され、一般の犯罪者よりも重い処罰を受けてしまうのです。 アマチュアと違ってプロは決して無理をしません。その点は暴力団員も同様です。

 命令違反は0.44%

 よい例が、暴力団員に対する中止命令、再発防止命令です。
 暴力団対策法が施行され昨年令和3年末までの30年間に、全国で5万2,821件の中止命令、2,019件の再発防止命令が行われました。
 恐喝や恐喝未遂等の犯罪が成立する場合でも、被害者側が被害届出を拒否することが結構あります。暴力団側のお礼参りを恐れてのことが多いようです。
 そのような場合でも、被害者側の協力が得られれば、中止命令を行ってきました。中止命令は刑事事件と事なり、比較的簡単な事情聴取で事足ります。
 暴力団員等が、これらの命令に従えば何の処罰もありません。だから、彼等は中止命令にはまず従うのです。
 命令違反はどの位あったとお思いでしょうか。
 30年間で命令違反で検挙された暴力団員等は239件、全体の約0.44%です。
 中止命令が行われたということは、被害者が既に警察にその話しを行っているということです。そして、逮捕ではなく中止命令ということは、命令に従えば警察に逮捕される心配は無いということになります。
 もし暴力団側が、中止命令の被害者側にお礼参りを行えば、警察はその暴力団員や暴力団を徹底的に取り締まります。それが、中止命令等を受けた暴力団側が99%以上、命令に従うという結果に表れていると思います。
 そして命令違反というは、あくまでも命令を受けているにも限らず、被害者に更に不当要求を行ったり、みかじめ料要求に関する再発防止命令違反の例では、別の店舗等にみかじめ料を要求するなどの違反行為です。 昨年中の命令違反は、全国で再発防止命令1件のみです。この1件は大阪で山口組傘下組織組長が飲食店経営者のために用心棒の役務の提供をしたとして逮捕された事件です。

 お礼参りについて

 暴力団側にみかじめ料を支払ったため検挙された男性も、警察に相談し中止命令を行ってもらえば、その時点で暴力団との関係を断つことができ、かつ、お礼参りもなかったと思われます。
 ただ、「警察に四六時中守ってもらえるわけでもない」という男性の不安もよくわかります。「警察は24時間守ってくれんぞ」という脅し文句は工藤會もよく使っていました。
 福岡県警での現役当時、あるいは福岡県暴力追放運動推進センター当時、暴力団に関する数多くの相談にも関わってきましたが、その中で約20件ほど、 お礼参りがあるかもしれないと思った事案もありました。実際、その中の10数件はお礼参りが発生しました。
 ただ、お礼参りはないだろうと考えた事案でお礼参りがあったことは皆無です。
 中止命令や再発防止命令事案では、相手側暴力団員が特定されており、中止命令等を行った後も警察は被害者の皆さんと連絡を取り合って来ましたので、 お礼参りがあるだろうと思った事例は1件もありません。また実際にそのようなお礼参り事件は1件も発生しませんでした。
 暴力団は脅しのプロです。彼等は決して無理はしません。
 お礼参りがあるかもしれないという場合は、大きく次の三つです。
 一つは、組長、会長といった暴力団のトップの面子に関わる場合です。 二つ目は多額の資金が絡む場合、三つ目は被害者側が悪い場合、例えば、それまで暴力団側と組んで利益を上げていたような者が裏切った場合です。
 用心棒料の要求をしたところ、中止命令をかけられた、そのような場合、損得を常に考えている暴力団員がお礼参りを行うことは、まずありません。

 どこに相談

 みかじめ料要求のみならず、暴力団からの違法・不当な行為に関する相談は早ければ早いほど、容易に解決でき、またお礼参り等の危険もより低くなります。それが「一人で悩まず、まず相談」の趣旨です。
 「警察の敷居が高い」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。確かに、暴力団対策法が制定された後もしばらく、特に民事問題が絡むような相談について警察は消極的な面が見受けられました。
 いかし、平成20年(2000年)以降、全国警察で「警察改革」に取り組むようになって以降は、各警察署にも相談対応専門の課や係が設置されるなど、市民・事業者の皆さんからの相談に積極的に取り組んでいます。
 暴力団に関する相談は、基本的に警察署や警察本部の暴力団対策担当課(係)が担当しますが、各警察署等の相談担当課(係)に相談し、担当課(係)に繋いでもらっても良いでしょう。
 また、暴力団対策法に基づき各都道府県に一つづつ設置されている暴追センターに相談してみるのも良いと思います。
 私も福岡県暴力追放運動推進センター当時は相談委員を兼務しておりました。多くの暴追センターでは、いわゆる警察OB、警察で暴力団対策等を長年担当し定年退職した人たちがその経験を生かして相談委員となっています。 また、暴力団対策法によっても暴追センターと都道府県公安委委員会・警察本部は暴力団対策において連携するようになっています。
 このため、暴追センターに相談すると、即、警察にその話しが通報されてしまうのではないか、と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
 少なくとも、相談業務に関しては、その心配は無用です。
 暴追センターの相談委員(相談担当者)は、暴力団対策法により罰則付きで、受理した相談の秘密を守る義務が課せられています。
 例えば、「暴力団からみかじめ料を要求されている」とか「みかじめ料を払ってきたが、今後は支払いたくない」などの相談を暴追センターが受理した場合、 警察を巻き込んだ方がより効果的な解決ができるので、警察へも相談するよう、相談者の方におすすめはします。
 しかし、相談者の方がそれを拒否した場合は、暴追センターが勝手に警察へ通報することは許されないのです。
 福岡県暴力追放運動推進センターでは、毎月2回、暴力団の不当要求に詳しい福岡県弁護士会民事介入暴力委員会の弁護士をお呼びし、無料相談を行っています。民暴弁護士の知恵を借りるのも一つの手です。
 そしてこの場合、相談を担当した弁護士は、暴力団対策法上の相談委員となりますので、やはり罰則付きで秘密を守る義務が課せられます。
 

 暴力団対策法・暴力団排除条例による規制強化を盾にする

 暴力団対策法や暴力団排除条例は、制定後、幾度も改正されてきました。
 世の中には、暴力団は必要悪だと考え、警察が頼りにならないから暴力団に用心棒を依頼するという人もまだまだいます。
 暴力団対策法の改正により、指定暴力団員がいわゆる用心棒の役務を提供したりすることも禁止されています。 のみならず、指定暴力団の縄張り内で営業を営む者等が、指定暴力団員に用心棒を依頼することも禁止されています。
 多くの都道府県の暴力団排除条例では更に、事業者が暴力団の活動を助長する目的で利益を提供したり、暴力団員がその利益を受けることも禁止されています。
 例えば東京都暴力団排除条例等では公安委員会が、悪質な行為に対し中止するよう勧告し、勧告に従わない場合は、公表、さらには命令を行うこともあります。
 事業者にとって、暴力団に積極的に資金提供等を行い、公安委員会の勧告にも従わなかったと公表されることは大きな打撃となります。
 逆に、これらを暴力団からの違法・不当要求に対する盾にもできるのです。
 また、暴力団排除条例では、事業者側がそれまで暴力団側に利益提供を行っていても、自ら公安委員会に申告した場合は、勧告等の措置を行わないことを規定しています。
 冒頭に御紹介したキャバクラの経営者の男性は、警察に摘発されたことで、「(自分が)摘発されたことで、きっぱり断る口実ができたのはむしろよかった」と語っていました。 摘発前に自ら申告していれば、摘発を免れるだけではなく、その段階で暴力団との関係を断つことができたと思います。
 「一人で悩まず、まず相談」、暴力団のみならずエセ右翼、エセ同和や総会屋、企業ゴロ等の反社会的勢力の違法・不当な要求等に対しては、まず警察や暴追センター等にご相談ください。

 令和4年8月22日

【注】