暴力団と「不良外国人」(2)

 前回は、終戦直後の暴力団と「不良外国人」についてでした。今回は、警察側から見た最近の暴力団と「不良外国人」の関係を見てみたいと思います。
 最初にお断りしておきますが、日本人であれ外国人であれ、その一部には犯罪に走る者が必ず存在します。
 国際交流が進むことにより、外国人入国者、在留外国人も年々増加しました。それに伴い犯罪を犯し検挙される来日外国人も増加していきました。しかし、その何十倍もの日本人が犯罪を犯し検挙されています。
 国籍別で見ると最近はベトナム人がやや目立ちます。これは技能実習生の増加が一因と思われます。昨年末現在で約41万人のベトナムの人たちが日本で暮らし、その半数を超える約22万人が技能実習生です。現在、技能実習生の最大の送り出し国はベトナムです。
 本年10月以降、群馬県警や警視庁等が相次いでベトナム人グループを検挙しました。群馬県警は食用にするために豚を違法に解体したという「と蓄場法」違反、警視庁は覚せい剤取締法違反(共同所持)などの容疑でした。
 言うまでも無く、それらのベトナム人は在日するベトナムの人たちのごく一部にすぎません。そして、技能実習生の受け入れ先事業者の中には、未だ劣悪な環境で重労働を強いたり、給与の未払い、暴力を振るうなどといった者もいます。このため受け入れ先から逃亡する技能実習生もあり、不法残留となったり犯罪に走る者も出ているようです。
「麻薬の撲滅」を標ぼうする山口組など暴力団の多くは表向き覚醒剤など違法薬物を禁止しています。しかし覚醒剤事犯検挙者の半数前後が暴力団構成員等(注1)です。
 令和元年中、全国で覚醒剤事犯で検挙された8,584人中3,738人が暴力団構成員等で全体の43.5%を占めています(注2)。
 山口組や住吉会、稲川会、福岡県の工藤會など多くの暴力団が、これまでも「不良外国人との接触禁止」「不良外国人の排除」などを傘下暴力団員に指示してきました。
 実際には、暴力団は時に外国人を食い物にし、時に共に犯罪行為を繰り返してきました。そして暴力団側の利権に関わる場合は組織暴力で対抗してきた、それが暴力団の実態です。
 「麻薬撲滅」同様、暴力団側の「不良外国人」対策があくまでも表向きにすぎないことを見てみたいと思います。

 来日外国人犯罪の増加

 昭和の終わりごろから、来日外国人(注3)、在留外国人(注4)の増加にともない、外国人による犯罪が目立つようになりました。
 警察庁では、昭和55年(1980年)以降、犯罪で検挙された来日外国人の統計を取り始めました(注5)。以下の統計データは警察庁と法務省の公開資料に基づき作成しました。

  図1 在留外国人数・外国人入国者数と来日外国人検挙人員の推移(昭和55年~平成17年) 外国人犯罪グラフ
 図1は、昭和55年から平成17年(2005年)までの間における来日外国人による犯罪の検挙状況です。赤の線グラフが、窃盗、詐欺、強盗等の刑法犯で検挙された来日外国人の数、黒の線グラフは刑法犯以外に罰則規定がある特別法犯違反で検挙された来日外国人の数です。
 なお、特別法犯の大部分は不法残留や密入国など出入国管理法違反です。この図で特別法犯が最も多かった平成16年中は、特別法犯検挙件数の約83%が同法違反です。
 検挙人員数はグラフ右側の数値です。
 参考のため、在留外国人数を緑色棒グラフで、外国人入国者数(注6)を紺色斜線の棒グラフで示しています。その数はグラフ左側の数値で単位は万人です。
 昭和55年中、刑法犯で検挙された来日外国人は782人、特別法犯は2,280人でした。
 この年の在留外国人数は約78万人、外国人入国者数は約130万人です。
 平成16年には、刑法犯8,898人と昭和55年の10倍以上、特別法犯も12,944人と5倍以上に増加しました。なお、在留外国人は約186万人と2倍以上、入国者数も約676万人と5倍を超えています。

 来日外国人による凶悪犯事件等の増加と全国への拡散

 警察の犯罪統計で凶悪犯とは、刑法犯のうち殺人、強盗、放火及び強制性交等(強姦)のことです。図2は図1と同じ期間中における来日外国人による凶悪事件検挙人員の状況です。
 昭和55年は14人でした。日本人を含めた検挙人員は7,350人で、微々たるものです。しかしその後増加し、平成15年は477人、平成17年も396人が検挙されています。
 来日外国人犯罪の特徴の一つに、共犯事件が多い点、組織的に行われる傾向が強いことが指摘されています。
 昨年中も刑法犯で検挙された来日外国人のうち、約31.5%が共犯事件です(注7)。それに対し日本人では約10.3%となっています。
 来日外国人犯罪が最も多かった平成16年中、刑法犯検挙事件件数の約69%が共犯事件でした。この年、日本人は約19%でした。
 こうした組織化は、主に国籍別や出身地別が多く、暴力団のような強固な組織ではないようです。

  図2 来日外国人による凶悪犯事件検挙人員の推移(昭和55年~平成17年)
外国人犯罪グラフ
 来日外国人による凶悪事件が最多だった平成15年当時、ロシア人犯罪組織による盗難車の密輸出事件やロシア人女性の売春事件、韓国人グループによる暴力的すり事件等、外国に本拠を置く国際犯罪組織(注8)が日本で活動する例が目立ちました。
 また、平成8年(1996年)と平成17年(2005年)を比べると、来日外国人犯罪の検挙件数が平成6年まで全国最多だった東京都がほぼ横ばい状態となったのに対し、中部4.8倍、四国3.5倍、北海道2.8倍と大幅に増加しています(注9)。
 なお、近畿、中国は東京同様にほぼ横ばい、九州と関東は1.7倍と増加しました。
 特に、現在の六代目山口組組長、同若頭らの出身母体である弘道会が存在する愛知県など中部地区の増加が目立ちます。
 これら来日外国人犯罪に対応するため、全国警察では外国人犯罪に関する組織犯罪対策部門を強化し、海上保安庁や入国管理局と連携して取締りや対策を強化していきました。

 集団密航事件の増加

 図3は、平成2年から平成17年に、警察、海上保安庁が検挙した外国人の集団密航事件(注10)の事件数と検挙された密航者の数です。
 この集団密航事件も平成9年中は73件1,360人と検挙が過去最高を記録しました。

  図3 集団密航事件の検挙件数と検挙人員の推移(平成2年~平成17年)
集団密航グラフ
 来日外国人犯罪や集団密航事件が増加する中、「仁侠団体」を自称する我が国暴力団はどうしていたのでしょうか。

 「不良外国人」との接触禁止?

 それ以前は不明ですが、平成9年、主要3団体である山口組、住吉会、稲川会が「不良外国人との接触禁止」や「不良外国人と絶対組まないこと」などを傘下暴力団員に指示しています。
 その背景には、集団密航事件など暴力団が関与した事件が多数報道されたこともあったと思います。
 平成5年4月、山口組傘下組織組長や稲川会暴力団員らが、中国人と共謀し、中国人145人を鹿児島県に密航させ、鹿児島県警等に検挙されました。
 平成6年5月、福岡県の暴力団員が中国の密航請負組織「蛇頭」(注11)と組んで、中国人約140人を博多港に密航させ、福岡県警や海上保安庁に検挙されています。
 平成8年5月、警視庁が中国人集団密航事件で五代目山口組の暴力団員と密航した中国人16人を検挙し、蛇頭1人を指名手配しました。
 警視庁は同年12月、集団密航事件に暴力団関係者などが組織的に介在している疑いが強いとして、異例の捜査本部を設置し、取締りを強化しました。その結果、住吉会幹部や福岡県の道仁会幹部のほか、蛇頭メンバーの中国人3人が逮捕されました。
 この事件では、蛇頭が住吉会幹部に集団密航の手助けを依頼し、同幹部が道仁会幹部に協力を求め、道仁会幹部が知り合いの漁師に船の手配させました。一人当たりの成功報酬は約300万円で、その約25%が暴力団側の取り分になっていたとのことです(注12)。
 平成9年2月には、神奈川県警が蛇頭による中国人集団密航に関連し、密入国した後死亡した中国人男性の死体を遺棄したなどの容疑で稲川会暴力団員らを逮捕しています(注13)。
 このように外国人の集団密航には暴力団が深く関与していたのです。
 平成15年版警察白書では、警察庁に報告があった暴力団と来日外国人との共犯事件を分析しています。末端暴力団幹部や暴力団員が、不良外国人と共犯関係となった事例が記載されています。
 集団密航事件については、同白書では、次のように記載しています。


「集団密航事件は,特に中国人と暴力団員が共謀して敢行されることが多い犯罪である。大半の集団密航事件は,中国人が首謀者であるため,密航者の募集,密航計画の立案,密航代金の設定と徴収,密航用船舶の手配,日本における船舶の接岸場所の選定等は,すべて,中国人が行っている。暴力団員は,日本に在住する中国人から,接岸場所での密航者の受入れと輸送,密航者の一時的な滞在場所の確保とそこでの監視等の役割を分担するよう依頼されるが,集団密航計画の全体を把握していない場合が多い。
 中国人が,暴力団員にこれらの役割を分担するよう依頼する理由としては,

・密航者の受入れ,輸送,監視等は,集団密航を行う上で,警戒中の警察官に発見,検挙される可能性が高い危険な役割であること。
・日本の運転免許証を持たない中国人は,密航に必要な大型車両をレンタカー会社から借り受けることができず,また,密航者の一時的な滞在場所としての宿泊施設等の手配も困難であること。

 などが挙げられる。中国人の首領は,検挙される危険が大きい密航者の受入れ現場には現れず,携帯電話等で,配下の中国人又は暴力団員に指示を与えている状況がうかがわれる。」(平成15年版警察白書第1章組織犯罪との闘い)


 集団密航への暴力団の組織ぐるみの関与については、


「集団密航に荷担する暴力団員等は,概して指定暴力団の四次組織,五次組織の末端構成員,準構成員等であり,調査した事例の範囲では,一次組織,二次組織のレベルで,暴力団が組織ぐるみで集団密航に関与している状況は判明していないが,ある検挙事例では,指定暴力団の三次組織の組長が,配下組員に対して「これは,組の仕事だから」と言って指示を出している状況も見受けられ,また,別の三次組織では,集団密航の手引きをシステム的に組の資金源とし,そのための専門集団を形成しているとの供述も見受けられた。」


としています。
 また、平成18年版警察白書では「暴力団と国際犯罪組織との連携と対立」として次のように解説しています。


「警察の取締りが強化され、国民の間でも暴力団を排除しようとする機運が高まる中、暴力団による犯罪は多様化・巧妙化し、その取締りは一層困難になっている。また、来日外国人による組織犯罪も深刻化しており、市民生活の大きな脅威となっている。
 このような状況の下、暴力団と国際犯罪組織とは、それぞれ独立して違法行為を敢行するだけでなく、相互に連携して犯罪を行っている。両者の関係は多種多様であるものの、検挙事例を分析すると、次のような例がみられる。

・暴力団が、その人脈、土地勘等を活用して、国際犯罪組織に対し、多額の金銭を保管している事務所や住宅等に関する情報を提供したり、犯行に必要な拠点、道具、車両等を確保したりする役割を担う一方、強盗、窃盗等の実行行為は、国際犯罪組織が敢行するもの
・暴力団が、覚せい剤等の規制薬物の密輸入に際して、外国に拠点を有する薬物密売組織と具体的な密輸方法等を協議するなど結託して密輸入しているもの
・外国に拠点を有する国際犯罪組織が、日本国内の性風俗店で働かせることを目的として外国人女性を勧誘して日本へ送り出し、我が国の暴力団がこれを受け入れ、働かせるもの

 このように、犯罪組織同士が相互に連携して違法行為を敢行する背景には、犯行上の互いの利点をいかすとともに、互いの弱点を補完しあうことによって、犯罪をより効率的に敢行し、共存共栄を図ろうとする意図があるものとみられる。」(平成18年版警察白書第3章組織犯罪対策)

 ただ、暴力団の資金獲得活動は山口組なら山口組、工藤會なら工藤會といった団体ぐるみで行われるものではありません。みかじめ料の徴収や賭博、覚醒剤の密売など傘下組織ぐるみで行うこともありますが、暴力団の資金獲得活動はあくまでも個々の暴力団員が、その所属する暴力団の威力を利用して行っています。
 例えば一次組織である山口組本部の下に、二次組織である弘道会、伊豆組などが存在し、さらにその下に三次、四次、五次と続きます。
 それら傘下組織でも、多くの場合、個々の暴力団員が個別に資金獲得活動を行い、上納金、会費等の名目で、組織の上部にその金の一部を上納しているのです。
 最近も、特殊詐欺を禁止する通達を流した暴力団がありましたが、その後もその暴力団を含め、多くの暴力団員が特殊詐欺で検挙されています。
 一方で、国際犯罪組織の勢力が拡大するにつれ、暴力団との間で対立、縄張争いが生ずる例も発生しました。
 暴力団と外国人犯罪組織との連携と対立について、平成18年版警察白書掲載の事例を4つ紹介します。

  事例1 中国人及び山口組組員等日本人の窃盗団 

 中国人の男(42)は、平成14年11月から17年3月にかけて、中国人及び日本人から成る窃盗団を編成・指揮して、高層マンションをねらった窃盗事件を多数敢行した。この窃盗団は、

・人脈、土地勘等を活用して犯行に使用する拠点、車両、運転手等を確保したり、窃取した預貯金通帳の名義人の性別、年齢に見合う預貯金の引き出し役を手配したりする役割を担う山口組傘下組織構成員を含む日本人
・ピッキングやサムターン回しといった手口を用いて高層マンションに侵入し、預貯金通帳、印鑑等を窃取する役割を担う中国人窃盗団等

から構成され、それぞれの利点をいかすことで長期間にわたって犯行を繰り返しており、この窃盗団による被害総額は約5億800万円に上った。同年6月までに、この窃盗団を編成・指揮していた中国人の男ら58人を窃盗罪等で逮捕した(北海道、宮城、福島、警視庁、新潟、富山、石川、兵庫、山口、愛媛、長崎、熊本)。

  事例2 山口組組員が中国人窃盗団に情報提供 

 中国出身の男(35)ら16人は、山口組傘下組織構成員(30)らから情報提供等の協力を受け、平成15年12月から16年1月にかけて、首都圏を中心として、高齢資産家宅の窓ガラスを破って侵入し、家人をガムテープで縛り上げて現金や貴金属を奪う犯行を繰り返していた。平成17年12月までに、実行犯の中国人12人、情報提供等の協力を行った山口組傘下組織構成員らの日本人7人を逮捕した(警視庁、山梨、千葉、神奈川)。

  事例3 会津小鉄会関係者とタイ国犯罪組織による覚醒剤密輸事件 

 会津小鉄会傘下組織元構成員(57)らは、平成17年5月、タイに拠点を有する犯罪組織と連携し、情を知らない日本人を利用してタイから覚せい剤約36キログラムを土産物のチョコレート箱に隠匿するなどして密輸入させた。17年9月までに、元構成員及び元構成員から覚せい剤を譲り受けた会津小鉄会傘下組織組長ら30人を、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締り等の特例等に関する法律違反(以下「麻薬特例法」という。)(業としての密輸入)等で逮捕した。

  事例4 薬物密売をめぐる山口組とイラン人密売組織の抗争 

 山口組傘下組織組長(48)は、同傘下組織構成員らに対して、イラン人薬物密売組織の構成員とみられるイラン人(20)を襲撃するよう指示した。これを受け、同傘下組織構成員(38)ら7人は、平成17年2月、このイラン人(20)を襲撃し、同人はけん銃で撃たれて腹部を負傷した。同構成員らは、イラン人薬物密売組織から覚せい剤を購入するなどの関係にあったが、薬物密売をめぐる縄張り争いから対立が生じ、抗争事件を引き起こしたものとみられている。同年7月までに、山口組傘下組織組長及び同傘下組織構成員ら7人を殺人未遂罪等で、襲撃を受けたイラン人を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で、それぞれ逮捕した(愛知)。


 事例4は愛知県豊橋市で山口組組員らがイラン人の男に拳銃を発砲し、2週間の負傷を負わせたものです。違法薬物から市民を守るためにイラン人密売組織メンバーを襲撃したのではなく、単なる縄張争いと見られています。

 工藤會による「不良外国人」排除

 北九州の工藤會は、遅くとも平成13年(1991年)10月には「不良外国人排除」を傘下暴力団員に指示しています。
 そして同月以降、平成15年1月までの間、北九州地区の繁華街で中国人など外国人経営のエステ、スナックに対する放火事件、銃撃事件、恐喝未遂など14件の事件が発生しました。
 福岡県警はこのうち5件を検挙しましたが、何れも工藤會による組織的事件でした。これらの事件は、工藤會が「縄張り」と称する北九州市内でみかじめ料を支払わない外国人の排除を狙った者でした。
 なお、これらの事件の被害にあった人達は、何れも日本人配偶者など正規滞在者で、外国人犯罪組織との関係は特に認められませんでした。
 平成17年3月、私は暴力団取締りを担当する捜査第四課管理官から組織犯罪対策全般や外国人犯罪捜査を担当する組織犯罪対策課の次席に異動しました。
 福岡県警では、他の都道府県警察と同様、外国人犯罪対策も強化しつつありましたが、その中で、工藤會が関係する事件も検挙しました。
 一つは、工藤會石田組幹部が同じく福岡県の福博会幹部と組んで、中国人窃盗グループの上前をはねていた事件です。平成17年5月に検挙されましたが、福博会幹部から中国人グループを紹介された工藤會幹部が、盗み先を紹介し、被害金の半分を受け取っていました。平成18年版警察白書のとおりでした。
 また、同年6月には韓国人エステからみかじめ料を受け取っていた工藤會大原組相談役を検挙しました。みかじめ料を支払っている外国人経営の違法エステは「排除」の対象ではなかったのです。

 山口組の「不良外国人」排除

 平成23年、現在の六代目山口組の司忍こと篠田建市組長が産経新聞のインタビューを受けました。
 産経新聞記者の「山口組は覚醒剤や不良外国人との接触を禁じているが、この方針を守り切れていない状況がうかがえる」との質問に対し、次のように答えています。

「山口組は厳しく覚醒剤と不良外国人との接触を禁じている。実際、山口組が、薬物の売買や不良外国人との接触を本当にしているのならば、今以上に治安が悪化し、薬物も蔓延しているはずだろう。ただ、末端の組員の一部不届き者たちが禁止事項を破り、われわれの目を盗んで己の欲望を満たすために任侠道の名を汚していることは紛れもない事実。だから、せめてそういう組員を少なくしないといけないということで麻薬撲滅を標榜している。まず内側から浄化していかないといけないということだ。外部に対して撲滅なんておこがましいことを言っているわけではない。
 不良外国人たちは今、日本のやくざが行き過ぎだと思える法令、条例が施行されて以降、われわれが自粛している間に東京の池袋や新宿、渋谷、あるいは名古屋、大阪などのたくさんの中核都市に組織拠点をつくり、麻薬、強盗などあらゆる犯罪を行っている。これが今後、民族マフィアと化していったら本当に怖くなるだろう。
 こちらもおこがましいが、それらの歯止めになっているのが山口組だと自負している。中部地方の場合、麻薬は全部外国人がやっている。山口組の組員は一切やっていない。名古屋に錦という飲み屋街があるが、外国人を一人も入れていない。かつては外国人がいっぱいで薬物を売ったりしていたが、20年前に閉め出した。そうしたら新栄という街に流れた。
 全部閉め出したら、窮鼠猫を噛むで収拾がつかないのでそこだけは外国人に開放しているが、その地域の治安がものすごく悪い。外国人同士の抗争事件もここの地域だけで起きる。しかも外国人は10代の女の子を標的にしている。1人に薬を渡して、今度はその子らが友達に、と輪が広がっているため、麻薬犯罪の低年齢化が進んでいる。もしわれわれが組織的に麻薬に手を出したら、ある程度の矜持といったらおかしいが、子供には渡さない。しかし、外国人は売ってなんぼだから小学生だろうが全然関係ない。」(注14)


 福岡では全く見うけられませんでしたが、愛知県や東京などでは、以前からイラン人の違法薬物密売グループが活動しています。
 本年も愛知県警や警視庁などがイラン人の密売グループや覚醒剤使用者など多数を検挙しています。
 本年2月の報道によると愛知県内にはイラン人薬物密売組織約10グループが存在し、約60~70人のイラン人密売人が活動しているとのことです(注15)。
 山口組組長の話によると、名古屋市中区錦からは不良外国人を排除したが、同じく中区新栄は解放しているそうです。
 愛知県警は、「錦三」と呼ばれる名古屋市の繁華街錦地区のキャバクラなど風俗店から用心棒代、みかじめ料などを受け取ったとして篠田組長の出身母体である山口組弘道会傘下の組長等を何度も検挙しています。10月27日にも風俗店からみかじめ料を受け取った暴排条例違反で山口組弘道会高山組若頭らを逮捕しています。
 これらを見ると、錦地区は明らかに山口組弘道会の「縄張り」と思われます。
 一方の名古屋市中区新栄地区の路上で、平成10年11月、中国人男性が山口組幹部により射殺される事件が発生しています。報道によると、山口組関係者が経営するカジノバーに中国人グループが出入りし、料金を巡りトラブルを起こしたことが原因のようです(注16)。
 また、平成17年2月には、愛知県豊橋市で覚醒剤を密売していたイラン人が拳銃で撃たれ負傷しました。この事件は平成18年版警察白書の事例4です。この容疑で山口組幹部らが逮捕されていますが、逮捕された組員の一部は「豊橋で覚醒剤を売る外国人に制裁を加えた」など供述しているとのことです(注17)。
 山口組組長の話によれば、新栄は外国人に解放しているとのことです。山口組の力をもってしても新栄地区からの不良外国人排除はうまくいかなかったようです。
 ただ、以上の状況を見ると、「不良外国人排除」と言うよりも、山口組と「不良外国人」とで住み分けが行われていると言って良いのではないでしょうか。
 愛知県警では、イラン人密売組織等に対しても積極的な取締りを進めています。
 令和元年中、薬物犯罪である麻薬等取締法違反で9人、大麻取締法違反で23人、覚せい剤取締法違反で77人、合計109人の外国人を検挙しています。
 そして暴力団構成員等については、麻薬等取締法違反3人、大麻取締法違反39人、覚せい剤取締法違反281人、毒劇法4人、合計327人を検挙しています(注18)。外国人の3倍です。
 愛知県の場合、県内の暴力団は六代目山口組かそれから分裂した神戸山口組のいずれかだと思います。「中部地方の場合、麻薬は全部外国人がやっている。山口組の組員は一切やっていない」との山口組組長の話でした。その後は状況が変化したようです。

 外国人犯罪の現状と暴力団

 山口組や工藤會に限らず、多くの暴力団が「不良外国人排除」「不良外国人との交際禁止」を標榜してきました。しかし、それらは以上のように建前にすぎません。
 暴力団対策法が制定された当時、暴力団対策法に反対する人達は、暴力団がいなくなれば外国人マフィアなど不良外国人の活動が活発化するなどと主張していました。
 外国人犯罪について、平成16年までの数値を見ていただきましたが、次は最新のデータに基づくグラフです。
 実は外国人犯罪検挙人員のピークは平成16年中でした。
 図4のとおり、昨年の外国人入国者は実に3,119万人、在留外国人は293万人と大幅に増加しましたが、犯罪を犯し検挙される外国人はむしろ減少しています。
 入国者数や在留外国人数から計算すれば、むしろ日本国内で犯罪を犯す外国人の比率は減っています。

  図4 在留外国人数・外国人入国者数と来日外国人検挙人員の推移(昭和55年~令和元年) 外国人犯罪グラフ
 図5は、暴力団員と暴力団準構成員等の合計数である暴力団勢力と、全国で発生した刑法犯認知件数の推移のグラフです。
 実は、外国人犯罪が多かった平成16年前後は犯罪そのものが過去最高だったのです。ピークは平成14年(2002年)中で全国で285万3,739件もの事件が発生しています。110番も増加し、警察はその処理に追われていました。この年の3月から1年間、私は福岡県内でも最も事件が多発していた博多警察署の刑事管理官を命ぜられましたが、まさに署員は事件処理に忙殺されていました。
 単に外国人犯罪が増加していっただけではなく、我が国の治安が悪化する中、大幅に増加した来日外国人の中に犯罪に走る者も多く出て来たのが実態ではないでしょうか。
 暴力団勢力のピークは昭和38年(1963年)中で約18万4,100人、同年、全国警察官はそれを下回る13万7,000人でした。
 昭和55年、全国警察が受理した110番件数は約289万件でしたが、平成14年は約890万件でした。110番件数はその後も高止まりし、平成30年(2018年)中も約916万件です。

  図5 暴力団勢力と刑法犯認知件数の推移(昭和21年~令和元年) 外国人犯罪グラフ
 図6のとおり、凶悪犯で検挙される外国人も大幅に減っています。
 暴力団構成員等は減少していますが、凶悪事件で検挙される暴力団構成員等は常に来日外国人検挙人員を大幅に上回っています。

  図6 凶悪事件検挙人員の推移(昭和55年~令和元年) 外国人犯罪グラフ
 暴力団対策法、暴力団排除条例などの法的規制に加え、国民、事業者、行政の暴力団排除意識の高まりと警察の取締り等により、確実に暴力団はその数を減らしています。
 しかし、密輸覚醒剤押収量が昨年中、過去最高を記録したように、暴力団は違法・不当な行為を繰り返しています。そして、「不良外国人」問題についても同様です。
 最近も、次のような事件で暴力団幹部らが逮捕されています。

  報道1 薬物売買「みかじめ料よこせ」、イラン人と暴力団が渋谷で乱闘 

 東京・渋谷で、違法薬物の売買をめぐってイラン人グループと暴力団が乱闘。6人が警視庁に逮捕されました。暴行の疑いで逮捕されたのは、A容疑者(52)らイラン人2人と、六代目山口組系暴力団幹部のB容疑者(34)ら4人のあわせて6人です。警視庁によりますと、東京・渋谷のスクランブル交差点前の路上で、今年4月、A容疑者らがB容疑者らに違法薬物の購入を持ちかけた際、B容疑者が「売買するならみかじめ料をよこせ」と言ったことでもみ合いになったということです。取り調べに対しB容疑者は「間違いない」と容疑を認めているということですが、A容疑者は「誰にも暴行は加えていない」と否認しています(6月10日TBS。報道では実名)。

  報道2 暴力団が不法残留ベトナム人働かせ…暴力団3人逮捕 

 不法残留していたベトナム人4人を違法に働かせたとして、指定暴力団住吉会系三次団体幹部の男ら3人が逮捕されました。警視庁によりますと、出入国管理法違反の疑いで逮捕されたのは、指定暴力団住吉会系三次団体幹部A容疑者ら男3人で、今年1月ごろ、不法残留していたベトナム人4人を、神奈川県内の建設関係会社で土木作業員として働かせていた疑いがもたれています。森⽥容疑者らはベトナム人4人をこの会社に紹介し、賃金のおよそ4割を得ていたということです。また、別の会社にも在留資格のないベトナム人らを紹介していたとみられ、調べに対し、A容疑者は「ベトナム人を紹介したことはない」などと容疑を否認しているということです(9月16日日本テレビ。報道では実名)。


 暴力団はこのように時に外国人を食い物にし、時に共に犯罪行為を繰り返してきました。そして暴力団側の利権に関わる場合は組織暴力で対抗してきた、それが暴力団の「不良外国人排除」の実態です。

     令和2年11月17(火)

【注】