暴力団壊滅、道半ば

 暴力団が減ると「半グレ」がのさばる?

 令和元年6月以降、大阪の吉本興業所属芸人の「反社会勢力」相手の「闇営業」がメディアの注目を浴びました。
 「反社会勢力」の中には、メディアが「半グレ」と呼ぶ準暴力団(※1)なども含まれています。
 「半グレ」なる珍妙な言葉は、暴力団関係の著述が多い、ジャーナリスト・溝口敦氏が使用したのが初めてでしょう。
 同氏が平成23年に書いた『暴力団』(新潮社)では、「『半グレ』は堅気とヤクザとの間の中間的存在であること、また『グレ』はぐれている、愚連隊のグレであり、黒でも白でもない中間的な灰色のグレー、グレーゾーンのグレー」だそうです。
 正直、なんで「半」グレなのかよくわかりません。彼らの行為は暴力的集団を背景とした犯罪です。半分ではなく本物の愚連隊、つまり、暴力団対策法以前の暴力団定義にあった青少年不良団(愚連隊)そのものではないかと思います。
 愚連隊そのものは、明治時代から使われており、元々は窃盗を主とした青少年不良団でした(※2、3)。その後、暴力性を強め、終戦後の混乱期から昭和30年代にかけては、従来の博徒(ヤクザ)を圧倒することもありました。そして、戦前からの博徒(ヤクザ)、的屋系暴力団、愚連隊が一体となって「ヤクザ」を自称するようになったのが現在暴力団です。
 暴力団ではない彼らが、暴力団対策法や暴力団排除条例の適用を受けないのは当然です。しかし、彼らがやっているニセ電話詐欺や恐喝行為等は犯罪です。
 しかし、暴力団がかってないほど打撃を受けていることは間違いありません。暴力団員そのものも大幅に減少を続けています。暴追センターに対する相談を見ても、以前のような暴力団の威力を前面にした違法・不当行為はほとんどありません。
 いつの世にも犯罪集団は存在します。狼の群れと言ってもいい暴力団が、表だった活動を控え、嵐の過ぎるのを待っていることを良いことに、その隙にのさばってきた野良犬集団が準暴力団ではないでしょうか。
 とはいえ、準暴力団が市民に不安を与えているのは事実です。準暴力団に対しては、警察によるさらなる実態解明、徹底的な取締りをお願いしたいと思います。

 違法薬物と暴力団

 あまりメディアでも注目を浴びていませんが、暴力団の大きな資金源である違法薬物の密売は危機的と言って良い状況です。
 6月、静岡県の港で警視庁が覚せい剤1トンを押収し、中国籍の男ら7人を逮捕しました。島国である日本への覚せい剤等の違法薬物密輸には、外国人が多く関与しています。そして、国内で違法薬物を組織的に密売しているのは誰でしょうか。言うまでも無く暴力団です。
 現役当時、特定危険指定暴力団・工藤會対策に従事してきましたが、工藤會の「縄張」である北九州地区では、覚せい剤だけではなく、危険ドラッグ、以前はシンナー密売にもほぼ100%、工藤會が組織的に関与していました。
 全国での覚せい剤の押収量が最も多かったのは、平成11年中の1.97トンでした。しかし、平成28年中は、これに次ぐ1.49トンと、以後毎年1トンを超えています。
 今年の覚せい剤押収量は間違いなく過去5番目以上となります(※4)。しかも末端価格はむしろ低下しています。
 暴力団勢力は減少を続けていますが、覚せい剤で検挙された暴力団員等は微減に止まり、暴力団員等の比率が増加しています。
 特に危機的なのが、大麻事件検挙者の急増です。平成29年、過去最高を記録しました。昨年は更にこれを更新し、過去最高の3,578人が検挙されています。
 しかも、10代、20代の検挙者が急増しています。10代の大麻事件検挙者も昨年は過去最高の429人でした。最近でも中学生が検挙されるなど大麻乱用が若者に広がっているようです。
 大麻の危険性は科学的に明らかになっていますが、大麻は危険性が少ないという誤解が強く残っているのも一因かもしれません。
 暴力団の威力を前面に出した彼らの資金源獲得活動は大幅に減少しています。しかし、覚せい剤事件や大麻事件の検挙状況を見ても、彼ら暴力団が違法薬物の組織的密売から手を引くことは決してないでしょう。
 山口組を初め、恐らくすべての暴力団は、表向き覚せい剤等の違法薬物を厳禁しています。それが建前以外の何物でもないことは、覚せい剤事件検挙者等に占める暴力団構成員等の高い比率を見れば一目瞭然です。
 組員約40人の、ある山口組二次組織では、その約半分が覚せい剤の前歴を有していました。ある幹部などは11回の前歴を有していました。覚せい剤で検挙され、報道されると一旦は「破門」としますが、刑務所から出所すると再び「復縁」していたのです。

 福岡県暴力追放運動推進センターホームページの動画コーナー

 福岡県暴力追放運動推進センターでは、ホームページに動画コーナーを設け、暴力団に関する短編動画を公開しています(※5)。
 昨年も「違法薬物と暴力団」を公開しましたが、本年もその続編を制作し公開しています(※6)。
 資金獲得のためには、暴力団の威力を背景に、違法薬物密売やニセ電話詐欺など何でもやる、それが現在の暴力団です。
 暴力団壊滅、未だ道半ばです。微々たるものですが、これからも暴力団壊滅を目ざし、暴力団の真の姿について積極的に情報発信を行ってまいりたいと思います。

 令和元年10月「全国センターだより」第92号より

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