暴力団は「消滅」するのか

 昨年末(平成28年末)の暴力団勢力(暴力団構成員及び準構成員等の数)は、全国、福岡県内、何れも統計上、最低を更新しました(注1)。
 ベストセラーになった『暴力団』(平成23年、新潮社)の著者・溝口敦氏は、「遠からず暴力団全体が総会屋の運命をたどろう。実質、消滅である」と発言していました(注2)。
 「遠からず」というのは、「近いうち」ということです。それは2、3年後でしょうか。それとも5年後、10年後のことでしょうか。『暴力団』の中で同氏は、全国の暴力団勢力が暴力団対策法施行後、横這い、あるいは微減傾向にあったことを捉え、「暴力団員がゼロになれば、捜査員は直ちに失職します。彼らは暴力団員にいてもらわなければなりません」「そのためか、毎年刊行される警察庁の『警察白書』では、暴力団の構成員が減ると、準構成員が増えるなど、合計では横這いか微減という傾向が見られます。警察も暴力団の総計を減らしたくないのだなと感覚的に分かります」と書いておられました。
 平成23年、暴力団排除条例が、全国で施行された以降、暴力団勢力は年々減少しています。それを「感覚的」に捉えると、「暴力団消滅」となるのかもしれません。  

 「テロ等準備罪」と国際組織犯罪防止条約

 本稿取りまとめ中、テロ等準備罪処罰法案が、衆議院を通過し、参議院で審議中です。
 個人の意見は差し控えますが、テロ等準備罪(共謀罪)が必要とされた経緯等についてご紹介したいと思います。テロ等準備罪は、突然登場したわけではなく、既に過去3回、国会で審議されています。
 テロを含む組織犯罪を未然防止し、これと戦うための国際的枠組みである国際組織犯罪防止条約(TOC条約)が平成12年(2000年)に国連で採択されました。同条約締結については、平成15年に国会で承認され、既に187か国が批准しています。  

 「後戻りのための黄金の橋」

 福岡県警による地道な捜査により、工藤會トップらによる凶悪事件が検挙され、現在、公判が進んでいます。その多くで、実行犯人など末端暴力団員が自ら罪を認め、正直に供述しているようです。ただ、刑事手続き上、組織的殺人等の凶悪犯に関与していれば、簡単には刑を軽くすることができません。
 来年6月までには、改正刑事訴訟法による「協議・合意制度」が実施されます(注4)。
 組織的薬物犯罪等に対して、指示者等、他人の刑事事件について真実を供述等した場合、求刑を軽くしたり、起訴猶予等が可能となります。ただ、組織的殺人等は含まれていません。この制度を適正に活用し、ぜひ組織的殺人等にも適用していただきたいものです。
 刑法の中止未遂は「後戻りのための黄金の橋」と呼ばれています。実行着手後、自らの意思で犯罪を中止し未遂となった場合、刑は必ず減刑又は免除されます。
 今回、審議中のテロ等準備罪では、テロリストや暴力団員が、実行着手前に自首したときは、中止未遂同様に刑が減刑又は免除されます。「黄金の橋」が一つ増えるのです。新たなテロ等準備罪では、準備行為が行われても、着手前に自首すれば、市民が被害にあったり、暴力団員等が加害者となる前に、事件を防止することが可能となります。
 溝口氏の読みどおり暴力団が「消滅」すれば、暴追センターも無用となります。一市民として喜ばしいことです。ただ、5年や10年で暴力団が「消滅」するとも思えません。たしかに、福岡県内では、県民、行政、警察一体となった対策が着実に効果を上げています。しかし、彼ら暴力団側は首をすくめて、嵐が過ぎ去るのを待っています。暴力団の存在しない福岡県を目指し、引き続き、福岡県暴力追放運動推進センターに与えられた任務を遂行してまいります。引き続きご支援ご協力をお願いいたします。

 平成29年6月「県民の絆」第52号(福岡県暴力追放運動推進センター)より

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