暴追ネット福岡について

 かつて、暴力団による市民・事業者襲撃等事件が相次ぎ、「暴力の街」「修羅の国」と呼ばれた福岡県。これら多くの事件に関しては、平成26年9月以降、福岡県警による取締りにより、特定危険指定暴力団・工藤會の総裁、会長ら多くの暴力団員らが検挙、起訴され、襲撃事件は激減しました。工藤會を初め県内暴力団もその勢力を大幅に減らしています。
 しかし、暴力団壊滅へは道半ばです。
 一昨日の8月15日は終戦記念日でした。昭和16年12月、日本軍は真珠湾攻撃に成功し、米国との全面戦争に突入しました。しかし、一つの作戦で大戦果を挙げたから戦争に勝利できるというものではありません。工藤會に大打撃を与えたからと言って暴力団全体が壊滅に向かうとは思えません。そう考える理由は、暴力団は決して馬鹿ではない、常に学んでいるということ、そして何よりも暴力団に対する市民の意識です。
 全国の暴力団は、全国で唯一特定危険指定暴力団に指定された工藤會がどうなったか、特定抗争指定暴力団に指定された道仁会と九州誠道会(現・浪川会)がどうだったか、しっかりと学んでいます。
 現代の暴力団はすべてヤクザを自称し、仁侠団体を標ぼうしています。そして、それを利用、容認し、あるいは美化する人たちも存在しています。
 暴力団について、どのように考え、あるいはどのような意見を主張しても、それは自由だと思います。
 ただ、暴力団については、その現実に目を背け、事実に基づくことなく、あるいは単なる思い込みによる論説があまりに多いように感じます。イソップ物語のコウモリではありませんが、Aという暴力団を取材したときはそのA暴力団の言うがまま、別のB暴力団を取材した時はB暴力団の言うがまま。あちらにつき、こちらにつく暴力団問題の「専門家」もいるようです。
 暴力団の内部闘争や抗争事件は描かれても、彼らの資金源の実態、そして暴力団の卑劣な暴力事件の被害者、組織のために心ならずもそれら暴力事件を敢行した暴力団員らについて触れられることはほとんどありません。
 私は、平成28年に福岡県警察を定年退職した元警察官です。
 警察官としては、主に暴力団対策に従事してきました。そして、その中で、「なぜ暴力団が存在し続けているのだろう」という素朴な疑問を抱き、暴力団、ヤクザの歴史、警察の暴力団対策の歴史について自分なりに勉強してきました。
 暴力団対策法が制定された後の平成7年春から平成10年春までの3年間は警察庁に出向し、指定暴力団の指定、事件情報以外の暴力団情報の分析を担当しました。その中で福岡県以外の指定暴力団についても学びました。その結果は暴力団はしょせん暴力団ということでした。
 暴力団対策に従事する警察官、警察職員でも、暴力団の歴史について直接学ぶ機会はまずありません。
 暴力団に関する社会学的研究としては、昭和38年に出版された社会学者・岩井弘融氏の『病理集団の構造~親分乾分集団研究』(誠信書房)があります。総合的、歴史的研究については同書が唯一と言って良いと思います。
 ただ、『病理集団の構造』は、暴力団が大きな社会的問題となって、全国警察による一斉取締り「第一次頂上作戦」が行なわれた昭和39年以前の調査等に基づいています。
 以後、私と同じ福岡県出身の廣末登氏のように、暴力団への加入、離脱支援の分野等で積極的に取り組んで来られた方々がいらっしゃいます。しかし残念ながら『病理集団の研究』に匹敵する歴史的、総合的な研究はないようです。
 私は、現役時代、広報窓口も務めるようになってからは、メディアの皆さんに積極的に情報を発信してきました。
 暴力団は壊滅すべきだし、それは可能と思っています。そのために、限られた知識、経験ですが、これからも積極的に情報を発信したいと考えています。ただ、そこにはどうしても個人としての視点、主張が混じってしまいます。ならば、個人の責任で情報を発信しよう。そう思って立ち上げたのが本ネットです。
 本ネットの記事はあくまでも私個人の意見・主張であり、現在所属している公益財団法人福岡県暴力追放運動推進センター、そして福岡県警察のものとは別個のものです。
 暴力団について何もかも知っているわけではありません。限られた知識、経験に基づく情報に過ぎません。とは言え、暴力団について関心のある方、より正確な情報を知りたいとお考えの方たちの参考にしていただければ幸いです。

8月18日北九州市「市民暴排の日」を前に 令和元年8月17日(土) 暴追ネット福岡代表 藪正孝

 運営者経歴

 藪正孝(やぶ・まさたか)
 1956年、北九州市戸畑区生まれ。1975年4月に福岡県警察官を拝命。主に刑事部門、暴力団対策部門に従事。 2003年3月、捜査第四課に新設された北九州地区暴力団犯罪対策室副室長への就任を皮切りに、主に指定暴力団「工藤會」対策に従事した。 2016年2月に県警本部地域部長で定年退職。同年4月から2021年9月まで、公益財団法人福岡県暴力追放運動推進センターで専務理事を務める。 2019年に、暴力団に関する正確な情報を発信するため当サイト「暴追ネット福岡」を開設した。 著書に『県警VS 暴力団 刑事が見たヤクザの真実』(文藝春秋)。『福岡県警工藤會対策課』(彩図社)