生物のコロニーの移動に想う

今週は二回の徹夜がたたってカゼをひいてしまった。典型的な喉風邪で、今のところ鼻風邪に転移してはいない。年を経るごとに風邪をひかなくなったと前にどこかに書いたが、いったんひくと鼻風邪や発熱風邪にひととおり転移してから治癒することが多くなった。今回は喉風邪だけで終わるといいのだが。

ところで、喉風邪のときはそれ用の薬を飲むので、ビールスはそれから逃げるように鼻風邪になるように感じる。そうなれば鼻風邪用の薬を飲むので、ビールスはそれから逃げるように他の風邪になったり喉風邪に戻ったりするように感じる。実は風邪だけでなく、若い頃は水虫になったりしたことがあるが水虫も塗り薬から逃げるように場所を変えているように思える。前からそのことが不思議だった。

生物のコロニーは、生存に適する環境には行くが、適さない環境には出向かない。一つの仮説として、生物はやみくもに全方位等しく蔓延しようとして、単に不適環境の方向にはそれに失敗し、最適環境の方向にはそれに成功する、という考えもあろう。しかし、それにしてはもっと「不適環境からは積極的に逃げ、最適環境に攻め込んでいる」ように見えてしかたがない。逃げ道が見つかったら安心して不適環境から撤退しているようにも見える。風邪は人にうつすと治るという風説を信じているわけではないが、それに近い動きを細菌やビールスに感じることがある。

そこで、新仮説を二つ考えた。
一つは、「適不適の絶対値だけに感じているのでなく、そのgradient(勾配)にも感じているのではないか」ということだ。つまり空間微分をして、そっちに行くと薬や白血球が濃くなるぞというときは、そちらに行こうとしないのではないか。逆にこっちは栄養が濃くなる方向だぞというときはこちらに来ようとする。こうして積極性が増すのだ。人間だって何かヤバい臭いを感じたとき、微小に動いてみてどちらの方向から臭いがするか割り出したならば、まだその臭いの絶対値が耐えられる程度に弱くても、臭いの減る方向に逃げるではないか。

もう一つの仮説は(これは上記の仮説より信憑性は疑問だが)仲間がハッピーに蔓延していることが何らかの化学物質信号として発せられ、それを検知すると安心して、薬や白血球との闘いの最前線から撤退する、というものである。ある意味で、遠方での味方の勝利を聞いたらそれに希望を託して、その場は頑張らずに負けるということだ。
もちろん私はこの二つの仮説を、だいたいその道の専門でもないので、強く主張するものではない。

実は上記の一番目の仮説「絶対値だけでなく傾向も検知しているのでは」について、少しその道を研究している人に話してみた。そしたら、「それは常識だ。そう考えられている」ということだった。

少し気をよくした私、二番目の仮説についても訊いてみようかなという気になっている。しかしこれはちょっと荒唐無稽かもしれない。


[最終稿:2012年2月11日]


科学の間に戻る
詠里庵ホームに戻る