第342話「影4」
 
「でね、トキくんとも話してたんだけど、やっぱりこの後ろのところをばっさり変えちゃおうかと思うの」
 アキが真剣に話している。
 少し疲れてるみたいで、声のトーンが落ちてるのが気になった。
「どう?」
 俺は肯定する。
「アキの好きなように変えていいよ」
「良かった。もうね、トキくんには弾いてもらっちゃったんだけど……」
 
 ああ、アキ……。
 俺にはお前だけだ。
 
「コウちゃん?聞いてる?」
「アキはかわいいなあ」
「もう!」
 プリプリ怒ってしまった。
「コウちゃん、疲れてるんじゃない?今日はこれくらいにした方がいいよ。アキちゃんも休まないと喉によくないよ」
 トキが、実に良いタイミングで終わりを告げた。
 俺たちは、トキと別れスタジオを後にする。
 
「お腹空いちゃったねー。ご飯どうしようか?」
「アキが食べたい」
「こらっ!」
 頬を染めて睨んでもダメだよ。
 俺はアキの腕を掴んで引っ張った。
 よろめくアキを抱き締めて、そのままキスを…。
 一瞬だけ合わさった唇は、柔らかく俺の心を溶かしてくれた。
 アキは、すぐに俺から離れた。
「もう!外でそういうの止めて!」
「もうしちゃったもーん」
 俺は笑った。
 
 軽くなればいい。
 この心が、もっと軽くなればいい。
 
『こういちぃ…』
 
「なー、アキ。コウイチって呼んで」
 アキの耳元に小さく囁いた。
「やめてってば」
「いいじゃんよー。乱れると呼んでくれるのになー」
「………コウちゃん!」
 
『こういちぃ…』
 
 今日はいつまでも、俺を呼ぶ声が聞こえる。
 
 
『こういちぃ…』
『こういちぃ…』
『こういちぃ…』
 
 
「ねーあきー、コウイチって呼んでよ?」
「知らないっ」