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データーシートを使って
超3極管接続Ver.1の特性図を描いてみようのコーナー

超3極管接続した個々の真空管のグリッド電圧、プレート電圧、プレート電流の状態が解る特性図を、インターネットで簡単に入手できるデーターシートから作成することができます。
この特性図を作成する過程で、ドライブ電流とプレート電圧の関係とか、プレート電圧の変化に対するプレート電流の変化の程度とかを詳しく理解することができます。
真空管の特性の違いを生む原因が理解できれば、様々な真空管による超3極管接続の特性の傾向が、おおよそ把握できるようになります。

  超3極管接続Ver.1特性図の測定回路

[図1] 超3極管接続Ver.1特性図の測定回路

V1 電圧帰還用3極管 V2 電流増幅用5極管
EP1 V1のプレート-カソード間電圧 EP2 V2のプレート-カソード間電圧
EG V1のグリッド-カソード間電圧 ECG V2のコントロール・グリッド-カソード間電圧
IP1 V1のプレート電流 IP2 V2のプレート電流
ID ドライブ電流 ESG スクリーン・グリッド電圧
RK カソード抵抗 IG V2のコントロール・グリッド電流

図1は超3極管接続Ver.1の特性図を作成するに必要なデーターを得るための測定回路です。
IDは0から段階的に増すことができる可変電流源で、EP2は測定のたびごとに0から徐々に上げることができる可変電圧源です。
特性図は、IDを0から段階的に増やし、その都度EP2を0から徐々に上げて、その時のIP2の変化を記録したものを作成します。
本来はこの回路の通りに配線して実測データーを取るべきですが、ここではV1とV2の公表されているデーターシートのEP-IP特性図から、数値を読み取って作成します。
V1は負バイアスで動作する3極管なら何でも適応でき、3極管特性のV-FETもV1として利用できます。
V2は5極管に限らず3極管でもかまいませんが、V2にグリッド電流IGが流れる場合は、IP1=ID+IGとなることを考慮してください。V2としては他にバイポーラトランジスターやMOS-FET等も応用できます。

特性図の作成方法を説明するために、実際例としてSvetlanaのホームページで公開されている 6BM8のデーターシートを使用しました。
このデーターシートはPDFファイルであるため、アクロバットリーダーという閲覧用のソフトを必要としますが、図を拡大しても文字やラインがくっきりしているので、細かな読み取りができて便利です。
Windowsの場合、図の全体をディスプレイに表示し、Print Screenキーを使ってペイント等の描画ソフトに貼り付けることで、ライン等の描き込みがパソコン上で行えます。

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V1の動作ライン

図2は6BM8 3極部の特性図にV1の動作ラインを書き込んだものです。図のVP, Vgは文章中のEP1, EGに相当します。

[図2] 6BM8 3極部の特性  PDFファイル(36KB)

EGの値は EG=ID・RKで、V2にグリッド電流が流れない場合は IP1=ID ですから、 IP1=EG/RKとなります。
EGに対するIP1を求めて、V1特性図のEGのライン上にIP1のポイントをマークして、曲線で連結したものがV1動作ラインです。
そして、そのIP1のポイントからEP1の値を読むことができます。
表1はRK=5kΩとした場合のEGに対するIP1と、図2のV1動作ラインから読み取ったEP1の値を記入したものです。

[表1] RK= 5(kΩ)の場合の、V1動作ラインの数値データ

EG (V) 0 -1 -2 -3 -4 -5 -6 -7 -8
IP1 (mA) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
EP1 (V) 0 44 103 163 218 275 328 376 433

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V2の動作ライン

図3は6BM8 5極部の特性図にV2の動作ラインを書き込み、完成した超3極管接続図です。図のVP, Vg1は文章中のEP2, ECGに相当します。

図1を見て分る通りEP2=EP1+ECGですから、ECG= 0V の時はEP2=EP1であり、ECG=-1V の時はEP2=EP1-1V、ECG=-2V の時はEP2=EP1-2Vという様になります。
図3のECGのライン上にEP2のポイントをマークして、曲線で連結したものがV2動作ラインであり、強烈に低い内部抵抗を誇る超3極管接続の特性です。

[図3] 6BM8 5極部の特性 (ESG=100V)  PDFファイル(46KB)

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表2に図3から読み取ったV2動作ラインの数値データーを示します。

[表2] V2動作ラインの数値データー

ID (mA) EG (V) ECG (V) 0 -1 -2 -3 -4 -5 -6 -7 -8 -9 -10
0 0 EP2 (V) 0                    
IP2 (mA) 0                    
0.2 -1 EP2 (V) 44 43 42 41 40 39 38 37 36 35 34
IP2 (mA) 50.8 39.9 29.7 21.8 15.3 9.5 5.3 3.7 1.3 0  
0.4 -2 EP2 (V) 103 102 101 100 99 98 97 96 95 94 93
IP2 (mA)   45.7 36.3 28 21.2 14.6 9.6 5.4 3.1 1.2 0.3
0.6 -3 EP2 (V) 163 162 161 160 159 158 157 156 155 154 153
IP2 (mA)     40.3 31.6 24.3 17 11.4 7 4.2 1.7 0.8
0.8 -4 EP2 (V) 218 217 216 215 214 213 212 211 210 209 208
IP2 (mA)       34.4 27 19.1 13.2 8.5 5.3 2.7 1.3
1.0 -5 EP2 (V) 275 274 273 272 271 270 269 268 267 266 265
IP2 (mA)         29.7 21.5 15.1 10 6.5 3.5 2.9
1.2 -6 EP2 (V) 328 327 326 325 324 323 322 321 320 319 318
IP2 (mA)           23.7 17 11.4 7.7 4.2 2.7
1.4 -7 EP2 (V) 376 375 374 373 372 371 370 369 368 367 366
IP2 (mA)             18.8 12.8 8.9 5.1 3.2
1.6 -8 EP2 (V) 433 432 431 430 429 428 427 426 425 424 423
IP2 (mA)                 10.4 5.3 4

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特性図の活用法

図2のV1動作ラインを見ると、EP1のポイントがほとんど等間隔であることに気付かれると思います。これはEGの変化に対するEP1の変化の大きさの度合いである電圧増幅率 μ が一定であることを意味しています。
ちなみに μ=ΔEP1/ΔEGですから、図2のEGが-3Vから-4Vに変化する部分では、EP1が163Vから218Vまで変化しているので、EGの変化は1Vで、対してEP1の変化は55Vなので、μ=55/1=55です。
3極管はEGが深くなるに連れて特性曲線の間隔が詰まって来るため、カソード接地回路では、出力電圧の−側の振幅よりも+側の振幅が小さくなり第2高調波歪みを発生します。その点、図1の超3極管接続Ver.1の回路は電圧増幅歪みが少ないといえます。但し、初段の直線性が悪くてIDが歪んでいたら、せっかくの超3極管接続Ver.1も台無しです。

図2のV1動作ラインのEP1のポイントの間隔は、EGの変化に対するEP1の変化を表してますが、入力信号はIDであるため、IDの変化に対するEP1の変化を見る必要があります。といっても、ID=EG/RKの関係にあるため 図4のようにV1動作ラインはそのままで、EGをIDに置き換えるだけのことです。
IDの変化に対するEP1の変化の値がΔEP1/ΔIDであるために、V1の回路は真空管抵抗と呼ばれますが、現代的な表現ではI-Vコンバーターであり、ΔEP1/ΔIDはトランスインピーダンスです。

[図4] EGをIDに置き換えたV1動作ライン

図3のV2動作ラインの傾きは出力抵抗を表し、垂直に近いほど出力抵抗が低くなります。
作図している間に気付かれると思いますが、V2の特性曲線の縦の間隔が詰まって来ると、V2動作ラインの傾きが寝て来ます。特性曲線の縦の間隔はV2の相互コンダクタンスgmであり、間隔が広いほどgmが高いことを意味します。つまり、V2のgmが高いほど出力抵抗が低くなるわけです。

gmは入力電圧の変化に対する出力電流の変化の大きさですから、超3極管接続のgmはΔIP2/ΔEGで求めることができます。
図3で同じEP2を通る2つの動作ラインがあれば特性図から直接に超3極管接続のgmを求めることは可能ですが、見ての通り垂直に近い動作ラインであるため、こればっかりは特性図もお手上げです。
ただ少し面倒ですが、理論上V1のμとV2のgmを掛け算した値が超3極管接続のgmとなるので、V1の特性図からμを求めて、V2の特性図からgmを求めて、掛け算をして求めることができます。

[図5] V1をRPに置き換えた回路

[図6] V1(RK=5kΩ)とRP=270kΩの動作ライン

図5のようにV1をRK=5kΩの真空管抵抗とほぼ等価の抵抗RP=270kΩと置き換えた場合は、図6の動作ラインの通りになります。
例えばID=0.8mAの状態で、IGが流れるなどでIP1が0.2mA増加し IP1=1mAになる時、RP=270kΩの動作ラインではEP1が216Vから270Vと、54Vも増加します。EP1が増加すればEP2も等量増加するので、V2動作ラインの傾きが寝て出力抵抗が高くなります。
しかし、V1(RK=5kΩ)の動作ラインでは、IGによってIP1=0.8mAからIP1=1mAになっても、ID=0.8mAのEGは-4Vで変わらないため、EP1はEG=-4Vの特性曲線に添って218Vから232Vと、14Vしか増加しませんから、RPの場合より出力抵抗の変化が少ないという効果があります。
V1の特性曲線が垂直に近いほど、即ち内部抵抗が低いほど、その効果は高くなります。さらに、V1にIGが流れないように、V1とV2の間にカソードフォロワーを入れるなど回路を工夫すれば完全です。

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シミュレーションソフトを使って描いてみる

B2Spiceで下図の回路を直流解析しました。

6BM8 3極部のドライブ電流IDを0から4mAまで0.2mA間隔で変化させて、その都度プレート電源電圧VPを0から600Vまで2Vおきに変化させた時の、電流計VIPで測定したプレート電流IPが下図のように描き出されます。
3極部のカソード抵抗が5kΩなので、3極部のグリッド・カソード間電圧が丁度1VおきのVP−IP特性図となっています。
回路のILはIDが0の場合に起きるエラーを回避するためのものです。
6BM8 5極部のスクリーングリッド電圧は200Vの設定です。

VPが高くなるとIPの最小点が増加するのは、IDがIPに加わっているためです。
この図から3極部のグリッド・カソード間電圧が-7Vで、VP=200Vの時、IP=40mA位になるだろうと読めますが、6BM8のモデルが怪しいので、この特性は参考程度にお願いします。

Copyright © 1998 Shinichi Kamijo. All rights reserved.
最終更新日:2002/09/11 22:58:24 +0900