『かいじゅうたちのいるところ』
”Where the Wild Things Are”
モーリス・センダック 文・絵
神宮輝夫 訳
冨山房 1975年
〜「怪獣たちのいるところ」でみんなで一緒に騒ごうよ!〜
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●ストーリー●
ある晩、マックスはおおかみのぬいぐるみを着て大暴れ。怒ったお母さんは、
罰としてマックスを寝室に入れて夕食も抜きにします。面白くないマックス。
すると寝室に木が生えだし、どんどん生えていき、辺りはすっかり木々が生い
茂る森となってしまいました。そこへ、今度は波が打ち寄せ、船のマックス号
がやってきます。マックスは、その船で1年と1日かけて航海し、やがて怪獣
たちのいる所にたどり着きます。すると、ものすごい怪獣たちが現れてマック
スにおそいかかってきました。怒ったマックスは魔法を使ってみんなおとなし
くしてしまいます。それから、怪獣たちの王様となったマックスは、みんなで
踊ったり、騒いだり。やりたい放題のマックスでしたが……。
●この絵本の力●
怪獣―。正体不明の不思議なけものは、それはもう恐ろしいもので人間なん
かいちころです。ところが、本書に出てくる怪獣たちを見ると、どうもそれほ
どでもないらしいのです。恐ろしい声を出しながら、ぎょろぎょろした目に鋭
い歯や爪をむき出してくるのですが、すぐにマックスにやられてしまいます。
センダックの描く怪獣たちはどこか愛敬のある楽しい生き物で親しみさえわい
てきます。子どもたちに大人気のこの絵本は、このかわいらしい(?)怪獣た
ちとマックスのように遊んでみたいと思わせるのでしょうね。想像するだけで、
とっても楽しそうで、ワクワクしてきます。
物語の始まりは、マックスが狼のぬいぐるみを着て大暴れするところから。
いつも母親に怒られているのか、マックスは狼の姿で「おまえを たべちゃう
ぞ!」と言って、母親に仕返しするかのように暴れます。それでもやっぱり母
親に怒られて夕食抜きにされ、当然マックスは面白くないはず。子どもにはや
ることなすことが怒られるようで、面白くない時期ってあると思いますが、そ
ういう時は怒られる理由もそうそう納得できるものじゃありません。だから余
計に反発したくなるのでしょう。そんな気持ちが一気に飛び出して、マックス
は怪獣たちのいるところ、創造の世界を創り出します。そこでは攻撃性の象徴
でもある怪獣たちを征服してしまうのです。今のマックスにとってこんなに楽
しい世界はないはずです。怪獣たちの王様となって、みんなに命令をしたり、
大騒ぎをしたり、やりたい放題。ついには、母親にされたことと同じように、
怪獣たちも「夕食抜き」にしてしまうことで、どうやら想像上での母親への仕
返しは終了したようです。暴れるだけ暴れたら、マックスもやがては空しさに
気付くのですが、自分のいるべき場所に戻ったとき、とっても温かい、あるも
のが待っているのでした。そのときに、一つ大人になったマックスが感じたこ
と、悟ったことと同じように、読み手の私たちも感じるはずです。いつも変わ
らぬ愛情を注いでくれるものがいる、自分にとって一番居心地のいい場所を認
識し、それを大事にしたいと。掛け替えのない温もりに触れることのできる幸
せを実感する1冊です。
●心に残る場面●
怪獣たちのいるところへ行くには、1年と1日かかるようです。行きは意気
揚々と海を渡っていくマックスですが、印象的なのは怪獣たちのいるところか
ら戻るときの場面。暗い海を、たった独りぼっちで船に乗って帰っていくマッ
クスの不安げな表情を満月が照らし出します。本書にたびたび登場する「月」
は一度も姿を見せない母親を思わせるのですが、この場面ではぼんやりと輝く
月がマックスをやさしく見守っているかのようです。1年と1日かけて戻ると
き、マックスは何を思うのでしょう。もう二度と悪いことはしないと思ってい
ても、どうせまたすぐ悪さをして母親に怒られるに決まっています。その時は、
また怪獣たちのいるところへ行くのかもしれませんね。
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