"Swimmy"
『スイミー/ちいさなかしこいさかなのはなし』
レオ・レオニ 文・絵
谷川俊太郎 訳
好学社 出版

  邦訳版 『スイミー』 原書 "Swimmy"
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●ストーリー●
 広い海の中、小さな赤い魚たちが群れになって暮らしていました。その中に一匹だけ黒い魚が。名前はスイミー。ある日、お腹を空かせたマグロがやってきて、赤い魚たちは食べられてしまいました。独りぼっちになったスイミーは、暗い海の底を泳いでいきます。そして、今まで見たことのないものに出会います。クラゲやイセエビ、ウナギ、イソギンチャク……。初めは怖くて寂しかったスイミーでしたが、海には素晴らしいものがたくさんいることを知り、元気を取り戻していきます。やがて、岩陰に小さな赤い魚の群れを見つけます。スイミーは一緒に遊ぼうと誘い出しますが、魚たちは大きな魚を恐れて出てこようとしません。このままでは、いつまでたってもじっとしているだけ。スイミーは考えました。どうすれば、広い海の中で皆一緒に遊ぶことができるのでしょう……。

●この絵本の力●
 『あおくんときいろちゃん』(至光社)、『フレデリック』(好学社)、『さかなは さかな』(好学社)等の絵本作家として日本でも広く知られるレオ・レオニ。グラフィックデザイナー、イラストレーター、芸術家として幅広く活躍していた彼が描く絵本は、政治的社会における芸術家の役割だという哲学のもとに作られていたようです。この『スイミー』もそうでした。一匹の小さな黒い魚は、指導者というわけではなく、他の人にかわってものを見ることのできる芸術家であり、それがスイミーの社会における役割なのだとレオニは語っています(『NHK人間講座 絵本のよろこび』松居直 著、日本放送出版協会より)。スイミーは、芸術家として社会において充分役割を果たしてきたレオニ自身でもあるわけです。
 デザイナーでもあるレオニの絵本では、色彩豊かなユニークなイラストもまた印象的です。イラストを良く見てください。スイミー以外の赤い魚たちはゴム版で押されたものですが、スイミーだけは手で描かれたもので「目」もあります。これだけでスイミーは他の魚とは違った特別な魚であることを意味しており、読み手は一気にスイミーに引き付けられます。このように、レオニのイラストには読み手の心をつかむ配慮がきちんと施されているのです。
 仲間たちがマグロに食べられてからスイミーは独りぼっちになりますが、海の中を泳いでいくうちに、初めて見る世界を体験します。そして徐々に元気を取り戻し強くなっていきます。私たちにも、まだまだ未知のことがたくさんありますが、それらを経験することによって更に成長し続けていくのです。未知の世界を知ることは、私たちを大きくし、そこからは必ずまた何かが新たに生まれるものだと思います。『スイミー』は、そんなことを教えてくれる絵本です。

●この言葉●
 たまには独りになることも大切だと思うのです。そうするとスイミーのように今まで見えなかったことが、思いがけず見えてくることもあるはず。皆と一緒にいる時と独りでいる時では、物事を見つめる「視点」が違うような気がします。スイミーの一言、「ぼくが、めになろう」はとても印象的な言葉でした。レオニが言うように決して指導者という意識からではなく、芸術家としての目ということです。でもそういう目を持つのは芸術家だけではなく、私たちが持ってもいいこと。社会で役割を果たすまで行かなくても、時にはそういう目で物事を見つめるのも必要なのでは? 私自身もそういう目を持って、よい絵本によい訳を付けて行きたいです。そうすることで少しでも社会で役割を果たしていければ本望だと思うのでした。

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