Down with U.S.A!!
 
ブッシュ政権は「人道に対する罪」である
 

   どのような国、組織、個人にも、それぞれが考える「正義」があります。しかし、その「正義」はどれかひとつだけが絶対的に正しく、他はみな間違っているという類のものではないと私たちは考えます。また、同じ国・同じ組織・同じ人であっても、時代環境や周辺状況によって「正義」の質や内容は変わりうるとも考えています。
 たとえば、テレビや新聞の報道を見るかぎり、イツハク・ラビンが首相であった頃のイスラエルとアリエル・シャロンが首相である現在のイスラエルでは、同じ国民がほぼ正反対の世論を持っているように伺えます。

 大切なのは、世界には多様な価値観があり、それらには必ずしも優劣をつけることはできないのだということを、私たちひとりひとりが理解し、その上でどのようにしたら共存できるか、模索する努力を続けていくことだと思います。

 私たちはこのような考えのもとに「エデンの彼方を探しに行こう」を制作してきました。そのため、自分たちの目に映る世界を映るままに素直に紹介するよう努めるとともに、特定の思想やイデオロギーに傾くことをなるべく避け、できるかぎり政治色を排除することを心がけてきました。

 しかし、ある超大国の政治的な変化が、残念なことに文字通り世界を一変させてしまいました。
 ブッシュ政権の登場です。
 成立時の大統領選挙をめぐるトラブルから、権力継承の正当性に疑義を含んだまま発足したこの政権に対しては、最初から一部の人々の間でその行く末を危惧する声がありました。しかし、その危惧がこんなにも早く現実のものになってしまうとは、いったい誰が想像できたでしょう。
 イラク・イラン・北朝鮮に対する「悪の枢軸」発言、アフガニスタンに対する感情的な報復爆撃、国内のイスラム関係者への差別や不当逮捕、そして今回の大義名分なきイラク攻撃。
 彼らは、対話と協調を手段とし平和的解決を旨とする国際社会のルールを半ば確信犯的に破棄し、脅迫と挑発を手段とし軍事的解決を旨とする独善的なルールを一方的に採用したのです。

 ブッシュ政権が国際社会に対して自らの基本姿勢を最も鮮明に表わしたのは、9.11後に行われた次の発言でした。
「我々の側につくか、それともテロリストの側につくか」。

「自分に従わないものはすべて悪と見なす」。そこには寛容も慈悲も相手に対する思いやりも、何もありません。異なる意見に耳を傾けようという謙虚な姿勢を持つこともなければ、悲しみや苦しみの中にある人々に手を差し伸べる余裕もありません。あるのは、世界の中で自分だけが正しいという絶対的な思い上がりだけです。
 第二次世界大戦の反省を踏まえ、国際社会が血の滲むような努力でまがりなりにも築き上げてきた平和と安定を、彼らはあっという間に混乱と憎しみに変えてしまったのです。

 かつて20世紀のヨーロッパにこううそぶく政権がありました。
「ドイツ民族こそが世界を指導する。なぜなら、我々は強く、優秀だからだ」。
 そして彼らは、国際世論を無視する形で他国に侵攻し、夥しい人々を殺し、財産を奪いました。国際社会も彼らの行動を止めることができず、その結果、ヨーロッパは焦土に変わり、その戦火は世界中に拡大することとなったのです。
 後の歴史家によって「人道に対する罪」とまで断罪されたこの政権と、今のブッシュ政権と、どこがどのように違うのか、自信を持って言い切ることがはたして私たちにできるのでしょうか。

 多様な価値観を認めること。互いの立場を尊重すること。「正義」はひとつだけではないと学ぶこと。幸せは暴力によってはもたらされないと思い知ること。
 圧倒的な超大国の軍事力を前にして、ちっぽけな個人に何ができるのか。どうしようもない無力感に包まれながらも、私たちはそれだけは切に訴えたいと思います。

 そして、アメリカ国民の皆さん、自分たちの政治的選択が本当に正しかったのか、もう一度胸に手を当てて考えてみてください。「自由と民主主義」がいかに尊い価値であれ、罪のない人々を、大人から子供まで多くの無抵抗の人々を殺してまで手に入れるそれらに、いったいどれほどの意味があるというのでしょう。
 


 
エデンの彼方を探しに行こう
 

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