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私は電話を人にかけるのが苦手だ。相手の顔が見えないからだ。だからといって、人と話をするのがきらいというわけではない。事実、人から電話がかかってくると長時間話すことはざらにある。
仕事での電話ならかけるのは全くといっていいほど気にもならないが、普遍に人に電話をかけるのがうまくできない。かけるまでに勇気がいるのである。おかげで、電話料金は基本料金を超えたことがあまりない。
幼い頃、私の家(借家)には電話がなかった。必要に迫られたとき、私の家族は電話を近くの家の人に借りてかけていた。といってもさほど電話がなくても困らなかったようである。当時、家から離れたところで商売をしていた両親は、祖父に頼んで幼稚園から帰ってきた私を自転車で迎えにきていた。家の前で幼稚園のバスを降りて、角のたばこ屋に10円玉で仕事場に赤電話をかける。そうすると、祖父が自転車で家まで迎えにくるのである。そのとき、どんなことをしゃべったのか今では全く記憶にない。祖父が私に話した内容もいまではもう覚えていない。
子どもの頃は、電話をかけることは生活の日常になかった。生活の大半は学校で過ごしていた。電話がついても自分から友人にかけることはほとんどなかった。ようするに、当時はそうとうネクラな人間だったのかもしれない。
上京して数年は自分アパートに電話がなかった。2年間は呼び出しの電話があっただけである。必要に迫られて友人にかける以外は電話を利用しなかった。実家には数カ月に一度くらいかけるだけである(その内容はほとんど送金の依頼だった)。友人も増えていくに従って電話は必需品になったが、生活費の関係(金に困っていた)から電話をもつことができなかった。テレフオンカードを人に借りたりして電話を利用するようにしていたのである。
電話をようやく持つようになって、電話をかけることにはじめてドキドキしたのが、女の子をデートに誘ったときである。大学卒業前に数年つきあった女の子と別れることになって、このままではいかんと思い、職場の女の子に電話でデートに誘ったことがある。ずいぶん昔の話である、このときのことはいまでも印象に残っている。顔を見るとなかなか口に出して言えなかったので、電話を通しての誘いとなった。デートらしいデートをそれまでしたことがなかったので、あまりうまくいかなかった。いまでもデートは苦手である。
つきあってた頃、女の子から毎晩電話がかかってくる。遅いときは深夜12時を過ぎていたこともあった。話す内容はといえば、その日1日の出来事である。仕事上のトラブル、職場の人間関係などから、その日に起こった事件の話までさまざまである。毎日毎晩電話が続く。寝ていたときにかかってきた電話に不機嫌に「明日」と言って電話を切ると次の日に怒られる。おかげでなかなか寝付けない日が続いたこともあり、12時以降に電話をかけることをお互いに止めたこともある。毎日向じような話をしていてあきないものなのかと感心してしまった。
母の最期の言葉を聞いたのが電話である。「金を送ってくれんか」の言葉だった。このときの言葉は一生忘れることができないだろう。
なかなか話を切り出そうとしない別れ話。酔っばらってかかってくる電話。何ができるわけでもないのに延々と話が続くこともある。
休みの日に暇をもてあそんでいるときに電話がかかってくるとラッキーである。楽しい暇つぶしの始まり始まり、長卓と、延々と会話が続くのである。
最近は、電話回線を使った電子メールで、コミュニケーションを行うこともあるが、どうも苦手である。メールが届いたかどうか電話してもらったり、電話したり。なんのためのメールなんだろう。
来年は電信機を発明したエジソンが生まれて150年(仕事がらこんなことしか覚えていない。発明したのはエジソンだっけ、ベルだっけ?)だそうだ。
私の電話は、NTTレンタルのピンクのダイヤル電話で、なんの機能も付いていない。
いまや、電話はコミュニケート重要な手段となっている。うまく使いこなせない私に、うまく使いこなすこつがあったら、その方法を教えていただきたいと思っている。
(おわり)