8月29日(土) 「ラッキーショット」

調査地の区域外に、比較的新しい球巣を発見した。器具を使って確認してみたが、巣の住人はどうやら留守らしい。使用していない機材が一台あったので、試しに、設置して観察してみる事にした。

日が傾き、暑い一日がようやく終わろうとしていた。モニターをのぞきながら、効果的なアングルを探る。
ふと、巣の中に何者かの気配がした。いる。カヤネズミだ。胸の鼓動が高まる。私のいる位置から巣までは、わずか1.5m程しかない。にもかかわらず、平気で巣の中に潜り込んできたのは驚きだった。
カヤネズミをはじめ、齧歯類は一般に巣とその周辺のディスターブ(攪乱)を激しく嫌うといわれている。私の不用意な動きが、この偶発的な出会いに水を差すのを恐れ、私は動くに動けないでいた。

調査地はススキやオギが繁茂しており、ヤブ蚊が非常に多い。厚手のGパンなどものともせず、ガンガン刺しまくってくる。調査を始めてからこの方、刺された箇所は一日20個のペースで増えつつある。私は痛いのはともかく、かゆいのは耐えられない質なので、これは苦行にも等しい。

必死でかゆみに耐えながらのぞいているモニターの中で、カヤは毛づくろいを始めた。私の方を少し気にしているようで、時折巣穴から顔をのぞかせ、ハナをひくつかせている。さっき球巣を調べたときに巣穴を若干広げてしまったのだが、かえってそのことが、カヤの行動を観察しやすくしていた。

カヤは体のあちこちを丹念に歯ですき、特に尻尾は念入りに何回も手入れしていた。尻尾は空中生活に適応したカヤネズミにとって特に重要な部分で、茎を上り下りしたり、不安定な葉から葉へ渡るときに茎や葉に巻き付けて体を支えたり、バランスをとったりするのに役立っている。ゴミなどが付いて滑ったりしたら大変だろうから、念入りに手入れするのは当然だろう。

この個体は30分ほどそうやって毛づくろいした後、ふいっと反対側の穴から姿を消してしまった。