7月2日 売られるカヤネズミ

カヤ日記、番外編その2です。

 神奈川県の某ペットショップで、カヤネズミが売られていることが判った。インターネットを通じても販売している。HPには、写真と価格、生態について簡単な紹介が掲載されている。店側の話によれば、イギリスから輸入された個体らしい

 カヤネズミの販売については、これまで聞いたことが無く、非常にショックを受けている。残念なことに、多くの野生動植物の販売は今のところ合法で、このペットショップの行為を止めることは出来ない。カヤネズミを研究し、保全活動を行っている身として、このような現状が悔しい。

 日本のカヤネズミの生息地は、河川の改修工事などで年々減り続けている。そのため、カヤネズミは滋賀県など複数の自治体で「希少種」に指定されている。もしこのまま生息地が減り続ければ、遠からず「絶滅危惧種」になってしまうだろう。

 そういった野生生物が何のとがめも無く販売されていることは問題だし、外国産のカヤネズミが逃げ出して(または故意に放されて)、日本のカヤネズミと交雑することも心配だ。もし交雑すれば、子どもは日本産の親の遺伝子を半分しか受け継がないので、日本の環境に十分適応出来ずに死んでしまうかも知れない。


 また、野生動物にとって、もともと暮らしている環境から引き離されることは非常なストレスになるので、飼育に際しては、その生態を十分知っておく必要があるが、残念ながら、そういった配慮がされているペットショップは非常に少ない(上記のペットショップのHPにも、飼育上の注意書きはない)。

 カヤネズミについて言えば、「集団で飼育されている個体が、ストレスで互いの尾を囓り取ってしまった」という報告を私は何度か受けている。尾の部分が皮膚病でただれてしまった例もある。たまたまカヤネズミを保護した人が、その食性を知らずにチョコレートやチーズを与え続けて死なせてしまったという例もある。

 さらに、他のノネズミ同様、カヤネズミにもダニが寄生しているが、 ダニが媒介するツツガムシ病は人間にも感染する。カヤネズミの罹患率は他種に比べて低いという報告もあるが、ゼロではない。野生動物保護の観点からも、衛生上の観点からも、ハムスターと同じ感覚で安易に飼うべきでは無い。

 カヤネズミに限らず、野生動物の販売は様々な問題を抱えている。解決するには、「法規制」や、 「売る側・買う側の責任」について、もっとたくさん議論が必要だと思う。

 私のHPを見て、「可愛いから飼ってみたい」と思う人もいるかも知れません。でも、私は研究のためにカヤネズミを飼ったことがありますが、小さなネズミとは言え、野生動物を飼育するのはそんなに簡単なことではありません。

 
安易にペットショップで買い求める前に、まず河川敷に出かけて行って、自分の目でカヤネズミの暮らす環境、すみかや食べ物を良く観察してください。そして、出来れば貴方のお気に入りのフィールドを見つけて、そこに通ってみてください。ウォッチャーまでに留めることが、カヤネズミを絶滅から救うことにつながるのです。