パウリの排他律

   パウリの排他原理ともいわれる。1925年、オーストリア出身の物理学者、ヴォルフガング・パウリが発見、確立した近代物理学の基礎に関る物理法則。
   エネルギィなどの物理量は常にその値が連続している訳ではなく、離散的な値を示すことが、ままある。量子論の基礎を築いたデンマークの物理学者、ニールス・ヘンリック・ダビッド・ボーアはそれらの物理量を整数化すべく「量子数」という概念を導入した。例えば原子内の電子の状態は、エネルギィを示す「主量子数」、角運動量の大きさを示す「方位量子数」、角運動量の方向を示す「磁気量子数」、そして素粒子としての電子自身が持つ固有の角運動量を示す「スピン量子数」という四種類の量子数によって表される。
   パウリはこの量子数の可能である組み合わせについて、一個ずつしか電子が存在し得ない、言い換えれば「多量の電子を含む系で、二個以上の電子が等しい量子状態をとることはありえない」ことを発見したのである。これにより一個の原子が持つことのできる電子数を完全に説明することが可能となり、電子数によって原子の性質が異なることを示す原子周期表を裏付けることとなった。
   後年、物理学者、ポール・エイドリアン・モーリス・ディラックが波動方程式の負の解を説明するためにパウリの排他律を引用している。電子のエネルギィ状態を表す波動方程式は正、負両方の解を持っている、つまりエネルギィにマイナスの状態があることを示していた。ディラックは当初負の解を非物理的な現象として考慮から除外してしまったが、正から負へのエネルギィ遷移が可能であるというクラインの指摘を受け、パウリの排他律を引用して矛盾ない説明を行なった。すなわち、あらゆる量子状態は初めから負のエネルギィ状態の電子で埋め尽くされているとしたのである。ここで電子が電子が負のエネルギィ状態になろうとしても、負のエネルギィでの量子状態は既にいっぱいであるため、パウリの排他律によって禁止を受けてしまう。この負のエネルギィ状態の電子で埋め尽くされた空間が某アニメで語られた「ディラックの海」である。
   その後、パウリの排他律は原子に拘束された電子のみならず、自由電子や陽子、中性子といったスピンが1/2の半端を持つ全ての素粒子に対して例外なく適用が可能であることが発見された。しかしパウリの排他律が適用されない素粒子も存在する。適用されるかいなかの境界条件はいまだ不明ではあるが、素粒子にパウリの排他律が適用される場合とされない場合においては、同じ量子状態に複数の素粒子を置けるか否かという重大な差異が生じる。そのため素粒子はスピンによって二つ、すなわちスピンに1/2の半端がありフェルミ=ディラック統計に従う「フェルミオン」と、スピンが整数でボース=アインシュタイン統計に従う「ボゾン」にグループ分けされている。フェルミオンは原子を構成するごく普通の物質である。Gストーン搭載型の勇者達もフェルミオンでその身体が構成されている以上、同じ量子状態、つまり同じ空間に二つ以上重ねあわせておくことはできず、超竜神は巨大隕石と共に消滅してしまうはずであった。
   しかし意志に感応し、時空をも超越する謎の無限エネルギィ「ザ・パワー」の力によって超竜神は巨大隕石と共に6500万年前の地球圏へと転移したのである。これによって2億年弱にも及んだ長い恐竜の時代に終止符が打たれ、地球は新たな生態系をその身に宿すこととなる。