生体が自己にとって健全な成分以外のものを識別して排除する生理的防衛機能。人間の場合、体内に病原性微生物、ウィルスや細菌が侵入するとまず、好中球やマクロファージがこれを捕食するのだが、ウィルスや細菌の増殖速度が好中球やマクロファージの捕食速度を上回る場合がある。その際に活躍するのがT細胞である。T細胞はマクロファージが捕食した病原性微生物をリンパ節において分析、過去のそれとの照合を行い、B細胞に指令して「抗体」を生成させる機能をもつ(これを特に「ヘルパーT細胞」と呼ぶ)。かつて捕食したことのある病原性微生物であれば、以前のデータをもとにより迅速に抗体を生成でき、その毒性に対して特異的に抵抗力が増すことになり、一般にこれを「免疫がある」状態という。
またウィルスは自ら分裂することはできず、人体の細胞を利用して増殖するため、このウィルスの侵入した細胞を丸ごと破壊してウィルスの増殖を防ぐ「キラーT細胞」、病原性微生物の活動が停止したのを確認し、一連の免疫機能を一時停止させる「サプレッサーT細胞」などが、T細胞の主なものとして挙げられる。こうした免疫は主にウィルス細菌感染の防御に用いられ、体液性免疫と呼ばれる。一方リンパ球自身が異物を攻撃する細胞性免疫があり、これは主に移植片に対する拒絶反応といわれる。
獅子王凱は、2003年のEI−01と接触により重傷を負い、その身体の90%までを機械化している。ガイ本人の生存のためとはいえ、残された生身の部分にとって組み込まれた機械群は自己にとって本来的でない異物と判断され、これを攻撃、排除しようとする。人体の保安機能であるはずの免疫であるが、皮肉にも生存に対する高く分厚い壁となって立ちはだかってしまう。器官移植は、むしろそれ自体が困難なのではなく、その後続いてゆく免疫機能との戦いの始まりに過ぎないのである。身体器官の90%を人工物と置換したガイが以前と同様に振舞うには、それらの器官を統合制御する巨大コンピュータと莫大なソフトウェアが必要とされるが、これを2003年当時の技術で実現するためには、膨大なコストを要した。最新型スーパーコンピュータを可能な限り動員したとしても、その規模は限りなく巨大であり、ガイ一人の生存のために高層ビルがひとつ建つことになり、なおかつガイはその中のベッドから満足に起き上がることも、外を出歩くことも不可能であったろう。それは単純に身体機能の制御にとどまらず、人工器官を排除しようとする免疫機能に対して投与される免疫抑制剤の制御も含まれているのであるから。
それらの難題をクリアし、なおかつ彼をサイボーグ・ガイとして戦闘に耐え得るまでにできたのは、ひとえに無限情報サーキットと呼ばれるGストーンの功績である。この結晶はエネルギィを発振し、結晶回路に理論上無限量の情報を蓄積できるのみならず、この結晶回路を利用した超々高速度の情報処理が可能なのである。これを制御中枢としてサイボーグ・ガイは完成した。当初においては、技術的な欠陥などからその状態は不安定であったが、マモル少年の能力覚醒に伴い、そのアジャストを受けることでガイのGストーンの機能は安定、向上し、またデータ蓄積から各器官の技術的な改良が繰り返され、2005年半ばからはサイボーグ・ガイの機能的なトラブルは殆ど解消されるに至っている。繰り返された研鑚とその成果によってサイボーグ・ガイは人類初の「完成されたサイボーグ」となったのである。こうした過程で得られた技術の多くは世界各国の医療現場に譲渡され、2005年から翌2006年における人工器官開発や、器官移植、免疫制御技術は目覚しい発展を遂げた。