暗黒物質

   正確には「宇宙暗黒物質」という。現代物理学の進歩に伴い宇宙の構造や進歩に関する人類の知識は急速に発展し、観測技術の進歩とともに宇宙を構成する物質の組成が次第に明らかになってきた。
   銀河は中心の周囲を星々が渦を巻いて高速な円運動をしている。通常、このような高速の円運動下では強い遠心力が作用して、星々は飛び散っていってしまうのだが、実際は銀河全体が形状を保ったまま公転を行っている。これは公転によって生じる遠心力よりも更に強く、銀河の中心へとに引き込む力、即ち重力が銀河系全体に作用しているためである。しかし、我々が電磁波という光学的方法で観測可能な天体を集めただけでは、それほどの強い重力の源になるものは存在しない。つまり、天体以外の、光学的には観測不可能な何かが存在し、この強力な重力の源になっていると考えられるのである。この物質は可視光線、赤外線、X線といった電磁波という光学的方法で観測されないという意味から宇宙暗黒物質(dark matter;ダークマター)と呼ばれる。宇宙全体におけるこの暗黒物質の総質量は宇宙全体の総質量の90%を占めるともいわれ、これによれば通常の物質(太陽、地球、月、木星、アンドロメダ星雲、また各種遊星群など)は、その全てを集めたとしても全宇宙の質量の10%程度にすぎないことになる。暗黒物質の正体についてはブラックホールや質量を持ったニュートリノ、超対称性粒子、クォーク塊、アクシオン、フォーティーノなど、すでに存在しているものや理論的に存在が予測されるもの十数種類ほどが候補にあげられているが、現在では宇宙暗黒物質の実体についての実験的な確認はされておらず、「その存在が予測されている」状態にすぎない。
  
宇宙全体にどのぐらいの暗黒物質が存在するかということは現代天文学の大きな問題のひとつである。というのもこの暗黒物質は我々の宇宙の未来、すなわち宇宙全体の寿命をも決定すると考えられるからだ。ビッグバン理論に依れば、宇宙はその創生以来依然膨張を続けているとされている。今後、宇宙が永遠の膨張を続けるのか、あるいはある時期を境に収縮に転ずる(これを『ビッグバン』に対して『ビッグクランチ』と呼ぶ。)のか、これについては依然議論が分かれる所であるが、もし暗黒物質が宇宙全体の質量の大部分を構成しているとするならば、暗黒物質が多けれ多いほどそれだけ中心へと引き戻す重力も大きくなり、宇宙は収縮に転じるし、暗黒物質が少なければ引き戻す重力も小さくなり、宇宙は長く、あるいは永遠に膨張を続けると考えられる。つまり暗黒物質の総量如何によって宇宙がこのまま膨張を続けるのか、あるいは収縮に向かうのか決定されるのである。
   ソール11遊星主三重連太陽系を再生するために、パスキューマシンを中枢とした物質復元装置を用いてこの暗黒物質を急激にかつ膨大に消費している。その結果、宇宙全体が光速度を超えた速度で収縮する未曾有の危機、すなわち「宇宙収縮現象」が生じているのである。これは一見「宇宙全体の暗黒物質の量が少なければ宇宙は膨張を続ける」という先述の理論と矛盾するかに思えるが、これを考える場合獅子王凱が述べた「風船」の比喩が理解しやすく、かつ的確であろう。獅子王凱は暗黒物質を宇宙という巨大な「風船」の中の「空気」に例えていた。この「風船」は内部に閉じ込められた「空気(この場合宇宙に散在する天体は空気中を漂う塵のようなもの)」の「圧力」によって膨らんでいたのだが、この風船に穴をあけ空気を吸い出すと、風船内部の構成物質すなわち「空気」が失われ、それが「空気」の存在ゆえに生じていた「圧力」をも低下させることとなり、その結果「風船」は急激に収縮する。現在生じている「宇宙収縮現象」も、宇宙全体の暗黒物質の総量自体が急激に減少していることで、宇宙全体の構成物質が急激に失われ、宇宙全体の質量が低下しているために、宇宙がその膨張速度を上回って収縮しているのである。