ブラックホール

   ディバイディングドライバーの空間湾曲エネルギィはこのブラックホールに匹敵するといわれる。では、そのブラックホールとは、一体どのようなものなのだろうか。
   端的に説明すれば「恒星がその成長の最終段階において、自らの重力によって限りなく収縮し、結果光さえもそこから脱出できないほど高密度になったもの」である。一般にその重力は究めて強く、空間そのものが歪み光も曲げられる。すべての物質は光速度の制限を受けるため、事実上いかなる物体もブラックホールから脱出することはできない。
   そもそも恒星は宇宙空間を漂う星間ガスや細かな塵が何らかの原因で集まったとき、さらに別の星間ガスや塵などがその重力に引かれて集まることで誕生する。このガスや塵の集合はやがて渦を巻きながら中心へと収縮し、熱や電波を放出しながら輝き始める。このとき恒星は自らの重さと内部の高温による圧力が均衡し球形を保っているのだが、この恒星内部の高温を生み出しているのが中心部で連続して起こっている原子核反応である。水素、重水素、トリチウムなどの軽い原子核同士が非常な高温下で融合し、より重い原子核を作る反応(例えば質量数1の水素原子二個がが融合して質量数2のヘリウム原子が一個作られる)を核融合反応(原子核融合)と言い、逆に質量数の大きい重い原子核が同じ程度の大きさの二個以上の原子核に分裂する反応を核分裂反応と言う。この時融合したり分裂したりした原子からは膨大なエネルギィが放出される。これが恒星が発する光、エネルギィのもととなっている。ちなみに太陽から地球にもたらされるエネルギィは、多少の変動は在るものの、100万kwの発電所の2億基分であるが、それも太陽が発するエネルギィ全体の20億分の1にすぎない。
   恒星中心での核融合反応が進むとより質量数の大きい、すなわちより重い原子核が作られていく。この間恒星は成長を続け、次第に巨大化し巨星となる。巨星の大きさは太陽を含む主系列星(矮星)の10倍から100倍に達し、絶対光度も大きいが、反面主系列星よりも密度や表面重力は比較的小さい。この巨星の段階で誕生当時比較的軽かった星はガスを放出しながら次第に縮み、不安定となり、変光星とよばれる状態になる。変光星は明るさを変えながらガスの放出と収縮を続けるが、次第に中心部の原子核反応は沈静化していき、惑星状星雲を経て白色矮星となる。この時白色矮星の密度は恒星当時の100万倍ほどになっており、1cm角で1tもの重さに達する。この中心で原子核反応が完全に沈静化し、停止すると白色矮星は次第に温度を下げ、黒色矮星となり、その恒星の一生は終るのである。
   一方誕生当時重かった星はさらに巨大化を続け超巨星となるが、その中でも原子核反応が激しかった星は多量のガスを放出して収縮を始め、変光星となり比較的軽い星と同様に惑星状星雲を経て白色矮星となる。一方ガスの放出が比較的乏しかった巨星は、中心部の原子核反応によって質量数26の鉄原子が作られる頃、自らの重さが内部の熱による圧力を上回り、自壊してしまう。この時中心部周辺で強い核融合反応が生じ、恒星は大爆発を起こす。これが超新星爆発と呼ばれるもので、この爆発により核融合反応で作られた重い原子は爆発によって宇宙空間へ拡散するが、いずれ星間ガスや塵などの集合の重力に引かれ集まり、そこで再び星の材料となるのである。また超新星爆発を引き起こす核融合反応でも重い原子は作られる。たとえば金や銀、ウラニウムなどの重い原子は超新星爆発の核融合反応でなければ作られないと考えられている。我々が住む地球や、三重連太陽系、そこに住むすべての生物もこうして集合と爆発を繰り返す星間ガスや塵によってできているのである。
   この超新星爆発の後、恒星は次の三通りに変化すると考えられている。
   一つは爆発後中心部のみが冷えて残り、中性子星となるもので、この中性子星は1秒間に1回という非常に高い速度で自転しながら一定の方向に強力な電波を放出する。この中性子星はパルサーとも呼ばれ、その電波は地球でも観測される。現在数百のパルサーが発見されている。
   二つめは中心部すらも残さず爆発してしまい、星全体が星間ガスや塵になってしまうものである。これらはいずれ宇宙のどこかで新たな星の材料となる。
   そして最後に中心部で作られた重い原子によって強く収縮しブラックホールとなるものである。ブラックホールは恒星の成長における極相段階であり、宇宙の落とし穴とも言うべき天体なのである。このブラックホールの概念を最初に考案したのはドイツの天文学者カール・シュヴァルツシルトで、彼は1916年、アルバート・アインシュタインの相対性理論の一つの解として発表した。彼の計算によると質量によって決まるある半径(シュヴァルツシルト半径)を境界として、その内側からは光を含むすべてのものが脱出することができない。逆に言えばこの境界面の内側を観測する手段は存在しない。この境界面を『事象の地平面』と呼んでいる。
   銀河系の中心には巨大なブラックホールがあり、そこでは恒星がその星系ごとブラックホールに飲み込まれているとも言われる。また、これまで太陽質量の5倍〜10倍程度の低質量ブラックホールや太陽質量の百万倍以上の巨大ブラックホールは複数発見されていた。しかしその中間的な質量を持つブラックホールの発見は2000年9月のそれが初めてである。
   このブラックホールがどれほどのエネルギィを有しているのか、我々の概念では推し量ることしかできない。ただ、とてつもなく膨大であるとしかいえないのである。もちろん、人類の手に余るエネルギィであることに変わりはない。事実、対EI−17戦においてはディバイディングフィールドの構造的な不安定さが露呈し、プライヤーズの協力によって辛うじて事態の解決を見たものの、万が一ディバイディングフィールドの消失に伴うガオガイガーと空間修復の反発作用による爆発が生じていれば、大阪どころか東アジア全域、あるいは地球全土が焦土と化した可能性は否定できない。もちろん人間を全滅させては機界昇華の意味がなくなるため、プリマーダは何らかの形でその爆発を減衰させる方法を既に講じていたと思われるが、多大すぎる被害が出たであろうことは疑い得ず、改めてプライヤーズの重要性と、Gストーンとそれに伴うオーバーテクノロジーの強大さと危険性、そしてそれらを孕みながらなお戦わねばならない人類の業の深さを感じずにはおれない。