鐘の音が響き渡り、流星群の始まりを告げる。
イステルの街からすべての照明が落とされ、
星の妖精の合唱隊が手にしたキャンドルの灯りだけが、
幻想的に揺らめいていた。


周囲の者たちと同じ、フード付きの白いマントに身を纏い、
合唱隊の中に溶け込んでいたアンジェリークは、
いきなり手を引かれて驚いた。


「きゃ!」

「アンジェ、俺だよ。」

「ランディ様!」

「しっ!さあ、行こう!」


アンジェリークはフードの下から、花の零れるような笑顔をランディに向ける。
傍らのロザリアに小声で耳打ちをすると、
ロザリアは笑いながら頷いて、2人を促した。





合唱隊の清らかな歌声を耳にしながら、2人は人々の間をすり抜けて行く。
ランディに手を引かれながら、アンジェリークは空を見上げた。


「ランディ様、もう星が流れてる!」

「アンジェ、上を見てたら転んじゃうよ。」

「大丈夫。ランディ様がしっかり手を繋いでくれているもの。
あっ!」

「ほら、危ないって。」

「ね?手を繋いでいたから大丈夫だったでしょう?
あ・・・呆れたような顔してる。
またやったな、って思ったんでしょう?」

「思ってないない!」



2人は人々の喧騒を逃れて、街外れへと向かった。
星祭で賑わう街の中心部とは打って変わって、
静寂が辺りに広がっている。


「このへんまで来ればもう大丈夫だね。」

「あとはロザリアがうまく言ってくれるはずよ。」

「感謝しなくちゃね。」

「そうね。ロザリアにはいつまでたっても頭が上がらない。」


街中を一気に駆け抜けてきた2人は、
弾んだ息を整えながら、今度はゆっくりと歩き始めた。


「迎えに来るのが遅くなってごめん。
なかなか抜け出せなくて。」

「ううん。私も民族衣装を着せられた時はびっくりしちゃった。
どうしようかと思ったわ。でも、どうして私だってわかったの?
周りはみんな同じ衣装で、フードまでかぶっていたのに。」

「君がどこにいたって、どんな服装をしていたって俺にはわかるよ。」

「ランディ様・・・」


冬の澄み切った空気の中で、星の輝きがひときわ美しさを増していた。


「今日はもっともっとたくさんの星が流れるんだ。
流れ星が生まれる場所に行こう。」

「流れ星が生まれる場所?」

「そう。ついておいで。」

「うん!」






ランディがアンジェリークを連れて来たのは、海を臨む岬。
波の音が聞こえる。


「・・・海?」

「今夜の流れ星、海の方向から流れてくるって聞いたから。
ここは星祭りの門と呼ばれる遺跡なんだって。
きっと空いっぱいに星が見えるはずだよ。」

「ここが・・・?
本当!あんなにたくさんの流れ星が!
まるでこっちに向かって流れて来るみたい。」


次々と降り注ぐ流星雨に、
2人はしばし目を奪われたまま立ちつくす。


「綺麗ね・・・・」

「ああ・・・」



繋いだ手に自然に力がこもる。



星が流れる間に愛を誓った恋人たちは、
どんな困難も乗り越えて必ず結ばれる。



イステルの言い伝えを胸に思い浮かべながら、
言葉には出さなくとも、お互いの気持ちが、
お互いの願いが同じなのを、2人は強く感じ合っていた。






「アンジェ・・・君の顔を見せて。
ほんの少しの間離れていただけなのに、
ずい分逢ってなかった気がするよ。」


ランディはアンジェリークの頭を覆ったフードをはずした。
金色の髪がゆるやかに広がる。
その髪にくちづけをして、瞳を覗き込むと、
無数の星の光が反射して、キラキラと輝いている。
ランディはアンジェリークをそのままゆっくりと抱きしめた。


「君が来るのを待っていたよ、アンジェ・・・」

「逢いたかったわ・・・ランディ様・・・」


腕の中から自分を見上げる可憐なアンジェリークに、
溢れてくる愛しさを抑えきれず、ランディはそっと唇に触れた。



2人の頭上を、いくつもの星が尾を引いて流れて行く。
そして、空一面に広がる星。


「何だか不思議。この星の中に、私たちの 故郷ほし もあるのね。」

「俺たちの・・・そうだね。
守るべき大切なものが数え切れないほどある場所だね。」

「ええ・・・」

「ここに来る時、シャトルの中から見た君の宇宙、
とても綺麗だった。
君が育む宇宙なんだなって思ったら、胸がいっぱいになったよ。」

「ランディ様・・・
でもね、私はこうしてランディ様の腕の中にいる事が出来るから、
どんな事でも頑張れるのよ?
ランディ様がいなければ何も出来ない弱虫なの・・・」

「そうなのかい?じゃ、俺、責任重大じゃないか?」

「そう。責任重大なんだから!
だから・・・ずっと私のそばにいてくれなくちゃいけないのよ?」

「君のためなら、喜んで。」


ランディは笑いながら頷いた。


「アンジェ、今日は無事に来れてよかったね。」

「もう、ドキドキだったわ。」

「君たちがここへ来る事は、計画済みだったとはいえ、
予想外の事が次々起こったしね。」

「うふふ、ランディ様も共犯よ。」

「知らないふりをするのは大変だったよ。
君と電話で話しているジュリアス様なんか激昂してるし。
思いつきで行動するのはやめて下さい、って声を荒げて。」

「休暇の話を出すより先に決めていた事で、
思いつきで行動したわけじゃないのに。
あの時、ランディ様はジュリアス様のそばにいたの?」

「ああ、ハラハラしてた。でも、俺ルヴァ様ってすごいと思ったよ。
顔色1つ変えずに、どこかで星祭の事を聞いたようですね、
なんて言ってるんだもんな。」

「詳しく教えてくれて、用意周到な準備を整えてくれたのは、
ルヴァ様とロザリアなのにね?」

「こんな事がジュリアス様たちに知れたら、大変だよな。」

「大丈夫よ。絶対にバレないから。
もう1人、お手紙で星祭の事を知らせてくれた人がいるじゃない?」

「アンジェ・・・もしかして、セイランさんに押し付けようとしてない?
いけない女王さまだね?」

「うふふ・・・・そう?これくらい機転が聞かないと、
宇宙の女王はやっていけないのよ?」

「君って・・・。」

「私、ランディ様と過ごせるなら・・・・どんないけない事だってしちゃうわ。」

「ダメダメ、それは絶対にダメだよ!」

「やだ・・・うそ、冗談よ。
それに、今までだって一度もバレた事ないじゃない。」


アンジェリークは悪戯っぽく微笑む。
時折聖地を抜け出しては、2人だけの時間を重ねていたが、
執務には影響のない休日に限っての事だったし、
確かに今までに1度もお咎めを受けた事もない。


「それはそうだけど・・・」


それはただ、みんなが見ないふりをしてくれているだけなんじゃないのかな?
との核心を突いた考えがランディにはあったのだが、
それを敢えて口に出す事はしなかった。
アンジェリークだってわかっているに違いなかったから。


「ランディ様・・・ありがとう。
私がどうしても2人だけで流れ星を見たいなんて、わがままを言ったから。」

「いいんだ、俺だってそうしたかったんだから。」

「ランディ様との大切な想い出が、また1つ増えて嬉しい・・・」



冬の海はまだまだ寒い。
ランディはすっかり冷え切ってしまった様子のアンジェをいたわる。


「アンジェ、寒いだろう。はい、フードをかぶって。
その衣装、よく似合ってる。本当に星の妖精みたいで可愛いよ。」

「ありがとう、ランディ様。」

「あ、アンジェ、鼻の頭が赤くなってるぞ。」

「え?やだ・・・ホント?」


鼻の頭を指先でチョコンと突付かれたアンジェリークは、
すかさずそのランディの手を取り上げ、自分の頬にくっつけた。


「ランディ様の手もすごく冷たいわ。」

「そろそろ戻ろうか。」

「うん。でも・・・」

「何だい?」

「戻っても、一緒にいてもいい?
・・・私の事暖めてくれる?」


甘えるように問いかけるアンジェリークに、
ランディは照れくさそうに言葉を返した。


「・・・・・もちろんだよ。」

「嬉しい。」


ランディの腕に自分の腕を絡ませながら、
アンジェリークは再び頭上の星々を仰いだ。



満天の星空を、流れ星は後を絶つ事なく流れ続けている。
1年で一番長い冬の夜は、
恋人たちの為に深く更けて行こうとしていた。




                                  fin.







露埼さんのサイトの7777HITを踏んでリクエストした CD【LOVE CALL】ネタpart1ですv
言い伝えを信じて 星祭りに2人で願いを込めるための計画的犯行(爆)だったようですが
そんなリモちゃんが健気で可愛らしいですよねvもちろんランディ様も想いは同じ(*^^*)
そして、一番長い夜は Sweet galleryの『Promise Night』へ続いています〜v
無理言って表裏の両方おねだりしてしまった図々しさを、許してっ(笑)
露埼さんのサイトはこちらv→





Sweet Gallry Menu







作品タイトルに使っているJAVAアプレットはこちらからお借りしました


03/03/19up