〜想い出のブランコ〜
文 / 夢天様
アンジェリークはキッチンで食事の仕度をしている。 愛するランディの為に・・・ ランディは広告会社に勤めるサラリーマンだ。 今週に入って残業や接待で毎晩帰りが遅く、殆ど御前様だ。 そんな訳で、アンジェリークはランディとゆっくり夕食を食べていない。 結婚して1ヶ月、二人揃って夕食を楽しむ時間は、実は数える程しかないのだ。 それはランディの頼まれたら嫌とは言えない性格に問題があった。 こうして食事の仕度をしても、ランディは中々帰って来ない。 アンジェリークは先に寝ても良いと言われても、ランディに会いたい一心で 遅くまで起きて待っているのだが、夜に弱いアンジェリークは 何時も待ち疲れて眠ってしまい、気が付けばベッドの中で、 ランディにベッドまで運んでもらう始末。 ランディはどんなに遅く帰ってもアンジェリークが作って 食卓の上に置いておく食事を何時も残さずしっかりと食べて、 食器もちゃんと洗ってから眠るのだ。 良く出来たダンナ様だ。 「今日も一人なのかな・・・はぁ〜・・・」 アンジェリークは大きなため息を一つついた。 一人で食べる食事は美味しくない。 それがどんなに美味しいご馳走であっても味気ないものになってしまう。 幾ら一緒に食事をしたくても、当のランディが仕事なのだから 仕方がない。 だったら朝があるじゃないかと言われそうだが、アンジェリークが 朝食の準備をしても、ランディはトーストとミルクだけ食べて 早々に出掛けてしまうのだ。 完璧にすれ違ってしまっている。 今日は金曜日で、明日は予定通りであればランディの仕事は休みだ。 アンジェリークは明日こそはランディと一緒に居られる、食事も出来る! そう思うと今夜はどんなにランディの帰りが遅くても待っていようと思った。 11時・・12時・・・・1時・・・・ 時計の針が間もなく2時を差そうとする頃、玄関の鍵を開ける音がして アンジェリークは思わず玄関へ走り出した。 ―――バタバタバタ!―――― 「お帰りなさい!ランディ!」 アンジェリークは、玄関を開けて入って来たランディに勢い良く飛びついた。 「うわっ!アンジェ! ど、どうしたんだい?いきなり飛びつくからビックリしちゃったよ。」 ランディは驚いたが、微笑みながらアンジェリークを抱きしめ、 額にただいまのキスをした。 「ランディが帰って来るのをずっと待っていたの!」 眠そうな瞳を潤ませて、ランディにしがみ付いて甘えている アンジェリークが愛しくて、今度は唇に優しくキスをした。 「ごめん、忙しくて構ってあげられ無かったからね。 今度の休みには何処かへ行こう!何処へ行きたい?」 「あ、あのね・・・一緒に食事がしたいの」 「は?ああ、食事をしに行きたいんだね?いいよ。 何が食べたい?フレンチ?イタリアン?それとも和食?」 「ううん、外食じゃなくて、えっとね、お家でランディと一緒に食事がしたいの ずっと一人で食べていたから、ちょっと寂しかったの・・・」 「アンジェ・・・判った。それじゃ家でゆっくりしよう。 君との時間をもっと大切にしないといけないな。」 「本当に?」 「本当だよ。」 「本当に本当?」 「ああ、本当だよ。」 「きゃはは!嬉しい!それじゃ私、ご馳走を沢山作るわ! ランディの好きな物を沢山作るの〜」 アンジェリークは瞳を輝かせ、メニューを考え始めた。 「アンジェ、あのさ、休みの事なんだけどさ、明日と明後日はダメなんだ・・・ 」 「え?お休みじゃないの?今度のお休みって今言ったでしょう?」 「それは来週の事だよ。明日は大学のアーチェリー部の後輩のゼフェルが結婚し たんだ。 でも、結婚式をしてないって言うから、急遽お祝いの会を設ける事になって 幹事を任せれちゃったんだ。 明後日はオスカー先輩の所に赤ちゃんが生まれたんで、お祝いに行く事になって るんだ」 「そんな・・・・」 アンジェリークは急に悲しそうな顔をして黙って寝室へ入っていってしまった。 ずっと我慢していた涙が溢れ出し、アンジェリークはベッドの中で泣いている。 「アンジェ、ごめん!勝手に決めちゃって・・埋め合わせはちゃんとするから ね?機嫌を直してくれないか?」 「・・・・」 「アンジェ?」 ランディがアンジェリークの顔を覗き込むと、アンジェリークは既に眠っていた 。 本来ならアンジェリークは眠っている時間なのだ、無理をして起きていたのだか ら 泣きながら眠ってしまっても無理は無い。 「ごめん、この埋め合わせは必ずするから・・・」 ランディは寝ているアンジェリークの頬にキスをすると 寝室を出て浴室へ向った。 翌朝、10時過ぎにアンジェリークが起きた時、既にランディの姿は無かった。 アンジェリークは家事を済ませると、シャワーを浴び外出の仕度をした。 家に居てもつまらないのでショッピングに出掛けようと思ったのだ。 ランディに誕生日に買って貰った、淡いピンクにそれより少し濃い色の薔薇の 花柄のワンピースに着替え、ランディから貰った淡水パールの3連ネックレスに お揃いのイヤリングを付け、滅茶苦茶お洒落をしてのお出掛けだ。 「あぁ〜あ、こんなに可愛い奥さんを一人にして置くなんて 最低な旦那様だわ!今日はいっぱいお買い物しちゃうんだから!」 アンジェリークが玄関の大きな鏡の前で独り言を言っていると いきなり玄関のドアが開いた。開けたのはランディだった。 息を弾ませ、額からダラダラと汗が流れ顎からポタポタと 滴り落ちている。 「アンジェ!」 「きゃっ」 「うわっ!ビックリしたな〜ドアを開けたらいきなり目の前に居るんだもん」 「ど、如何したの?そんなに慌てて・・・凄い汗だわ・・・」 「今から俺と一緒に来てくれないか?君が居ないと駄目なんだよ」 何が何だか判らないがランディは凄く焦っているらしい。 アンジェリークはちょっと意地悪な気分になり嘘をついた。 「ごめんなさい。私これから出掛けるの、お、お友達と約束があって・・」 「断れないの?」 「う、うん」 「そうか・・・仕方がないな。約束があるんじゃ・・・ 気をつけて行って来るんだぞ。」 ランディは大きくため息をつき困った様に頭を掻いている。 「ねえ?ランディ・・・私が居ないとって言ったのよね? それって如何言う事なの?」 「ああ、実は、会場は押さえたんだ、リュミエールさんのカフェバーを・・・ だけど、リュミエールさんと俺じゃ間に合いそうもなくてさ、君が居てくれたら テーブルセッティングなんかはお手のものだしさ、時間があっらたっれ思ったん だけど 約束があるなら仕方がないよな。」 「もう!如何してそれを先に言ってくれないの? こんな事位でわざわざ帰って来なくても、電話してくれたらいいのに・・・」 アンジェリークの瞳に涙が溢れた。 だが、怒っているのではなく、それは嬉しい涙。 「アンジェ?」 「いいわ、私お手伝いします。早く行きましょう!」 「で、でも約束があるんじゃ・・・?」 「あ、あれは・・嘘なの!」 「はあ?」 「だって、ランディったら私の事なんて、何時もほったらかしで 自分の事ばかりなんだもん・・・ちょっと意地悪したかったの、ごめんなさい。」 アンジェリークは肩を竦め小さな舌をペロンと出した。 それを見たランディは、アンジェリークの気持ちを 無視居ていた自分に恥ずかしくなった。 それと同時にアンジェリークの仕草が可愛くて、思わずアンジェリークを 抱き寄せ唇にキスをした。 抱きしめて、これでも物足りないと言う位に強く抱きしめた。 アンジェリークの身体が壊れてしまうのではと思う程に・・・ 「ラ、ランディ・・苦しいわ、離して・・」 「アンジェ・・ごめん!俺、君の事大切にするって言ったのに、仕事に追われて 全然構ってないのに君は・・・ごめんな、アンジェ・・・」 アンジェリークは黙ってランディの腕の中で微笑んでいた。 でも、頬を伝う涙は幸せな涙・・・ アンジェリークは涙を拭い元気にランディへと笑顔を向ける。 「行きましょう?ランディ。時間が勿体無いわ、 リュミエールさんが待っているんでしょう?」 「ああ、・・・ああ!いけない!俺買い物を頼まれて来たんだけど なんの意味だか判らなくてさ、アンジェこれって判るかい?」 ランディに差し出されたメモ用紙には、宴のテーブルに並ぶであろう 食材や調味料の名前がぎっしり書かれていた。 「わぁ〜すっごい!こんなに買うの?」 「ああ、宴会が始まるのが7時だからそんなに急がなくても・・・」 「駄目よ!お料理ってすっごく時間が掛かるのよ!それにこの材料だったら かなり時間が掛かるお料理だわ!リュミエールさんは?」 「あ、ああ、市場へ行った。」 「判ったわ!それじゃ早くお買い物に行きましょう!」 アンジェリークはやる気が出たのか、瞳をキラキラさせメモ用紙を握り締め ランディの腕を掴んでドアを開けた。 「うわぁっ!ちょっとアンジェ如何したって言うんだい? そんなに引っ張らなくても・・・」 アンジェリークは嬉しかった。ランディが自分を必要としてくれた事。 一緒に居られる事の幸せ。 結婚してから一緒の時間は恋人同士の時よりも減ってしまい 想像していた甘い生活は夢のまた夢だったのだから。 アンジェリークが手伝ったお陰で、料理も無事に間に合い ゼフェルの結婚パーティは無事に終わった。 「アンジェリーク、すみませんでしたね、 あなたにまでお手伝いをして頂いて。 でも、とても助かりました。ランディと二人ではここまで素晴らしい宴には ならなかったでしょう。」 「そんな・・・でも、お役に立てたようで嬉しいです。」 「アンジェがあんなに料理が上手だったとは・・俺も新発見だったよ!」 「ランディったら、何時もは温かいスープがカチンカチンに凍りつく頃じゃない と 帰って来ないんですもの。」 「そうなんですか?ランディ?」 「あ、あはは・・・」 ランディは頭をポリポリ掻きながらバツが悪そうにしている。 「アンジェリーク、もしあなたさえ宜しければ、こんな風にパーティの時だけで も いいので私のお手伝いをして頂けませんか?あなたの様にお料理が上手で 手際の良い方だと私はとても助かるんですが・・・」 「え?本当に?私なんかでお手伝いが出来るでしょうか? 私、お料理が大好きなので、そんな風に言って頂けると嬉しいですけど・・ でも・・・」 アンジェリークはランディの顔を見上げた。 ランディはニッコリ笑って頷いた。 「いいよ。君の好きにして。俺、今日楽しそうに料理している君を見て 幸せな気分になれたよ。何だか勿体無い事しているんだな、俺って・・・」 「その様ですね、ランディ。ふふ。」 リュミエールは二人の会話で二人の生活を垣間見たのであろう 納得した様に微笑んだ。 「ランディ・・・ありがとう。」 「それではお手伝いして頂けるんですね?アンジェリーク?」 「はい。何時もお世話になっているんですもの、私でお役に立てるのなら お手伝いさせて下さい!」 「ああぁ〜、ありがとう。アンジェリーク、助かります。」 「頑張るんだぞ!」 「はい!」 アンジェリークはリュミエールの店で働く事になった。 リュミエールに今日のお礼だと言って極上のワインを貰い 二人は帰路に着いた。 帰り道、二人が結婚前に良くデートしていた公園に差し掛かった。 「ねえ、懐かしいわね〜。この公園・・・ ランディのお仕事帰りにデートの時、あそこのブランコで私が何時も待っていて ・・・ 私はまだ高校生だったから、デパートのお手洗いで私服に着替えて・・・くすく す。 それで何時もリュミエールさんのお店でお酒飲んで・・ 最も私はオレンジジュースだったけど、楽しかったぁ〜」 「今は?楽しくない?」 「え?」 「俺、今日久しぶりに君の楽しそうな笑顔を見た気がするんだ。 結婚してからずっと忙しくて、君との時間 作っていないんだもんな・・・」 不意に考え込むランディの頬にアンジェリークは突然キスをした。 「アンジェ?」 「私、幸せだよ。ランディと一緒に居られるだけで。 私にはあなたしか居ないんだもの・・・」 「君の事ほったらかしても?」 「それは・・・仕方がないでしょ?お仕事だもん。 それに、ランディがお仕事を頑張るのって、私の為でしょう? 私を守ってくれる為でしょう?だったら何も言えないもの。」 「アンジェ・・・ブランコ乗にろうか!」 ランディはアンジェリークの手を掴み走り出した。 「あん、ランディったら〜」 アンジェリークは笑いながらランディの手に指を絡め強く握った。 寂しくても、一緒に居られる事の方が幸せだから我慢する。 でも、時々我が侭になって、甘えたくなったら あなたと手を繋いでここへ来たい 私達二人の時間はここから始まったのだから・・・ 想い出の公園の小さなブランコから。 もう、ため息は出ないかな? くすっ。 FIN |
夢天さんから頂きました。新婚ランリモ〜v健気でイジラシイ可愛い新妻リモージュちゃんv そんな可愛いリモちゃんを構ってあげられない働き者なダーリン・ランディ様。 このシチュエーションが既に萌えv(笑)ランリモのラブラブぶりを堪能しましょうv (コメント:元PURE×PURE合同管理人 ちりさま) |
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02/08/12up