文 / 御名原詩亜 様 |
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「はあぁ……女王候補試験、上手く行かないなぁ。やっぱりわたし、選ばれたのって間違いなのかなぁ…?」 ここは飛空都市のほぼ中央にある公園。 飛空都市で生活する者が仕事の疲れを癒す憩いの場所であった。 そこに、女王候補として選ばれた、金の髪の巻き毛の少女……アンジェリーク・リモージュは、ベンチに座って大きな溜息をついていた。 彼女と共に女王候補に選ばれたもう1人の少女、ロザリア・デ・カタルへナは、主星の大貴族の出身で、聡明で容姿端麗、幼い頃から女王としての教育を受けてきた為、女王としての素質を持ち合わせた少女だった。 それにひきかえアンジェリークは、ロザリアとは同じスモルニィ女学院出身といえど、何故か選ばれてしまった、ごくごく普通の女子高生だった。強いて言えば、元気で明るいのが取り柄の少女だった。 だけど、折角選ばれたからには頑張ってみたい…最初はそう思っていた。 …だが、あまりに違い過ぎる2人の差……彼女は飛空都市に来て約30日、自分が場違いな存在なのではないのでは?…と、早くも挫けそうになってきていた。 「パパ、ママ……ジェーン、ソフィア……今頃どうしてるの?」 飛空都市に浮かぶ雲を見ながら、再び大きく溜息をはいた。 「…どうしたんだい?アンジェリーク…。そんな大きな溜息なんかついてたら、その若さで直ぐ老け込んじゃうぜ」 「!!」 アンジェリークは突然の声に驚き、直ぐ横を見ると、そこには風の守護聖・ランディがいた。 彼女とは1歳違いで、明るく気が合う為、守護聖の中でも仲の良い方だった。 「こ…こんにちは!ランディさま!!」 「やあ、こんにちは……ここ、いい?」 「え、ええ…どうぞ」 ランディは空いていたアンジェの隣を指さし、ベンチへ座ると、 「…どうしたんだい?何かすっごく大きい溜息ついてたけど…オレで良ければ相談に乗るよ?」 普段は自分と負けないくらい元気なアンジェリークが、いつもと違うのを察知したランディは、アンジェリークに相談する様促してみた。 「あ、ありがとうございます……でも、守護聖さまにご迷惑をお掛けする事は出来ないですから…」 「…オレじゃあ君の悩みを聞くのに役不足?」 「い、いえ!そんな事ないです」 「じゃあ聞かせてくれないかい?無理にとは言わないからさ……折角オレたち歳も近いし……それに、君の力になりたいんだ。風の力を大陸に送るだけじゃなく…」 「ランディさま…」 アンジェリークはランディが自分の為に親身になってくれたのを知り、少しづつ心の中の気持ちを言葉にしていった。 「ランディさま……わたし、ここにいるのって場違いなんでしょうか?」 「へ?!場違い?」 意表を突いた言葉に、ランディの声は思わず裏返ってしまう。 「…何で急にそんな事を言うんだい?」 「だってわたし、いつもいつも思うんです。一生懸命なのに何をやっても空回り。ジュリアスさまには怒られっぱなしだし……女王として何の教育も受けず、ここへ来てしまって……やっぱり、ロザリアとの差は広がるばかりだし…選ばれたのって何かの間違いじゃないか…って」 「何、気弱な事を言ってるんだよ!君らしくもない。選ばれたからには最後まで頑張ろうよ!」 ランディは真っ白い歯を見せて、ニコッと笑う。 だけどアンジェリークは溜息混じりに、 「そ、そうですね……わたし、もっともっと頑張らなきゃ…」 そう言って笑うが、目は笑っていなかった。 むしろ、辛そうで、油断していると涙さえ見せそうな痛々しささえ感じた。 そんなアンジェを見て、ランディは先ほどの自分の言葉に、少しマズイな…と思った。 「アンジェリーク…ごめん。やっぱ無理して頑張る必要……ないかも知れない」 「え?!」 今度はアンジェリークが驚く番だった。 いつも「頑張ろうぜ」が口癖で、明るく頑張り屋のランディがそういう事を言うのは、かなり意外な言葉だった。 「オレさ……いつもいつも安易に『頑張ろうぜ』ばっか言ってる気がしてきて、本当に『頑張る』って事の意味、分かってなかったかも知れない…」 「ランディさま…?」 「オレの中で『頑張ろう』って言葉は、多分…一種の呪文みたいなものなんだ」 「ランディさまも…?」 アンジェリークは意外そうにランディを見る。 「うん…ついそう唱えてしまうんだ。オレは父さんが貴族だったけど、母さんは庶民の出身で、オレ自身、色々辛い思いをしてたんだ…。守護聖に選ばれた時も、家族の為って思って、慣れないこの飛空都市に来て色々失敗したりしてさ…。そんな時、いつも『頑張れ』って言葉にして自分を励ましていたんだ……でも」 ランディは空を仰ぐと、ふぅっと自分も大きく溜息をつく。 「頑張ってる相手や自分に、過剰に『頑張れ』って言うのは、追い込むだけなのかなぁ…って」 「あ…」 アンジェリークは自分の中で、「何か」が分かった気がした。 「ランディさま…それって」 「うん…」 アンジェリークは、今まで自分が溜息混じりに「頑張らなきゃ…」と言っていたのを思い出した。 ランディは、ぽつりぽつり呟く。 「溜息混じりの『頑張れ』だったら、むしろ頑張らない方がいいかも知れない…。今はどんなに頑張っても、結果が出ない時なのかも知れないし、それにまだ試験が始まって30日ちょっとだろ?」 「あ、そうだった…」 アンジェはハっとなった。 「わたしったら……落ちこむの早過ぎる。まだ30日じゃあ、発芽してそんなに日が経たない状態で、どんな花が咲くかも分からないって言うのに……早とちりばっかで…」 アンジェリークは赤くなりながら、うつむいた。 「そうだよね。大陸の育成は植物を育てるのと一緒…いや、大陸自体生き物だよな。きっと100日以上すれば、オレたちが驚く程立派に成長してるよ!」 「そうですよね、ランディさま。不器用だから、頑張らない事の方が難しい事もあるかも知れないけど……たまには頑張ってる自分を認めてあげる事って、大切かも知れませんね?」 ランディとアンジェリークは顔を向け合って、しばし笑いあっていた。 「…その…君が望みさえすれば、いつでもオレが風の『勇気』を贈るからさ…」 太陽よりも明るいランディの笑顔に、アンジェリークは一瞬、胸が鳴った気がした。 「はいっ、ランディさま。これからもよろしくお願いします」 負けじとアンジェリークもとびっきりの笑顔を、ランディに向けた。 成長する大陸を見るのが待ち遠しく感じる傍ら、心の奥底では、この時が止まればいいのに、と感じつつ…。 |
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Fin. |
御名原詩亜さんから頂きました。 2人がまだ出会ったばかりのとても爽やかで初々しいお話です。 勇気を司るランディ様らしさがとっても上手く表現されていますね。 きっとこれを機会にランリモは恋におちていくのでしょうね〜♪(妄想) (コメント:元PURE×PURE合同管理人 ちりさま) |
02/01/15up