この手を離さない


文 / 露埼 紗羽 さま







夢じゃない
私は今、本当にランディさまの腕の中にいるのよね・・・



公務で聖地を留守にしていたランディが帰って来た。

自分を抱き上げる腕のたくましさを感じながら、
アンジェリークはきゅっとランディにしがみついた。
いつになるのかわからない帰りだったので、後2、3日は覚悟をしていた。
まさか、こんなに早く帰って来れるなんて思ってもいなかったのだ。
しかも、夜遅くにもかかわらず私邸へは戻る事なく、
真っ先に自分に逢いに来てくれた事が、アンジェリークにはたまらなく嬉しかった。


「俺、シャワーを浴びてくるからアンジェは待っていて。」


ベッドルームに着くと、ランディはそう言いながら、
腕の中のお姫さまをシーツの上におろそうとした。
ところがアンジェリークは、首に回した両腕を離そうとしない。


「イヤ。」

「こら、アンジェ。」

「一時だって離れたくないんだもの。
ランディさまだって離さないって言ったじゃない。」

「困ったアンジェだな。
ダメだよ。アンジェはもうお風呂に入ったんだろう?
ほら、こんなに石けんのいい香りがしてる。
今日は視察先でけっこう動いたんだ。
俺だって埃と汗を落とさないとアンジェを抱けないよ。」

「そんなの気にしなくていいのに。」

「ダメ。すぐに戻ってくるから。」


ランディは小さな子どもに言い聞かせるようにして、
アンジェリークの額にキスをする。
それでもまだ不満げに抱きついたままの唇に触れると、
ようやく安心したように、回された腕が解かれた。


「本当にすぐによ?」 

「わかってる。いい子にしてるんだよ。」

「はあい。」

「どうしても待てなかったら、バスルームにおいで。」


ランディは笑いながら一言付け加えて、バスルームへと姿を消す。
アンジェリークは待つ間に、ランディの正装を整える事にした。


「明日も執務だもの。ちゃんとしておかなくちゃね。」


丁寧にブラシをかけて、しわにならないように大切に扱う。
そうしているだけで、何だかとても幸せな気分になってしまう。


「あれ、アンジェ、ありがとう。」

「ランディさま、早い!」

「だって、ゆっくりしていたら、
アンジェはまた淋しくて泣いちゃうだろう?」

「また、そう言ってからかうんだから!」

「あはは!違った?」


速攻でバスルームから出てきたランディは、まだ髪から雫が落ちていた。
タオルで髪をふき取るしぐさにさえ、アンジェリークはときめいてしまう。
自分だけしか見れないランディの姿だと思うと、ついじっと見つめてしまう。


「正装に身を包んだランディさまも大好きだけど、
今のランディさまはもっと好き。」


自然と口をついて出た言葉に、自分でも恥ずかしくなって
アンジェリークは頬を染めた。


「本当? 俺だって今の君が大好きだよ。
約束どおり今度はもう離さないから。」


ランディはその体を腕の中に抱き寄せる。
羽織ったバスローブから覗く胸が、アンジェリークの頬をますます熱くした。


「ランディさま・・・」

「ん?」

「帰って来てくれて本当に嬉しい・・・」

「俺だって。一秒でも早くアンジェに逢いたかった。」

「ランディさまも淋しかった?」


甘えるように問いかけるアンジェリークがいじらしい。
淋しがっていたのは自分の方だろうに。
アンジェリークがどんなに淋しがっていたのかなんて、
ランディには容易に想像がついてしまう。


「誰かさんが夜は泣き明かしているだろうなって思ったら、
淋しいどころか、心配で夜も眠れなかったよ。」

「誰かさんって誰の事?」

「俺がそんな事を想うのは1人しかいないだろう?
それとも他の人を心配すればいいの?」

「そんなの・・・絶対に・・・イヤ。」

「じゃ、素直に認める?」

「どうせ私は泣き虫で淋しがりやだもん。」

「ふふ・・・そんなに拗ねなくてもいいのに。」

「ランディさま・・・本当に離さない?」

「ああ。朝までずっと・・・・・」


2人は抱き合ったままで、ベッドの上に沈んだ。
1人の時は広すぎてあれほど心細かったその場所が、
今はランディに導かれて辿り着く楽園への扉となる。
アンジェリークはすでにふわふわと夢心地だった。
ランディの手がゆっくりとアンジェリークの髪を撫でて行く。


「しばらくはこうしていようか。」

「え?」

「アンジェの事すぐにでも抱きたいけど、すぐに抱くのがもったいないよ。」

「おかしなランディさま・・・」


それでもアンジェリークはランディの言うなりに、その胸に寄り添った。
ランディの匂いに包まれ、体温を感じ合っているだけで、
心が不思議なほどに安らいで行く。
髪を撫でられるごとに、離れていた時の淋しさが、
氷が融けるように、少しずつ薄れて行くのを感じる。


「アンジェの髪、柔らかくていい香りがする。
気持ちよくてこのまま眠ってしまいそうだよ。」

「ええ?」

「なーんて言ったらどうする?」


またしてもからかわれたと知ったアンジェリークが、
抗議の言葉を発する前に、ランディは唇を塞いだ。
熱い吐息が吹き込まれて、夢心地のアンジェリークの意識は、
さらに朦朧とし始めた。いつもよりも深いくちづけに、
ランディの気持ちが込められているようで嬉しい。
アンジェリークもいつのまにか夢中で応え始める。
離れていた時間を取り戻すような長いくちづけだった。
ようやく唇を離したランディに、アンジェリークは訴える。


「ずるい、ランディさま。」

「どうして?」

「そうやって、いつも・・・」

「いつも・・・?」

「私・・・わけがわからなくなりそうになるんだもの。
なのに、ランディさまはいつもどおりで。
私ばかり・・・・・」

「違うよ。俺だって・・・・ほら・・・・」


ランディは自分の心臓にアンジェリークの手を導く。
さっき胸に頬を寄せていた時には感じなかった、
どくどくと波打つ鼓動が、手のひらにじかに伝わって来た。


「わかるだろう? 平気でなんかいられないんだ・・・・」

「ランディさま・・・・」


ランディを上目遣いで見上げる瞳は、
愛らしい中にもすでに十分な艶を帯びている。
その瞳をしっかりと捉え、愛おしむように頬から首筋にくちづけると、
ランディの手はアンジェリークのナイトウェアのリボンをほどき、
その滑らかな肌を取り出しにかかった。
肩先にキスをされて、くすぐったそうに身を捩るしぐさも、
恥ずかしそうに指を伸ばし、ランディのバスローブの紐を解くしぐさも、
露わにされた胸を両手で隠すしぐさも、
ランディには可愛くてたまらない。


「大好きだよ、アンジェ・・・・・」

「ランディさま・・・私も・・・」


もっと近くで、誰よりも一番近くで感じ合える場所へ行きたい。
熱を帯びた体はお互いをたまらなく欲していた。
生まれたままの姿となって、2人は見つめ合う。
逢いたくて逢いたくてたまらなかった愛しい人。
離れていたのはほんの数日なのに、
気が遠くなるほど長い時間逢っていなかったように思える。
顔の輪郭に触れ合って、その存在を確かめる。


「今までの淋しさ、全部取り除いてあげるから・・・」


優しくそう囁いて、ランディはもう一度唇を重ねた。
それが合図のように、唇が届く場所すべてにくちづけが落とされる。
これ以上熱くなれないと思っていたのに、ランディが触れた場所に、
次々と新しい熱が生まれ落ちるのがわかる。
降り注ぐようなくちづけに、アンジェリークの唇はいつしかほどけて、
切ない喘ぎがランディの耳に届き始めた。


「は・・・あ・・んん・・・はぁ・・・っ!」


ランディの手のひらが胸のふくらみを捉える。
すそ野から色づいた頂へとなぞられただけで、アンジェリークの体が跳ねた。
辿り着いた頂に、指先がほんのちょっと触れただけで、
その尖端は形を変える。


「あっ・・・んん・・」

「可愛い・・・アンジェ・・・だから離したくなくなる・・・」

「や・・・ああ・・・」


ランディの言葉にアンジェリークはいっそう身を捩る。
長い指でその尖端を弄びながら、唇はもう片方の頂に辿り着いた。
口に含み吸い上げ転がされると、アンジェリークの体がのけぞる。
指と唇の刺激に耐え切れず、アンジェリークの細い指先は、
ランディの髪の中に分け入り、きつくしがみついた。


「あ・・・ん・・・ああ・・・っん・・・んん・・・」


愛おしい唇から絶え間なく零れ落ちる甘い吐息。
その吐息までも閉じ込めたくて、
ランディは再び体を起こし、唇を塞いだ。
そのまま手のひらを下へ這わせて行く。
太ももを撫でながら、少しずつその内側へと指を探らせる。
ランディを待つその場所は、指先が触れる前から、
そうとわかるほど熱を帯び潤んでいた。


「アンジェ・・・」

「いや・・・恥ずかしいから・・・あっ! ああ・・・ダメっ・・・」


そっと触れると、熱い蜜がランディの指に纏わり着く。
そのまま入り口を何度か往復させただけで、
アンジェリークは軽く気をやってしまった。


「こんなにすぐに・・・? 本当に可愛いんだから・・・」

「あっ・・・ん・・・いや・・・っ・・・ああ・・・っ!」


ランディがその場所に指を挿し入れると、
すぐにきつく絡み付いてくるのがわかる。
腕の下の愛する人を優しさを込めて見つめると、
涙をいっぱいに溜めた瞳が見つめ返す。


「・・・ランディさま・・・・」

「アンジェ・・・・そんなに欲しいの・・・?」


その言葉にさえ反応してしまうのか、
さらに強く指が締めつけられるのを感じる。
ランディを求める蜜がますます溢れ出しシーツまでも濡らす。
アンジェリークも自分でそれがわかるのか、
絶え入りそうな声になる。


「私・・・いや・・・恥ずかしい・・・・」

「恥ずかしがる事なんてないのに。
俺もアンジェが欲しくてたまらない・・・」


指で高めるまでもない。
いつもより過敏な反応を示すアンジェリークに、
ランディもじっとしてはいられないほど、
体の芯が熱く滾るのを感じた。
引き抜いた指の代わりに、昂ぶったものを深く埋め込んで行く。


「ああっ、ランディ・・・さま・・・」


アンジェリークは自分の中が、ランディの熱で
徐々に満たされて行くのを感じる。
ランディもまたアンジェリークに柔らかく包み込まれ、
取り込まれながら沈んで行く自分を感じていた。
一番奥で繋がった時、欠けていた半身をやっと取り戻せたような
充足感が2人の体いっぱいに広がる。
体も心もひとつに繋がった今、求め合うままに
同じ場所を目指して行けばいい。
ランディはアンジェリークを抱きしめたままゆっくりと動き始めた。


「ぁ・・・あ・・・・体が・・・っ・・・」

「どうしたの・・・アンジェ・・・」

「ランディ・・・さまの・・・熱で・・・融けてしまい・・・そう・・・」

「もっと・・・もっと・・・・融かしてあげるよ・・・」

「嬉しい・・・融かし・・・て・・・・」


アンジェリークの陶酔した表情かおが、この上もなく美しくて、
愛しさが膨れ上がる。自然に動きが早まって行く。
引きずり込まれ溺れて行く自分を止める事は出来ない。
アンジェリークの中に、ランディが起こす新たな波が生まれ続ける。


「ランディさま、ああっ・・・・ああ・・・・」

「アンジェ・・・・アンジェ!」


誘うまま誘われるままに昂ぶる波に呑み込まれて行く。
求めても求め足りない気がして、激しさをぶつけ合う。
やがて言葉は少なくなり、激しくなる2人の呼吸と、
甘く秘めやかな旋律だけが、部屋の空気に溶ける。
汗が混じり合い、鼓動が混じり合い、
ただひたすらお互いを感じ合い、高い所に昇りつめて、
これ以上ないくらいひとつに融け合ったのを感じた刹那、
光と熱の渦がスパークして弾け飛んだ。





動きが止まったランディの体が、アンジェリークの上に覆いかぶさる。
まだ激しい息遣いが耳元をくすぐる。ランディの重みが嬉しい。
アンジェリークも甘い余韻の波に襲われ続けていた。


「ごめん・・・明日は休みでもないのに。
途中からセーブが利かなくなった。大丈夫?」

「平気・・・とっても幸せ・・・・
ずっと離れているのはとても淋しかったけど、
その分今こうしていられる嬉しさがすごく大きくて・・・」

「だから今日のアンジェ、いつもと違ったのかな?」

「え?・・・・いやっ!ランディさま!」

「これからも逢えない時間を多くしてみる?」

「イヤッ、絶対にイヤッ!
きっと私、気がヘンになっちゃうわ。
そんなことわざとするランディさま、嫌いになっちゃうんだから!
やっぱりすごく意地悪!!」


みるみる涙が膨れ上がり、一瞬のうちに甘く潤んでいた緑の瞳がけむってしまう。
背けようとするアンジェリークの顔を、ランディは捉えた。
それでもいやいやをするように首を振るアンジェリークを逃さないよう、
しっかりと両手で包み込む。


「ごめん、嘘だよ。アンジェはすぐ本気にするんだから。
ずっと逢わないでいたら、俺の方がおかしくなっちゃうよ。」

「本当?」

「今日いつもと違ったのはアンジェだけじゃないよ。
俺だって・・・まだまだ愛し足りないくらいなんだから・・・」


アンジェリークの抵抗がランディの言葉に止む。
伸びた指先がランディの汗に濡れた髪をかき上げる。
その指先を捕らえ、ランディは大切そうに包み込み唇をあてる。
そのまま手のひらを重ね合わせて、しっかりと指を絡めた。


「ランディさま・・・」

「この手を離さない。いつもそばにいるよ。」

「嬉しい・・・」


アンジェリークの笑顔はすでに夢の入り口を彷徨い始めている。
微笑み返すランディも、すぐにその後を追って行く。
体を繋げたまま、指と指は絡ませたまま、
夢の中までも一緒にいたいと、眠りに落ちる2人だった。


                                 fin.





露埼さんの新刊の中のお話の サイドストーリー(というか続編)PART2 ですv
表紙を描いたご褒美に おねだりしてこんなに素敵なお話しを書いていただきましたvvv
離れ離れの後は やっぱり甘さも幸せも倍増!
とにかくアンジェもランディ様も会えた喜びでいっぱいなのが
こちらをも幸せにしてくれます♪ よかったねぇ〜、アンジェv 
ランディさま!もう、ずっとずっとアンジェの事 離さないでいいからね(笑)
露埼さんのサイトはこちらv→






 





04/06/27up