月のない夜

文 / 露埼 紗羽 様





あなたのいない夜は淋しい
あなたのいないベッドは広すぎる





「冷たい・・・・・」


頬に感じた冷たさに目を覚ましたのは夜更け。
漆黒の闇が窓の外に広がっている。
今夜は月も星も雲間に姿を隠しているようだ。
まるでアンジェリークの心そのままに。


「私・・・いつの間にか眠ってしまったのね」


アンジェリークはふるっと身を震わせた。
冷たいと感じたのは、淋しさに堪えきれずに
枕に落とした自分の涙。
部屋に戻ってからずっと涙が止まらなかった。
どのくらい泣いていたのかさえ、自分ではよくわからない。
そして、泣き疲れて眠ってしまったのだろう。
もしかしたら、眠っていたのは、
ほんの僅かな時間だったのかもしれない。


「ランディさま・・・・・」


そっと最愛の人の名を呼ぶ。
視察に旅立つ直前の自分に向けられた笑顔を思い出す。
聖殿で抱きしめられ、くちづけされたぬくもりが、
まだ、アンジェリークの体に、唇に残っていた。


「淋しさに胸がつぶれてしまいそう・・・・・」


一滴の涙が頬を伝うと、それがきっかけとなり、
再び後から後から零れ出す。


「我慢しなくちゃいけないのに。
わかってる、わがままだって。
わかってる、心配をかけちゃいけないって・・・・・」


だから、ランディの前では必死に堪えた。
笑顔で見送った。


「でも、無理をしてる事なんて、
きっとランディさまは気づいてるだろうな。
だっていつも・・・・・」



アンジェリークの脳裏に映るランディの姿。

「アンジェは泣き虫なんだから」

小さな子にするように頭をポンポンと撫でて、
その後は必ず優しく腕の中に抱きしめてくれる。
そのぬくもりにアンジェリークは安らいでいく。
それはまるで涙を止めるおまじない。
アンジェリークの笑顔を取り戻す魔法。

「そんなに泣いたら瞳が溶けちゃうよ」



「どうしても止まらないんだもの。
どうしようもない泣き虫なんだもの。」


濡れた瞳で傍らを見やる。
アンジェリークは、いつものくせでベッドの左側に寄って
ランディの場所を空けていた。
無意識にそうしてしまう自分に気づいては、
新たな涙に頬を濡らす。


「ランディさまがいないと、上手に呼吸も出来ない・・・・・」


1人でいることがこんなにも心細くて頼りなくて。
鼓動を感じたい。腕の中に包まれたい。


「胸が苦しい・・・・・早く帰って来て・・・・・」


アンジェリークは隣の枕に顔を埋める。
そうすればわずかな温もりが伝わってくるような気がして。
残り香を感じられるような気がして。


「ランディさま・・・逢いたい・・・・・」


そしてまた知らずに眠りに落ちていく。
涙の中に
ただひたすら
愛する人の帰りを待ちわびながら。


fin.







このお話は 露埼さんが’04,3月に発行した新刊【君の翼】の中のお話の
サイドストーリーPART1です。
月のない夜 とランディさまの不在が 見事に相まって
愛しい人がいない淋しさが ヒシヒシと伝わってきます。
泣き虫アンジェの涙は 素直な証拠で可愛いけど、
こんな淋しい涙は切ないので 早くランディ様に乾かして欲しいですよね。

しっとりした素敵なお話をありがとう〜v
露埼さんのサイトはこちらv→





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04/06/27up