
君と迎えた新しい年
文・露埼紗羽 様

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「そろそろかな?」
「そろそろね。」
・・・新しい年を、真っ白な風景の中で迎える事が出来たら・・・
何もかもが無に帰す純粋無垢な白。
新しい年のスタートに、これ以上ふさわしいものはない。
そう考えたアンジェリークは、雪の降らない聖地を、
新年の訪れに併せて、純白の世界に変えようとしていた。
「聖地のみんなにも、一面に降り積もる雪を見せてあげたいの。
きっと無垢な気持ちで新年を迎えられるはずよ。」
ランディがその提案を聞いたとき、
何よりも先に、アンジェリークの体を思いやった。
それを実現させるためには、力をかなり使う事になるだろう。
それでなくてもアンジェリークは、普段から人一倍頑張っているので、
これ以上の負担はかけさせたくないというのが素直な気持ちだった。
結局は、決して無理はしないという約束の元に、
強固な意志を貫いてしまったアンジェリークである。
それはアンジェリークらしいといえばらしいのだが、
ランディは心配で仕方がなかった。
「ただね、雪祈祭の時は、お祭りの延長だったし、
最後にほんのちょっとだけ降らせただけだから。
今度はうまくいくかちょっぴり不安なの。」
「君ならきっと大丈夫さ。
そのために今まで頑張って来たんじゃないか。」
ずっとそばで見守って来たランディは、
直前まで一生懸命に頑張っていたアンジェリークを、
誰よりも一番よく知っている。
女王の力は王立研究院のデータに、一分の隙もなく完全に組み込まれた。
降り始めた雪は少しずつ降り積もり、新年を迎える頃には、
聖地は間違いなく雪景色に覆われるはずである。
「それでもやっぱりドキドキする。」
「ちょっと外を覗いてみようか。」
「ううん。新年を迎えるまで待っていたいの。
今見てしまうのがもったいない。
ね、ランディさま、待っていましょう?」
ほどなくして、新年の訪れを知らせる鐘の音が、
聖地の夜空に鳴り響いた。
「あ・・・!」
「アンジェ、外に出てみよう!」
バルコニーに出て外を見ると、うっすらと降り積もった雪が、
聖地を白一色の世界に変えていた。
夜気の中にも一面の白が見て取れる。
「よかったね、アンジェが頑張った成果だよ。」
「ううん。ランディさまが一緒にいてくれたおかげよ。」
「とても綺麗だね。清らかで一点の穢れもない。
まるで君みたいだよ。」
「ランディさま、そんなの恥ずかしい・・・・。
ねぇ、みんな、喜んでくれるかしら。」
「もちろんさ。夜が明けたらきっとこの光景に驚くよ。
あ、アンジェ、寒くないかい?」
ランディはアンジェリークを後ろから包み込むように抱きしめ、
アンジェリークの手を取り、自分の手のひらの中に包み込んだ。
「暖かい、ランディさまの手のひら。」
「新しいはじまりの時だね。」
「ええ。ランディさまと2人でこの瞬間を迎える事が出来て、
私とっても幸せよ。」
「アンジェ、今年も一緒に頑張って行こうね。」
「はい・・・ランディさま・・・。」
真っ白な世界の中で、2人はそっと唇を重ねた。
fin.
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