蛍の淡い光。降りそそぐ星々。
頭上から2人を照らし出す月。
星空の下で・・・・・抱き合う2人。
「アンジェ、平気?」
「ええ・・・」
夜気の中、ランディのマントに覆われて、
その腕の中に抱かれているアンジェリークは、
まだ終わらない波が、少しずつ引いていくのを、
甘い疼きの中で感じていた。
気持ちが昂ぶってしまった。
抑え切れなくなってしまった。
お互いを求め合い、そのまま・・・・・愛を交し合った。
「・・・・い」
「ダメ・・・」
「どうして?」
「もし、誰かに見られたら・・・・」
「誰も来やしない・・・」
耳元で囁くランディの低い声に、体中が熱くなる。
アンジェリークが顔を上げると、熱い瞳がそこにあった。
恥ずかしさに凝視出来なくて、瞳を伏せながらそっと頷く。
ここしばらく、肌を合わせる事は叶わなかったのだ。
言葉では制止してみても、ランディと同じ気持ちなのは、
自分が一番よく知っていた。
今すぐに触れたい。
今すぐに触れられたい。
広げられたマントの上に、2人はそのまま倒れこんで行った。
胸元までドレスが下ろされて、白い肌が露わになる。
月映えに映るアンジェリークの肌は、
この世のものとは思えないくらいとても美しく、
ランディは思わず視線を釘付けにした。
アンジェリークは恥じらいを浮かべて、両手で胸を隠す。
そんなアンジェリークにランディは愛しさを抑えきれない。
背中を気遣って手を回し、上半身を軽く起こさせもう一度唇を重ねる。
絡み合う舌の感触がいつもより生々しく感じるのは、気のせいだろうか。
体温はみるみる上昇し体中が熱を帯び始める。
「月が・・・見てる・・・」
「月? やきもちをやくかな?
アンジェの綺麗な肌は見せたくないよ。」
ランディはアンジェリークを月の視線から隠すように、覆いかぶさった。
胸を隠す両手をほどき、そのふくらみに唇をあてる。
体の奥から湧き上がる衝動に任せて、その唇を這わせ、
久しぶりに触れるその皇かな感触を、手のひらで、指で確かめる。
触れ合うほどにあふれ出すアンジェリークの甘い吐息が、
夜の闇に溶けて行く。
優しくも情熱的な愛撫を体中に受けながら、
すでに潤みきったアンジェリークの身体の奥は、
ランディに満たされるその時を待ち侘びていた。
「ラン・・・ディ・・・さま・・・・・」
「・・・いい?」
答えるのが恥ずかしくて、しがみつく手に力を込める。
ランディは痛いほどに張り詰めた自身をあてがうと、
アンジェリークの中へ一気に腰を進めた。
繋がった2人の体は、星空と蛍とが織り成す、
きらめくばかりの光の海に漂う。
徐々に速度を増して行くランディの動きに揺られながら、
アンジェリークは頭上の月を見上げていた。
昔読んだ物語が頭に浮かぶ。
月には本当に女神がいるのだろうか・・・・。
・・・・ごめんなさい・・・ランディさまは私だけのランディさまなの・・・・
女神に見初められたあの少年は、
その姿のままで老いる事なく確か・・・永遠の眠りに・・・・
アンジェリークは身震いする。
ランディを誰にも渡さないように、離れてしまわないように、
しっかりとその肩に縋りついた。
ランディの中にも、月が彼女を連れ去ってしまいそうに思えた
あの日の感覚が、蘇っていた。
・・・・そんなこと、させるもんか!アンジェは、俺だけのものなんだ・・・・
その事を確かなものとして感じるために、頭上の月に思い知らせるために、
柔らかな彼女の中を何度も行き来する。
星空の下で抱き合うという、この稀有な状況に加えて、
行為の一部始終を月に見られているという意識が無意識に働くためか、
体中を駆け巡る快感は、いつもより強烈な刺激を伴っていた。
「アンジェ・・・アンジェリーク・・・」
「ランディさま・・・ラン・・・ディさ・・・ま・・・」
名前を呼び合うほどに、気持ちが溢れる。
幾度となく波にさらわれそうになるアンジェリークを掬い上げ、
ランディはさらにその先へと連れて行こうとした。
「んあ・・・っ・・・・っはぁ・・・・・」
アンジェリークの口から零れるその声も、
ベッドの上で聞くそれとは違って、ひどく扇情的にランディの耳朶を打つ。
動きはさらに激しさを増し、ランディはアンジェリークの体にのめり込み溺れていく。
激しく突き上げられる中で、いつしか眼に映る光の輪郭がぼやけ、
自分を見失い、アンジェリークにはランディだけがすべてとなる。
もうお互いの事以外は何も考えられない。
夜の静寂の中に、2人が作り出す愛の旋律だけが妖しく響き渡る。
「ああ・・・ん・・・んんっ・・・・」
アンジェリークが堪えきれず最後の波に呑み込まれ、身を投げ出した時、
ランディも終極を目指して、一気にアンジェリークの中を駆け抜けた。
2人の上を夜の風が静かに通り過ぎる。
火照った頬に心地よく、熱く燃えた体を冷まして行く。
月の視線を遮るように、マントにくるまった2人の体は、
ようやく落ち着きを取り戻していた。
「綺麗ね・・・・ランディさま・・・・」
「ああ。」
見上げると、満点の星空が、目の前いっぱいに広がっている。
それを彩るように、飛び交う蛍が美しい。
・・・・・この光景を忘れない・・・・・
ランディの腕の中で、アンジェリークはそう心に刻み込んだ。
fin.
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