Metamorphose 2





「待って! ランディ様!」

いつもなら肩を並べて歩くランディが、アンジェリークを待たずに
前をすたすたと歩いて行く。


「ねぇ、怒ってるの?」

「怒ってないよ。」

「うそ、怒ってる!」


ランディは立ち止まり、アンジェリークに向き直った。
視線がなんとなく痛い。


「アンジェ、俺の事ちょっとでも疑っただろう?」

「え・・・? イヤだな、ランディ様、何のこと?」

「誤魔化すんじゃないの。」

「だって、ゼフェル様があんなふうに言うんだもの。
よく考えたら、そんな事絶対にありえないってわかってるけど・・・」

「でも、もしかしたら、って思ったよね?」

「ごめんなさい・・・・」

「ひどいなぁ、アンジェ。俺ってそんなに信用ないの?」


アンジェリークは黙って首を横に振った。
ランディの事を信じているくせに、あの場でゼフェルの話を聞いて、
一瞬でも疑ってしまった自分が確かにいるのだ。
アンジェリークはランディに責められるのも仕方がないと素直に思う。


「それに、あの後何を話そうとしたの? 
まさか、俺がオリヴィエ様にあんな格好をさせられた事、
2人に言おうとしたんじゃないよね?」

「えっと・・・それは・・・その・・・」


図星を指されたアンジェリークは、どう返事をしていいかわからずに
ランディから視線をはずして言葉を濁した。


「さあ、どうしようかな〜。」

「え?」

「俺の事疑ったアンジェには、責任取ってもらおうかな。」

「ええっ?どうすればいいの?」


どこか楽しそうなランディとは対照的に、
アンジェリークは困惑の表情を浮かべた。


「俺の言う事、何でも聞く?」

「何でも?」

「そう、何でも。」

「わかった・・・。何でも聞く・・・。」

「よし!じゃ、今日は今からずっと俺のそばにいる事!」


一緒にいられるのは、もちろん嬉しい事だったし、
言う事を聞くも何も、それっていつもの事じゃないと
アンジェリークは思ったが、とりあえずホッと胸を撫で下ろした。





風の館に着くと、いつものようにヴァンが出迎える。
アンジェリークの姿を認めると、真っ先にじゃれついて来た。


「ヴァン!いい子にしてた?」


アンジェリークもしゃがみ込んで、ヴァンの金色の毛並みを
撫でてやる。ヴァンは嬉しそうにアンジェリークに体を摺り寄せた。


「アンジェ、ダメ。」

「え?」

「今はヴァンよりも俺!」

「やだ・・・ランディ様ったら!」

「何でも言う事聞くって言ったよね?」

「だから今日はずっと一緒にいるって。」

「そう。ずっと一緒にいて、俺の言う事を聞かなくちゃいけないんだよ?」

「ええっ?そうなの!?」

「当たり前じゃないか。」


アンジェリークは目を丸くして、ランディを見つめた。

・・・・ランディ様がそんな事を言うなんて!・・・・・


強引な事を言ってはいても、ランディは少し照れたような顔をしている。
アンジェリークは驚きを通り越して、そんなランディを可愛いと思ってしまった。


「ヴァン、ごめんね。」


アンジェリークは立ち上がり、ランディの首に腕を絡めた。
悪戯っぽい瞳でランディを見上げると、自分から唇を合わせる。


「ランディ様、今日も1日ごくろうさまでした。お帰りなさい。
これで・・・いい?」

「あ、ああ。」


アンジェリークが思いがけない行動を起こしたので、
ランディはいささか焦ってしまった。
今度はアンジェリークの方が楽しそうにクスクス笑う。


「他には・・・何をすればいいの?
ランディ様がして欲しい事、何でもするわ?」

「や、やっぱり、そばにいてくれるだけでいいよ。」

「うそ。」

「うそじゃないったら。
じゃ、アンジェは何がしたいの?
アンジェがしたいと思っている事をして欲しい。」

「ランディ様!それってずるい!」

「どうして?何でも言う事聞くって言ったじゃないか。」

「じゃ、ヴァンと遊びたい!・・・って言ったらどうするの?」

「それはダメ!って言っただろう。」

「・・・それじゃ・・・ゼフェル様とマルセル様も呼んで来て、
一緒にお食事でもしましょうか? 何ならオスカー様やオリヴィエ様も?
私がそばにいればいいんでしょう?」

「ダメダメ! そんなの、ぜ〜ったいにダメっ!!」

「うふふ・・・そばにいて欲しいだけなんてやっぱりうそじゃない。
ねぇ・・・だったら何をして欲しいかはっきり言って?」


ランディはいきなりアンジェリークを抱き上げた。


「ちょ、ちょっと、ランディ様!」

「俺はアンジェと2人きりがいいんだ!
そんな事ばかり言ってるアンジェは、閉じ込めてしまうから!」


そのまま寝室に抱き運び、ランディはアンジェリークを
ベッドの上にストンと下ろす。


「そこでしばらくじっとしてて! 俺、着替えてくるから。」

「ええ〜? そうだ! ランディ様、私お着替え手伝ってあげる!」

「いいから、そこにいるんだ。」

「はぁい・・・」


ランディが奥の部屋に入って着替えをしている間、
アンジェリークはベッドに横になってみたり、
枕元においてあったランディの読みかけの本を、パラパラとめくってみたり、
何となく手持ち無沙汰にしていた。


「あら、これ・・・」

「アンジェ、じっとしてろって言っただろう?」

「きゃっ! びっくりした!
ねぇ、ランディ様、これ。」


アンジェリークが手にしたのは、シルバーのアクセサリーで、
それは先日、オリヴィエに悪夢の変身させられたランディが、
無理やりつけさせられたものだった。


「オリヴィエ様に持ってけって、押し付けられたんだよ。
もう2度と使う事なんてないのに。」

「そんな事ないわ。よく似合っていたのに・・・。」

「思い出させないでくれよ。」

「どうして?」

「どうしても!」

「でも・・・あの時のランディ様・・・」

「ん・・・?」

「えっと・・・ううん・・・何でもない・・・」


アンジェリークは何を思い出したのか、首筋まで真っ赤に染めて
恥ずかしそうにうつむいた。ランディも咳払いなんかしたりして、
言葉に詰まってしまう。
2人はベッドサイドに並んで腰をおろしたまま、
何となく無口になってしまった。
そのまましばらくすると、アンジェリークは傍らに置いてあるランディの手に
自分の手のひらを重ね、その肩にコトンと頭を乗せた。


「・・・・じっとしてたら・・・・次はどうすればいいの?」

「アンジェはどうしたいの?」

「私、今日はランディ様の言うとおりにしなくちゃいけないんだもの・・・
だから・・・ランディ様がしたい事を・・・・」


ランディがアンジェリークの手を握り返し、2人の視線が交わり合った。
何をすべきかなんて、答えは出ているのを2人は知っている。
見つめ合ったまま、唇が近づく。一度触れ合っては離れ、そしてまた・・・
それは徐々に深いキスへと形を変える。


「君は・・・俺に・・・」


ランディはそう言いながら、アンジェリークをベッドに横たわらせた。


「私は・・・ランディ様に・・・?」

「抱かれなくちゃいけない・・・」


ランディの唇が首筋に移り、アンジェリークは瞳を閉じた。
自分の体がゆっくりとランディに崩されていくのがよくわかる。


「閉じ込めて・・・私を・・・ランディ様の中に・・・」

「大好きだよ、アンジェ・・・」

「あ・・・んん・・・いや・・・・ランディ・・・さま・・・」


アンジェリークの甘えた声が聴きたくて・・・
自分の名前をもっと呼ばせたくて・・・
白い素肌に優しく指を這わせながら、ランディは囁く。


「もっともっと君を感じたいんだ・・・・」

「ふ・・・・・んくっ・・・」


アンジェリークの意識は、自分でも手の届かない所へと流されて行く。
ただひたすら翻弄されて、甘い波に呑まれて行く。
熱く蕩けた体の中に、ランディが入ってくる瞬間を待ち望みながら。


「ラン・・ディさ・・・あっ・・・んぁっ!や・・・はぁっ!・・・んっ・・・」


アンジェリークの甘い喘ぎが、少しずつ熱く激しいものとなる。
自分の指と唇の動きに反応して、しなやかに肢体をくねらせながら、
溺れて行くアンジェリークを視覚に捉えたランディは、
自分もそろそろ押さえが利かない事を感じ始める。
アンジェリークの望むままに、自らを柔らかな彼女の中に打ちつけて行く。


「あっ!・・・ああっ・・・」


アンジェリークはランディに縋り付く事で、
かろうじてその場に踏みとどまろうとするのだが、
最後のかすかな糸さえも、ランディに激しく揺さぶられる事で断ち切られ、
自分を見失ってしまう。そしてそのまま意識を手放してしまうのだ。


「ラン・・・ディ・・・さ・・・ま」


アンジェリークを再び引き戻してくれるのは、やはりランディしかいない。


「大丈夫?」

「ん・・・」


激しい息遣いが残ったまま、ランディはアンジェリークが落ち着くまで、
いつも優しく抱きしめていてくれる。
アンジェリークは安心して、ゆっくりと自分を取り戻す事が出来る。


「アンジェ。」

「なぁに?」


腕の中のアンジェリークは、甘い余韻のこもった潤んだ瞳で
ランディを見上げる。


「抱いて欲しかった?」

「ランディ様の意地悪!」

「あはは!そういえば、アンジェ、おなかすいてない?
俺、アンジェを食べるのに忙しくて、食事するのすっかり忘れてたよ。」

「もう、やだ!」


というわけで、この日の2人は、
思いきり遅目の夕食を摂る事になってしまった。

その後も、アンジェリークはランディの言う事を聞いていたのかって?
それは2人だけの秘密。
これ以上ランディがアンジェリークに何をさせたかなんて・・・ねえ?


                                 THE END





アンジェもランディ様もいつもとは180度違ったファッションで びっくり!(笑) でもワイルドになってみても 心はやっぱり可愛いですね(*^^*) 疑われたお仕置きにとわがままを言わせてみれば結局いつもと同じ「ずっと側にいること」だなんて、つくづくランディ様はアンジェにベタ惚れ(笑)あぁ、もうホント可愛いったら(笑) でも一緒にいてすることはちょっと大人(笑) 愛する人を素直に求めてしまうところも可愛いんですv
このお話を読ませていただいた時に、ワイルドな格好の2人ってどんなんだろう?と思って、露埼さんに許可を頂いて描いてみました。皆さんのイメージを壊さないことを祈っています
露埼さんのサイトはこちらv→











03/12/03up