文 / 露埼 紗羽 様







女王陛下と守護聖の恋。


      その恋は時を経た今でも語り継がれている・・・・・・








「うわぁ、綺麗なお姫さまと王子さま!
この人たち、だあれ?」


王立芸術院。
祖母に連れられ、そこを訪れた小さな女の子が
壁に飾られている、ひときわ大きな1枚の肖像画に目を留めた。


「これは第256代目の女王陛下、私たちの世界の初代の女王さまよ。
そして女王さまを誰よりもおそばで支えていた、風の守護聖のランディ様。
お二人はとても仲睦まじかったのですって。」

「女王さまと守護聖さま?」

「そう。お二人はね、女王試験中に恋に落ちてしまったの。」

「ええっ? ね、おばあちゃま、お二人のお話をもっと聞かせて!」

「ええ、いいわよ。
女王さまは、それは慈愛深いお方だったの。
その御代は、平和と愛に満ち溢れていたのよ。
きっとランディ様に愛されて、幸せだったからでしょうね。
ランディ様はとてもまっすぐな方で、剣の腕に長けていて、
誰よりも女王さまを大切にしていたの。」

「ふーん。」

「女王試験は聖地とは別の飛空都市という場所で行われたそうよ。
試験中のお二人の姿は、公園や森の湖やカフェテラスや
いろいろな所で見かけられたのですって。
仲良くフリスビーをなさったり、ランディ様の愛犬と一緒にお散歩をされたり、
そういえば、お二人で木登りもなさっていたと聞いた事もあるわねぇ。
爽やかな守護聖さまと愛らしい女王候補のカップルですもの。
どこに行っても人目を引いてしまったのでしょうね。
お二人とも気さくな人柄なので、街の人々の中にも自然にとけ込んでいて、
そのお姿は、普通の若い恋人同士と何も変わらなかったのですって。」








「アンジェ!」

「ランディ様、ごめんなさい! お弁当を作るのに手間取っちゃって。」


アンジェリークの足元に1匹の犬がじゃれついて来た


「あら?このワンちゃんは?」

「俺の飼っている犬。アンジェにも会わせたくて
今日は連れて来ちゃったんだ。」

「可愛い。ワンちゃん、お名前は何て言うの?」

「名前?・・・そういえば名前つけてなかったよ。あはは・・・」

「まぁ、ランディ様ったら!」

「そうだ、それならアンジェ、君がつけてくれないか?」

「え?私が?いいんですか?」

「ああ。もちろんだよ!」


その時、公園を爽やかな風が吹き抜けた。


「・・・そうだわ!ヴァン・・・」

「ヴァン?それって風っていう意味だね?」

「はい・・・ランディ様のワンちゃんだから・・・」

「そうか。うん、決まりだ!おまえは今日からヴァンだぞ!」

「ワン!ワン!」

「あはは、気に入ったみたいだ・・・・
って・・・さっきからアンジェに甘えすぎだぞ、おまえ。
俺よりも、アンジェの事がすっかり気に入っちゃったみたいだ。」

「うふふ、嬉しいです、私。
これからもよろしくね、ヴァン!」


ヴァンは嬉しそうに尻尾を振りながら、アンジェリークの顔をペロペロ舐めた。


「ああっ〜〜〜。おまえっ!
よし!ヴァン、フリスビーだ!アンジェ、君も一緒にやるかい?」

「はい!ランディ様!」


2人の周りには、いつの間にか子ども達が集まって来る。
子ども好きな2人は、一緒になって楽しい時を過ごした。

どちからともなく手を繋いで歩く帰り道。
ランディはアンジェリークを特別寮まで送り届けた。


「今日はありがとうございました。ランディ様。
とっても楽しかったです。ヴァンもありがとう。」

「アンジェ・・・」

「はい?」


ランディはアンジェリークの額に、ほんの一瞬唇を触れさせた。
照れたような笑顔を、アンジェリークに向ける。
驚いたアンジェリークも、すぐに恥ずかしそうに頬を染めた。


「俺も楽しかったよ。ありがとう・・・アンジェ。」








「でもね、その時の宇宙全体が危機に陥ってしまったの。
予期せぬ形で試験が終わり、女王さまが決まってしまったわ。
そのお力で、危機はもちろん救われた。私たちの新しい宇宙の始まりね。」

「女王さまになっちゃったのね? それでお二人はどうなさったの?」

「それまでは、女王陛下と守護聖さまが恋をして結ばれるなんて、
前代未聞の事だった。
お二人が愛し合っている事は、試験中から周囲の知る所となっていたから、
誰もが悲しい結末を予想して胸を痛めていたの。
もしかすると反対する者もあったかもしれないわね。
でも、お二人は諦めなかった。想いを貫かれたの。
いつも前向きに進んで行かれるお二人だったからこそ、
今までのしきたりを変える事が出来た。
この宇宙に、たくさんの新しい風を運んだのよ。
試験が終わり、愛する人が女王さまとなる事が決まった時、
お二人は改めて将来を誓い合ったそうなの。」








「君が女王になっても、俺の気持ちは変わらない。
いつだって一番近くで君を守るよ。」

「ランディ様、私のすべてはいつだってランディ様の元に。」

「アンジェ・・・・・・・君を愛してる・・・・愛し抜くと誓う。」


ランディは、アンジェリークを優しく抱きしめた。
明日には、女王という高き存在にのぼる愛しいアンジェリークを、
今だけは自分の腕の中に閉じ込めようとするかのように。

見つめあった二人は、優しいくちづけを交わす。


あなたはいつも勇気をくれる。
あなたがいるから頑張れる。
あなたと一緒だったら・・・どんな事でも乗り越えて行ける。


アンジェリークはランディの腕の中で、想いをかみしめる。


「俺達、女王と守護聖としての時間を精一杯生きよう!
そしていつか時が来たら、俺の故郷へ来てみないか?
君に見せたい風景があるんだ。」

「はい・・・ランディ様・・・・」


ランディはもう一度アンジェリークの唇に、約束の唇を重ねた。


「俺達で、新しい未来を作って行こう。
君と2人なら何だって出来るはずさ。
明日がそのはじまりの日なんだ。」


君となら。
あなたとなら。
そう・・・ふたりなら。



・・・・絶対に色あせない伝説みたいな恋をしよう・・・・



東屋で誓った永遠を胸に秘めて、2人は即位の当日を迎えた。








「ねぇ、おばあちゃま・・・お二人はもう自由に逢う事が出来なくなっちゃったの?」

「それがね・・・・うふふ・・・とてもお二人らしいというか・・・」

「なあに、なあに?」

「きっと、逢わずに離れ離れでいる事なんて、
出来なくなっていたのでしょうね。
さすがに試験中のように自由に出歩いたりする事は、
かなわなくなってしまったらしいけれど、
それでも時折、お忍びで歩くお二人の姿が見かけられるようになったの。
歴代の女王さまでは考えられなかった事らしいけれど、
お二人は、事もなげに変えてしまわれたのよ。」

「わぁ・・・」

「それまでの女王さまは宮殿の奥にこもられて、
声すらも補佐官と呼ばれる女王さまの側近の方を通してでないと
聞けなかったというけれど、この女王さまは進んで外へ出かけられ、
自ら民の声を聞いたりもしたの。
ランディ様はそんな時、いつも女王さまを守るように傍らにいらして、
女王さまもランディ様に寄り添って、幸せそうな笑顔を絶やさなかったそうよ。」








「アンジェ!また抜け出して来ちゃったのかい?」

「だって・・・窓からランディ様の姿が見えたから。
お顔が見たくなっちゃったの。たまには息抜きしなくちゃ!」

「困った女王さまだね。で、どうするの?」

「森の湖にお散歩!」

「もう、しょうがないなぁ。ちょっとだけだぞ。」


2人だけでいられる束の間の時間を惜しむように辿り着いた森の湖。
自然にあふれた湖のほとりに、2人は肩を並べて腰をおろした。


「静かね・・・」

「ああ・・・」

「飛空都市の森の湖、憶えてる?」

「もちろんだよ。忘れるわけないじゃないか。
だってあそこは・・・」



初めて想いを打ち明けあった場所。
初めてくちづけを交わした場所。

言葉にしなくてもわかる、2人だけの大切な想い出が溢れる場所。



「それにあそこには、不思議と君がいるような気がして。
行ってみると、本当に君がいて。偶然にあそこでよく逢ったよね。」

「偶然じゃなかった、って言ったら?」

「え?」

「ランディ様に逢いたいって滝にお祈りしていたの。」

「本当かい?」


アンジェリークはランディの肩に寄りかかり、体を預けると、
悪戯っぽい瞳を、ランディに向ける。


「だって、逢いたかったんだもの。
今だって・・・いつも逢いたいって思ってる・・・」

「週末はいつも一緒に過ごしているのに?」

「私、欲張りなの。欲張りな私は嫌い?」

「どんな君でも、俺は大好きだよ。」

「ランディ様・・・私とっても幸せよ・・・」








「でもね、そんな2人にも離れ離れになってしまう辛い時期があったの。
別の宇宙から侵略者と名乗る皇帝が現れて、
女王さまを人質に捕らえてしまったのよ。
この宇宙の歴史の中の唯一暗い出来事ね。
その時、ランディ様は他の守護聖様たちと一緒に戦い、
自ら傷を負いながらも、命を懸けて愛する女王さまを救い出したという事だわ。
そうしてこの宇宙は守られたの。」

「そんな事があったの?離れ離れに・・・かわいそう・・・」

「でもね、それからのお二人は、ますます仲睦まじくお幸せな様子で、
宇宙もそれまで以上の発展を遂げる事になったの。
お二人は本当にいろいろな事を乗り越えて来られた。」

「それならよかった!
ねぇ、おばあちゃま、お二人同じ指輪をしているけれど、
結婚なさっていたの?」

「在位中は結婚はなさらなかったわ。
でも、お二人のお気持ちの中には、すでに確かなものがあったのでしょうね。
これはきっと誓いの指輪だと思うわよ。
お二人と仲のよかった鋼の守護聖さまが作って差し上げたと聞いているわ。」

「このペンダントも?」

「ランディ様の瞳の色をしたブルームーンストーンのペンダントね。
これもランディ様から贈られたもので、
女王さまは肌身離さずつけていらしたそうよ。」

「素敵だなぁ・・・・。ねぇ、それから?」

「そうして平和な時代がとても長く続いたのだけれど、
女王さまや守護聖さまの持つサクリアというのは永遠ではないの。
やがて、新しい風の守護聖さまと交代する時期が来たのよ。
それぞれの持つ力を失えば、退かなくてはいけない。
それまでの慣習では任を解かれたら、聖地を去らなくては行けなかったの。
でも、このお二人はここでもそれを覆した。
その頃のランディ様は首座の守護聖さまとなっていらっしゃったから、
全体のまとめ役と指導者もかねて、ランディ様は聖地に残れる事になったのよ。
女王さまをそばでお守りする騎士としてのお役目ももちろんよ。」

「今度は離れ離れにならなくてよかったのね!」

「そう。だけれど、たくさんの愛を宇宙全体に注ぎ込まれた結果かしら、
それとも、もしかしたらランディ様のサクリアに共鳴していたのかもしれない。
間もなく女王さまのサクリアも少しずつ衰え始めたの。
すぐさま新しい女王試験が行われ、そうして後にすべてを託された上で、
お二人揃って聖地を去ることになったのよ。」








「約束の時が来たね。
俺の故郷に一緒に行ってくれないか?」

「ええ。」

「その・・・・今まで改めてちゃんと言った事がなかったけど、
アンジェリーク・・・・俺の・・・・お嫁さんになってくれるかい?」

「ランディ様・・・・喜んで・・・」


あの日、約束を交わした東屋で、2人は再び永遠を誓い合う。

あの日と同じように、2人は優しいくちづけを交わす。
アンジェリークは、甘えるようにランディの腕の中に包まれた。

あの時の気持ちは今も変わっていない。
それどころか、あの時以上にお互いを愛しく想う気持ちが胸に溢れている。


「でも、1つだけお願いがあるの。」

「何だい?」

「ヴァンも一緒に連れて行っていい?」

「もちろんだよ!」








「それでそれで?
そのあとのお二人は?」

「お二人の結婚が正式に決まって、聖地中が祝福に包まれたそうよ。
他の守護聖さま方に見守られて結婚式を挙げられた後、聖地を去られて、
お約束どおり、ランディ様の故郷で、静かに暮らされたと聞いているわ。
お二人によく似た可愛い男の子と女の子にも恵まれて、
それは幸せな一生を送られたそうなの。」

「うわあ、よかった・・・
ずっとお二人で幸せに暮らせたのね!」



・・・・・・想いがあれば、それは必ず本当になる。
     未来は自分達でつくり上げるものだから・・・・・・


絵の中の2人は、そう語りかけて来る。



「アンジェリーク。おまえが生まれた時、
神官さまが金色の髪と緑の瞳を見て、
この女王さまにあやかって、愛に溢れた人生を送れるようにと、
この名前をつけて下さったのよ。」

「本当? 私と同じお名前の女王さまなの?
アンジェも、この女王さまみたいになる!
私だけの王子さま、アンジェにも見つかるなぁ?」

「ええ、きっとみつかるはずよ。」




金色の髪の小さなアンジェリークは、幸せそうに微笑む二人の肖像画を、
愛くるしい緑の瞳で、いつまでも飽きる事なく見つめ続けていた。






「ランディさま〜!待って!」

「早くおいでよ、アンジェ! ほら、この手につかまって。」



幸せそうな2人の声が、風が奏でる柔らかな旋律に乗って、
今にも聞こえてくるようだった。



                           fin.




露埼さんのサイト1周年記念のフリー創作を 又しても頂いてきましたvvv
私と同じく、やはりアンジェリーク最終話を読んで感じる所があり書き上げた作品で、
【伝説】になった2人の、出会いから 幸せな未来への軌跡に感動です!
『信じる気持ちがあれば願いはいつかきっと叶う』と仰るランディ様らしく
自分の未来を 愛しいアンジェと一緒に 切り拓き 重ねていく・・・
その姿はまさしく【伝説の恋】ですね!素敵なお話をありがとうございました〜vvv
露埼さんのサイトはこちらv→






 




03/05/19up