lovesickness
文 / なおえもん 様




風の守護聖ランディの様子がおかしいのは、誰が見ても明らかだった。
執務を人一倍がむしゃらにこなしたと思えば、次の日にはぼ〜っとして溜息ばかりついている。
またある時にはイライラして大声を出したり、かと思えばふさぎ込んで話し掛けても返事すらしない。

 

「絶対、おかしいよ。ランディってば」
ある日の午後。地の守護聖主催のお茶会で、マルセルは訴えた。
「ねぇ、ゼフェルもそう思うでしょ?」
ミネラルウォーターを美味しそうに喉をならしながら飲むゼフェルに向かって問い掛ける。
「・・・あぁ、そうだな。ありゃ普通じゃねぇぜ」
「でしょ!?僕心配だなぁ。ねぇ、ルヴァ様、どうしたらいいんでしょう?」
ルヴァは皆のためにお茶を運んできたところだった。
「え、あぁ、ランディのことですか〜。そうですねぇ、私も気にはなってるんですが・・・」
「んっふっふ〜ん♪そんなのわかりきったコトじゃないさ☆」
紅茶を一口飲み終えるとオリヴィエは楽しそうにつぶやいた。
「え!?オリヴィエ様にはわかるんですか?」
「なんだよ!もったいぶらずに教えろよ」
「まぁ、アンタたちお子様にはわからないだろうねぇ」
「・・・オリヴィエ、私にもわかりませんが・・・」
「そうだねぇ、ルヴァもオクテだから」
「だから、なんなんだよっ!!」
「あ〜っ!もう、わかったからお放し!ランディはズ・バ・リ恋患い☆」
恋患い〜!!
「誰に・・・ってアイツか・・・」
「アンジェ・・・?」
「そうそう♪あ〜もう青春だねぇ〜☆」
「はぁ、そうだったのですか〜」
「でも・・・オリヴィエ様・・・」
マルセルが心配そうな顔でたずねる。
「それって病気・・・なんでしょ?どうしたら治るのかなぁ」
「ん〜、そりゃアンジェとうまくいけば治ると思うけど・・・」
と、そこへ当のランディが通りかかった。
「ウワサをすれば・・・ご本人の登場だよ☆」
「よぉし、いっちょ協力してやっか!」
「おや?今回はヤケに素直だね〜ん?」
「う、うっせーな!ランディ野郎がおかしいとこっちまで調子狂うんだよ!だ、だから・・・」
「ゼフェルは本当は優しい子ですからねぇ」
「ルヴァ、余計なコト言ってんじゃねぇよ!」
「あ、ランディが通り過ぎちゃう〜!ランディ〜!ねぇ、ランディってば〜!!

 

マルセルが大声で呼んだので、ランディはやっと気付いたようだった。
「あ・・・みんな集まって何してるんだい?」
「皆でお茶会をしてるんですよ〜。よろしかったらランディもどうぞ」
「ランディの好きなコーラもあるよ!」
「おめー、今日は一段とボ〜ッとしてんな」
「!・・・そ、そんなコトないっ・・・」
「ハイハ〜イ、そこまで☆・・・(ゼフェル、アンタ言ってるコトとやってるコトが全然違うじゃないの!)
 とにかく、立ち話もなんだからさ、こっちに来て座らな〜い?」
とりあえず、ランディを引き止めることには成功したが、次は・・・。
「ちょっと、ルヴァ!アンタから聞き出してみなさいよ」
「はぁ〜、私はこういうコトには疎いものですから〜。やっぱりオリヴィエから聞いて下さいよ〜」
「ア、アタシだって得意ってワケじゃないし・・・」
「もう、どっちでもいいですから早く聞いて下さいよ〜!」
「な〜にコソコソやってんだよ、じれってぇな!オレが聞いてやるよ!」
「え?ゼフェル?」
「ランディよぉ、おめー、アンジェのコト好きなのか?」
ランディはコーラを一口ゴクリと飲み込むと同時に、みるみる顔が真っ赤になっていった。
「あらら〜☆また単刀直入に・・・。でもランディもわかりやすいわね〜」
「な、なんだよ!イキナリ!!びっくりするじゃないか」
ランディは赤くなりながらも平静を装うフリをするが、全然効を奏していない。
「ランディ、みんな心配してるんだよ。最近、ランディの様子がおかしいから。だからね」
「それでよぉ、オリヴィエが恋患いのせいだって言うからよぉ」
「あ〜、ランディ、人を好きになることは決して恥ずかしいことじゃありませんよ。でもね、そのことで執務がおろそかになる
のはあまり感心できるものじゃありませんからね〜。ですから、私たちで力になれることがあったらと思いましてね〜」
「み〜んな、アンタのコト心配してるのさ☆」
「あ・・・」
ランディもようやく落ち着き、ぽつりと話し始めた。
「よく・・・わからないんです・・・アンジェのコト思うとドキドキして何も手につかなくなるし・・・でもこんなんじゃダメだと思って
頑張っても上手くいかなくてイライラするし・・・自分でもおかしいと思うんですけど・・・」
「やっぱりね〜☆」
「俺、どうしたらいいんでしょうか?」
「う〜ん、アンジェもアンタのコト嫌いじゃないと思うし・・・思い切ってぶつかってみれば!?」
「え?ぶつかる??」
「あ〜、コイツにそんなコト言ったら、ホントにアンジェに体当たりするからやめとけって。要するに、告白しろっつうこった」
「こ、告白って・・・」
ランディはしばらく絶句して考え込んでしまった。
すると公園の方から誰かがやって来る気配がした。
「あ、アンジェ!」
マルセルの声に素早く反応してランディは顔を上げた。
視界に笑顔のアンジェリークが飛び込んでくる。
しかし、その笑顔の先には・・・。
「あらら〜アイツと一緒だわ☆」
「オスカーは最近アンジェと仲がいいですからね〜」
「あの赤毛のおっさんは手が早いしなぁ。ま、女ならダレでもいいみたいだけどよぉ」
「ランディ、いいの?オスカー様にアンジェをとられても!?」
「しかもロザリアにもちょっかい出してるみたいだよ〜ん☆」
「アンジェにも本気だとは思えませんね〜」
「遊びでつきあってるんじゃねぇの?」
「ランディ!アンジェを取り戻さなきゃ!!」
ランディはすっくと立ち上がった。
もうアンジェリークとオスカーの姿は見えなくなっていたが、自然にアンジェリークの部屋へ向かって駆け出していた。
背後では4人の守護聖達が作戦成功!と喜んでいるのも知らずに・・・。
「うまくいくかなぁ、ランディ」
「う〜ん、ま、何とかなるでしょ。うまくいかなかったら皆でなぐさめてあげようね☆」
「うまくいくといいですね〜」
「でもよぉ、単純なヤツをソノ気にさせるっつうのはこんなに簡単でいいのか〜?」
しかし、作戦のためだとはいえ、ヒドイこと言われてるオスカーって・・・。

 

ランディは夢中でアンジェリークの寮の前まで走ってきたが、そこで我に返った。
オスカーから取り戻すという勢いでここまで来たが、いざとなると心の準備ができていないのだ。
まだ決心がつかず、アンジェリークの部屋を見上げると窓が開いてアンジェリークがひょっこり顔を出した。
「あ、ランディ様!?」
何気なく開けた窓の下にランディの姿を見つけて、アンジェリークは自分の目を疑った。
まさかここにランディがいるとは思わなかったからである。
「や、やあ、アンジェ。あ、あのさ・・・」
話し掛けた瞬間、部屋の中にいたもう一人が顔を出した。
「!」
「ほう、誰かと思えば、お前かランディ。お嬢ちゃんに何の用だ?」
アンジェリークの隣でオスカーが余裕の笑みを浮かべて問い掛ける。
(あの後、アンジェを送って部屋まで行ったんだな・・・)
ランディはオスカーに敵意丸出しの視線をぶつけた。
「おいおい、そんな顔で睨むなよ。さ、邪魔者は退散するか」
「オスカー様・・・」
「お嬢ちゃん・・・大丈夫。あいつも何か言いたいコトがあるようだし・・・。ゆっくり話すといい。また明日にでも
話は聞いてあげるぜ。いい報告が聞ければいいんだがな」
窓の側で2人が何か話しているのを見ると居ても立ってもいられなくなり、ランディは急いで建物の中に入り、
アンジェリークの部屋を目指した。
するとちょうどオスカーがアンジェリークの部屋から出てきたところだった。
「どうしたんだ、そんなに血相を変えて。少しは落ち着いたらどうだ?」
「オ、オスカー様はアンジェのこと・・・」
「ああ、好きさ。あんなに可愛いお嬢ちゃんだ。誰にも渡したくない。でも・・・な」
オスカーはそこで言葉を切ると、アイスブルーの瞳でランディを見つめた。
「どうやらお嬢ちゃんの心の中には俺以外の男がいるらしい」
「え!?」
「それが誰だかわかるか?」
ランディは首を大きく横に振った。
「ふっ、やはりな。お嬢ちゃんはそいつのことをいろいろ相談してきたんだ。男の考えてることはよくわからないらしいからな」「・・・・・」
「だから俺は教えてやったんだ。そいつはただ思ってるだけじゃ気付かないから、自分から告白しないとダメだ・・・ってな」
「それって・・・?」
「ランディ、お前はお嬢ちゃんから告白させるつもりか?お前の気持ちはどうなんだ?」
「アンジェが好きなのって・・・」
「さあ、行って確かめてこい」
オスカーはアンジェリークの部屋をノックして返事を聞くと、ドアを開けランディを部屋に押し入れた。
そして何が何だかワケがわからなくなっているランディを残し、素早くドアを閉めた。
「まったく・・・世話がやけるぜ」

 

アンジェリークの部屋には呆然としたランディだけが残された。
「あ、あの〜ランディ様?」
いつもと違うランディの様子に心配になったアンジェリークが声を掛けた。
「ランディ様、どうかしましたか?」
アンジェリークの声にハッと我に返ったランディは、まだ頭の中が整理されていなかった。
(オスカー様が言ってたことって・・・アンジェが好きなのは・・・)
「あ、アンジェ・・・。俺・・・」
「あ、すいません、ランディ様!私ったら飲み物も出さずに!じゃ、じゃあこちらに掛けてしばらくお待ち下さいねっvv」
アンジェリークが飲み物を用意する間、ランディは椅子に腰掛け気持ちを落ち着けようとしていた。
(もしかして・・・アンジェも俺のこと・・・まさか・・・でも・・・)
「はいっvvランディ様の大好きなコーラですvv」
いつの間にかアンジェリークが側に戻ってきていた。
テーブルの向かい側に座る彼女とちょうど目が合った。恥ずかしくなってどちらからともなく目を反らす。
そしてしばらく続く沈黙・・・。
「あ、あのさ・・・」
「あ、あの・・・」
沈黙に堪えられなくなり、口を開いたのも二人同時だった。
「な、なんだい?アンジェ・・・」
「ランディ様、どうぞお先に・・・」
そしてまた沈黙・・・。
そんなことを何度か繰り返した後、やっとランディが切り出した。
「あのさ、アンジェは・・・さ、好きな人・・・いるの?」
それまで俯いていたアンジェリークは思わず顔を上げた。
「どうして・・・そんなこと聞くんですか?」
「あ、俺達守護聖の間でも、君は人気あるし・・・どうなのかなぁ〜って・・・」
(わ〜っ!俺のバカ、バカ!!こんなコト言いたいんじゃないのに〜!)
アンジェリークはしばらくランディを見つめていたが、やがて決心したようにつぶやいた。
「皆様から好かれるより・・・私が思って欲しいのは一人だけなんです。でもその方はなかなか私の気持ちには
気付いてくれないみたいで・・・。だから・・・私・・・自分から告白しようと思って・・・」
「アンジェ・・・」
「ランディ様、私・・・」
「STOP!!」
「ランディ様?」
「そこから先は俺に言わせてくれ、アンジェ。君に辛い思いをさせて悪かった。ゴメン」
ランディはアンジェリークを見つめた。
「・・・アンジェ、君が好きだ」
「ランディ様・・・」
「ホントいうと君のこと好きだと自覚したのはつい最近なんだ。いつの間にか、君は俺にとってかけがえのない人になって
たんだよ。でも俺、自分の気持ちに気付かないで、君に辛い思いをさせてたんだね」
「もう・・・いいんです、ランディ様」
「ア、アンジェ!泣いてるのかい!?」
「うふふvv嬉し泣きです。だって私の思いが通じたんですもの。私もランディ様が好きです」
「アンジェ・・・俺・・・嬉しいよ」
いつの間にか窓の外は夕暮れになっていた。
アンジェリークの部屋のカーテンに映る二つの影はやがて一つになり・・・。

 

「うまくいったみたいだね〜☆」
「よかった〜!!」
「これでランディが元に戻ればいいんですけどね〜」
「ふふ〜ん、大丈夫でしょ☆これからはアンジェにみっともないトコ見せられないから余計はりきるんじゃな〜い?」
「げっ!?もっとウルサクなんのかよ!?・・・ったく、こんなコトなら協力するんじゃなかったぜ・・・」
あれから心配になった4人はランディの様子を見に来たのだが、うまくいったようでほっとしていた。
アンジェリークの部屋からは2人の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「それにしてもよぉ〜あの赤毛のおっさん、よくアンジェに手ぇ出さなかったよなぁ〜。珍しいコトもあるもんだぜ」
「・・・何が珍しいんだ?ゼフェル?」
「!!!」
いつの間にか背後にオスカーが立っていた。
「お前はいつも一言多いな。この俺がじきじきに口のきき方を教えてやろうか!」
「へへ〜んだ!遠慮しとくぜ!!」
ゼフェルはオスカーが一歩踏み出すと同時に全速力で駆け出した。
「アンタが教えられるのは女の口説き方ぐらいだろ〜!!」
捨て台詞を残し、ゼフェルの姿は見えなくなった。
「ちっ、口の減らないヤツめ・・・」
「まあまあ、オスカー。悪気はないのですから〜」
「それにしてもさ〜、今回はずいぶんオイシイ役だったんじゃな〜い?」
「まぁな。お嬢ちゃんの悩む姿は見たくないからな」
「ふふ〜ん☆理性が保てたのはエライね」
「お前な〜。いくら俺だって他のヤツを思ってるお嬢ちゃんをナントカしようなんて気はさらさらないぜ」
「ま、そんなコトより、これでめでたしめでたし・・・かな」
「では、またお茶でもどうですか〜?先程はなんだか慌ただしくこちらへ向かって来てしまいましたから」
「じゃ、そうしよっか☆」
「賛成〜!」
「オスカーもどうぞ」
「ああ、じゃあ、お邪魔するかな」
日が傾き、聖地には心地よい風が吹いていた。
それは風の守護聖の幸せを祝福する風だったのかもしれない。





なおえもんさんのサイトのキリ番ゲットで書いて頂きました、
みんなに言われるまではっきり自分の気持ちに気がつかない
鈍感なランディが めちゃ可愛くてツボです(*^^*)
みんなの優しさも心に染みますね〜♪
本当にありがとうございます〜\(^0^)/
なおえもんさんのサイトはこちらから >>> 





 



01/10/15up