ふたり乗り
文 / 観音寺まろん 様




近頃、ランディのお気に入りなことといえば、近くのテニスコートにアンジェリークを誘い
彼女とテニスをすること。

アンジェリークのテニスの腕は、普通よりちょっと下というくらいで
ランディが楽しむには物足りないのだが、なによりもアンジェリークと一緒にいられるということが
嬉しい。

今日もいつも通りに約束をとりつけ、いつも通りにテニスを始める。
いつも通りに2人で楽しんでいたのに、それは突然起こった。

ランディが打ったボールが、彼の狙いを外れて、アンジェリークの顔をめがけて飛んでいく。
そのボールは思いのほか強く、彼女がやっとの思いで顔の前に出したラケットのガットに
当たったにもかかわらず、その勢いでアンジェリークは倒れてしまった。

とっさの出来事に、いつもなら反応のよいランディも一瞬立ち尽くす。
けれど、すぐにネットを越えて、アンジェリークの元へと駆け寄った。

「だ、大丈夫かい?」

「は、はい…大丈夫です…ちょっと擦りむいただけみたい…」

そう言って立ち上がろうとしたアンジェリークだが、右足に力を入れられずに
よろけてしまう。

「捻挫しちゃったかも…」

すぐにランディはアンジェリークの右手を取り、自分の肩へとまわす。

「ちょっと我慢して。ほら、すぐそこが俺の家だから…がんばれ。」

「はい…」

不安そうに小さな声で返事をするアンジェリーク。
確かにランディの私邸まで、ほんの少しの距離なのだか、一歩足を踏み出すたびに
顔が歪んでしまい立ち止まる。
彼女はその距離がとてつもなく遠く見えてしまい、思わずため息を漏らしてしまう。

「よし。」

ランディは気合を入れた。

「ごめんね。少しだから、我慢して。」

そう言って、アンジェリークのひざの裏に腕をまわし、軽々と抱き上げて
歩き出した。

「本当は走って行きたいんだけど、走ると君を振り回してしまいそうだから。」

アンジェリークは、思わず自分が振り回される所を想像してしまい
空いている手を自分の口元に寄せる。

その様子を見て少し安心したのか、ランディは少しずつ歩くペースを上げて
小走りになる。
それにつられて、アンジェリークの体もランディの腕の中で弾んでしまうので
小さな悲鳴を上げてしまうが、それでも顔は笑っている。

そのまますぐにランディの私邸へ無事に着き、アンジェリークは部屋にあるソファへと
置かれた。

「アンジェリーク。ごめん。
 とにかく早く君を治療してあげたくて…
 すぐに先生を呼んでくるから、ちょっと待ってて。」

ランディは少し息を弾ませながら、そう言って部屋を出て行った。

「ランディ様が治療してくれてもいいのにな…」

アンジェリークは一人残された部屋で呟く。
今、少し落ち着いて足を動かしてみれば、ほんの気持ち痛さは減ったような気がした。

しばらくするとドアを開ける音がして、ランディが部屋に戻ってきた。
その手には湿布と包帯があった。

「まったく…」

「どうしたんですか?」

「『今ちょっと手が離せないから、とりあえず湿布を貼って様子を見ろ』だってさ。
 医者なんだから患者を診るのは当たり前のはずなのに…
 それでも夕方には出かけられるって言ってたから、とりあえず湿布を貼ろう。
 それから、アンジェリークを家に送っていくよ。
 それでいいかい?」

ため息まじりになりながらも、一生懸命気遣うランディにアンジェリークも
明るく答える。

「はい。逆にランディ様に手当てをしてもらるなんて、嬉しいです。」

「そ、そうかい…じゃ、じゃあ、足…」

足に湿布を貼るために、ランディはアンジェリークの足先に手を伸ばす。
そっと靴を脱がせようとするが、どうもうまくゆかずに、アンジェリークの顔が
歪んでしまう。
それで仕方なく靴と靴下は、アンジェリークに脱いでもらった。
ランディの目の前に、白く細いアンジェリークの足が差し出される。

「よく折れなかったな…」

ランディが思わず呟いた言葉にアンジェリークは赤面する。
それを見て、ランディの耳も赤くなる。

ランディは目を合わせないようにして、湿布を貼った。
包帯を巻き終わってようやく、アンジェリークの顔を見る。
ランディの頬もほのかに色がついていたが、アンジェリークも同じように
色がついたままだった。

「じゃあ、送っていくよ。立てる?」

「は、はい。だいぶ落ち着いたから大丈夫です。」

それでもランディはさっきと同じようにアンジェリークの右手をとり
自分の肩へとまわして歩き出す。

玄関へ出ると、ランディは『ちょっと待ってて』と、どこからか自転車を
持ってきた。

「捻挫が治るまで、俺が送り迎えをするから。」

まだほんの少し熱い頬に初秋の風を感じようと、二人を乗せた自転車は走り出した。


Fin




まろんさんのサイトの4周年記念企画で書いて頂きました。
リモちゃんが怪我をしてランディ様が看病してくれるという
心躍らせるシチュエーションでお願いしました。
も〜ピュアな2人にこちらまでドキドキvいやん、うっとりですね〜v
まろんさん、素敵可愛いお話をどうもありがとうございましたv

       (コメント:元PURE×PURE合同管理人 ちりさま)


 


02/10/01up