White Dream

                文 / 久保仁美さま


      

「アンジェ、貴女はどうするつもり?」
女王補佐官のロザリアに唐突に聞かれアンジェリークはふと我に返った。
「どうするって・・・」
「何言ってるの、決まってるじゃない。今夜の事よ」
今日はクリスマス・イヴ。
聖地中恋人達の為のムード一色で、アンジェリークは今日という日が来るのを憂鬱にしていた。
女王になってから初めて迎えるクリスマス。
恋人、ランディの存在がありながら『女王と守護聖としての時間を精一杯生きよう』という一言で
候補生時代だった様に会って話をしたり、ましてやデートするなんて事なくなってしまった。
いや、実際には出来るのかもしれない。
しかし、一直線のランディのこと。
その誓いから全く、アンジェリークと話す事をしなくなった。
だからこそ、こんなイベントにアンジェリークはただ溜息とつくばかりだったのだ。

「ロザリアはどうするの?」
「決まっているじゃない。こんな大イベント逃すなんておかしいわっ!!」
何故か気合の入っているロザリアに何だか可笑しくて、つい笑ってしまった。
「・・・・何が可笑しいのよ」
「別に・・・ただロザリアって補佐官になっても変わらないなって」
ロザリアは目を丸くして言った。
「・・・アンジェ、貴女らしくないわ。今までそんな台詞は貴女の言う事だったじゃない」
「そうだった、かな・・・」
「そうよ。貴女がそんな事言うなんて。私達は昔も今も変わっていないわ、そうでしょ?」
ロザリアのいつも自信に満ち溢れている姿を羨ましく思った。
「ひょっとして・・・ランディと約束、していない・・・の?」
「うん・・・・」
「うん・・・・ってあなた恋人同士なんでしょ?!」
「そうだけど・・・」
ロザリアは片手を額につけ信じられない、といった少し大げさなポーズをとった。
「あなたって本当にお人よし過ぎるわ!!いい?今日は必ず午後5時に私が貴女を迎えにくるから
必ず待っていること!いい!!絶対に今日よっ!!!」
「・・・うん・・」
ここまで言うと絶対に折れない事を分かっているアンジェリークには素直に従うしかなかった。


「・・・・何だか機嫌が悪そうですね、オスカー様」
丁度、ジュリアスに頼まれて持ってきた書類をオスカーの執務室に持ってきたランディであったが
珍しく機嫌の悪いオスカーを見て思わず言ってしまった。
「あ?そう見えるか?」
「もしかして1つ年をとったから機嫌が悪いとか・・・」
ボカッ。
思わずアッパーされたランディは顎をさすった。
「いってー・・・オスカー様ヒドイじゃないですかぁ〜!!」
「ひどいのはお前だ」とボソッとオスカーは言った。
「え?」
「なんでもない・・・・ところでランディ、お前は今日どうするんだ?」
「え?今日って・・・?別に帰って寝るだけですけど」
ケロリと言うランディにオスカーは呆れた。
「お前なぁ・・・今日はイヴだぞ?」
「それが?」
「恋人のいるお前が一日それで終わるなんてそれでいいのか?!」
「・・・変な所で気合入ってますね・・・オスカー様」
「当たり前だ。こんなイベントを逃すなんてヤツは生きている価値の無いやつだと思っているからな」
勝ち誇って言うオスカーに、ランディは感心するしかなかった。
「で?お前、女王陛下と今晩の約束はしていないのか?」
「な・・・何故そこで陛下の話が出てくるんですかっ!?」
思わず赤面するランディ。
「お前ら付き合ってるんだろ?」
「・・・そ、そうですけれど」
「じゃあ、何故会わないんだ?」
「それは・・・お互いに自分達の立場があるからです!!」
ランディがそう言い放つと、オスカーはその姿に目を細め、そして不敵に笑った。
「・・・・そうか、じゃあ今晩はオレにつきあえ」
「オスカー様は今晩忙しいんじゃないんですか?」
「・・・何が言いたい?」
「い、いえ・・・俺でよければ・・」
生きている価値が無いと先程言っていたはずじゃ、とこれ以上つっこんだら
間違いなくボコボコにされると思い、ランディは今晩オスカー邸へ向かうと約束をした。



「ロザリア・・・いいの?」
アンジェリークはロザリアに用意された服を着ると鏡をみて驚いた。
ロザリアが持ってきてくれた、ピンク色のセーターに赤いチャックのスカートを
着ているアンジェリークはどう見ても年頃の普通の少女に見える。
「当たり前でしょ、私くしのセンスに間違いないわ!」
「本当に?」
「・・・・これは私からのクリスマスプレゼントのひとつよ。」
「ひとつ?」
「そう、最後のプレゼントは・・・・隠したの。だから探して、見つけてもらえたらとても嬉しいわ」
「隠した?」
「だってクリスマスでしょ?何かがないと面白くないもの☆」
そう言ってロザリアはアンジェリークの鼻先に人差し指をちょんとつけた。
「聖殿の中庭に有る大木の下に隠したわ、探しに行ってもらえるでしょ?」
「何を隠したの?」
「それをここで言ってしまったら意味がないじゃないの。さぁ、早く探してきて頂戴!」
そう言うとロザリアは、アンジェリークの部屋だというのに追い出し、外に出した。
「ロザリア〜ぁ・・・!」
無情にも返事はなく、そのままアンジェリークは外に出て探しに行くしかなく・・・・・。

聖地にも冬は来る。
「・・・寒いよう・・」
思わず身を丸くさせるアンジェリーク。
そうさせたのは自分だが、今日に限ってこの寒さを恨んだのだった。


聖地から出て中庭に行く。
一番目立つモミの木の大木まで行くとそこには・・・・・ランディの姿があった。
「アンジ・・陛下・・・・!」
「ランディ!何故あなたがここに?!」
「オレは・・・オスカー様にここで待っていろといわれて・・・君は?」
「私はロザリアに、ここにプレゼントがあるって・・・」
「!!」
2人は顔を見合わせた。
「ハメられたな・・・」
ランディは参ったと両手を挙げた。
「うふふふ・・・あなたのそんな顔を見るの久しぶりだわ」
「陛下・・・」
「アンジェで良いわ、ランディ様」
「君こそ<様>だなんて」
こんな笑顔を交わすのはいつぶりだろう、お互いそう思った。
「・・・・アンジェリーク」
「はい」
「・・・君に前にこう言ったよね?『お互いに女王と守護聖としての時間を精一杯生きよう』って」
「ええ」
「その為に君には誤解させてつらい思いをさせたのかもしれない」
「そんな・・・」
でも、即位してからというものまともに話をしてこないランディに対して不安に思ったのは
否めなかった。
「今日、君にこうして会って謝ろうと思う。オレは素直になれてなかったのかもしれないな」
「素直・・・・?」
「クリスマスだと言うのに守護聖としての立場ばかり考えていた。君は女王だと思うと
会いたいなんて素直に言えない、でも違うんだよな」
ランディはアンジェリークの右手をとると自分の顔まで持って行き腰に手を回す。
「ランディ様・・・」
「オレたちは色あせない伝説みたいな恋をするんだったろう?」
その笑顔が優しくて、アンジェリークも思わず幸せな笑顔をうかべる。
やっと本当にお互い分かり合えた気がした。
「・・・・・・あ」
「雪だ・・」

今まで降っていなかった雪がはらはら。



「・・・ロザリアね」
アンジェリークは空を見上げてそう言う。
「彼女らしいな」
ランディはクスリと笑った。
「そうだわ!ロザリアからのクリスマスプレゼント・・・」
「プレゼント?」
アンジェリークは思い出した様に、大木の根元の掘った跡を探し出して、そこを掘った。
出てきたのは小さい小箱で、中を開けるとメッセージカードが入っていた。
『アンジェ貴女の事だから、このカードを見ている時にはランディと上手くいってるかと
思うわ。あなたたちって思ったより素直じゃないから今日はいい機会だったかしらね。
2つめのプレゼントは何か貴女自信が分かったでしょ?  merry X`mas! ロザリア』
「まぁ・・・!ロザリアったら!」
「アンジェリーク、もう一枚あるけど?」
そう言うとランディはそのカードを手に取り読んだ。
『ランディ、お前にしか読まれない事を祈る。陛下はああ見えて怖いか・・いや、本題に
戻すが、今晩はこの日の為に一年待ったレストランの予約席をお前達に<仕方なく>
譲ってやるとする。この借りは高くつくからな。場所は下記の通り。
予約時間に遅れるなよ、俺の優しさに感謝しろ。Oscar.』
「そっちのカードには何って書いてあったの?」
アンジェリークが無邪気にランディに聞いたが、話した後を考えると恐ろしくなり
「うん・・まぁ、色々とね・・・」
と誤魔化すしかなく。

「さてと・・・・雪も降り始めてきたし・・寒いだろ?」
「ええ・・・そうですね」
「君と食事をしようかと思って、その・・・・予約しておいたんだ!時間ももうあまりないし行かないかい?」
「ええ・・・喜んで!」
そう言って喜ぶアンジェリークの手を握って2人は聖殿から出て行った。


幸せそうなその姿は、誰から見ても2人の理想とする『ただ普通の恋人同士』に見えた。

----Merry X`mas!!






久保さんより 一足早いクリスマスプレゼントですっ!(≧▽≦)
なんと数年前に描いた私のランアンのイラストに 素敵なお話を付けてくださいました(^^)
2人きりのクリスマスにするための勇気が出せないランディ様とアンジェを
ロザリアとオスカー様がプッシュ!素敵なクリスマスの夜になりそうですねv
しかし、オスカー様とランディ様の漫才みたいなコンビがとってもツボです(笑)
久保さん、素敵なお話をどうもありがとうございました〜!
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04/10/15up