![]() こんな終止符のうたれ方 ![]() |
文 / 晶 様 |
「ランディさまのバカ!もう知らない!!」 「アンジェリーク!」 彼の執務室から駆け出した彼女を追いかけて、ランディもその後を急いで追った。 些細なけんか、些細な言い争い。 いつもならにらみ合っているうちにどちらともなく謝るのだが、こうして相手がその場から逃げ出した時は仲直りが遅くなる。 ランディは瞬間的にアンジェリークを追っていた。 自分が悪いとは思わないが、彼女にも正当な言い分があるのだ。追いかけることその行為が負けを認めているような気はするのだが、いつまでもアンジェリークと冷戦状態にいるのは嫌だ。 直線でのかけっこで彼には勝てないとわかっているアンジェリークは、もう見える曲がり角は片端から曲がり、目的もなくただ走り続けた。 こうなると追いかけるほうは大変で、少しでも速度を緩めればあっという間に彼女の背中が見えなくなるし、しかしスピードを上げようとすると、無目的に廊下を曲がる彼女に追いきらずに、壁と激突してしまうこととなる。 「待てよ、アンジェリーク!」 怒鳴ろうとも、止まる気配はない。それよりも、彼女の足のスピードが上がったようだ。 (くそ!) 失態に気付き、心の中で舌打ちをする。 アンジェリークは走る。 ランディがそれを追う。 いつまで続くかと思われた追いかけっこだが、そこに打ち止めをかける人物が廊下を歩いていた。 いいかげん曲がる廊下がなくなり、少し直線的な廊下に出た時だった。 アンジェリークが、嬉しそうな顔を浮かべた。 その表情はランディからは見えない。その人物とは、アンジェリークの友人でライバルのロザリアだった。 ロザリアが、走るアンジェリークとランディを見つけ、少し笑顔を見せた。 「やた!」 小さく喝采を上げるアンジェリーク。 「あら、アンジェリーク、今日の育成は…」 「終わったわ!お先に失礼〜!」 話し掛けてきたロザリアの横を走り抜けて、アンジェリークは手を振りながらそう言った。 「アンジェ!」 ロザリアのことが見えていないかのように、実際眼中になかったのだろう、ランディはロザリアの横を走りぬけようとして、 「ランディ様!」 ロザリアの強い声に呼び止められてしまった。 思わず足を止めたランディ。 「ああ、ロザリアかい。」 「ごきげんよう、ランディ様。」 「ごめん、急ぐんだけど…」 その場から動かずに駆け足をするランディに、ロザリアは不適に笑うのだった。 「育成をお願いしたいのですが、お時間をいただけないでしょうか?風のサクリアの作用についてご相談したいことがあるんですの。」 「あ、いや、あの、今はちょっと…」 アンジェリークが走り去った廊下を見つめて、ランディ。もうすっかり彼女の姿は見えなくなっていた。 「ランディ様、アンジェリークとじゃれあって追いかけっこをするのと、私の女王試験の育成と、どちらが大切なんですか?」 微笑みそう切り返す彼女に、ランディは肩を落として駆け足をやめた。 ランディが追いかけてこなくなるのが分かり、アンジェリークは走るのを止めた。気は抜けないが、ロザリアが当分ランディを離さないだろう。 「よかった、ロザリアがあそこにいてくれて。」 アンジェリークは、朝ロザリアと本日育成をお頼みする守護聖のことについて話をしていたのだった。 午後過ぎに風の守護聖を訪ねるようなことを言っていたのを、ロザリアが廊下に現れた瞬間に思い出したのだ。 「とにかく、疲れちゃった。こんなに走ったのは久しぶりね。」 つぶやきながら息を整える。この隙にどこかの部屋に隠れるか、自分の部屋に戻ろうか…。 そう急ぐこともないだろうと、ふと視線をドアが開け放たれたままの部屋にむけた。 「あら?」 部屋の奥、ドアから一直線上にある机と、開けられた窓。そこから風が吹きこんだのか、机の上にあったのだろう数枚の書類が、ドアの前まで飛んでいた。 この建物の中で、窓もドアも開け放ったまま部屋を留守にする無用心者がいるのか不審に思ったアンジェリークだが、このままにはしておけない。 黙って部屋の中に入るのは気がひけたが、声をかけても人のいる気配はないので、書類を拾いつつ中に入った。 (4枚、5枚…) 何となく数えながら腰をかがめる彼女の後ろで、ドアが閉まる音がした。 続いて、 「見つけた。」 その意外な声に驚いて、彼女は拾った書類を床に落としてしまった。 振り向いて声を上げる。 「ランディさま!」 「こんなところにいて、アンジェリーク。ずいぶん探しちゃったよ。」 怒っているというよりあきれたような声を出すランディ。 「ロ、ロザリアはどうしたんですか?」 何となく逃げ腰の姿勢で、アンジェリーク。開け放たれたままの窓が、彼女の髪を背中から揺らす。 「育成のお願いをしに来るって知ってたんだな?後でシミュレーションに付き合うからって言って、アンジェリークを追いかけることを許してくれたよ。」 一歩、二歩と近づいてくるランディを見つつ、アンジェリークは心の中で親友の裏切り行為に叫びを上げた。 何となく逃げてしまったアンジェリークは、ランディになんて言ったらいいのか分からなかった。彼に対して怒ってはいるが、アンジェリークとてこれ以上口げんかをしたくはない。 「急に飛び出すなんてずるいぞ、アンジェ。」 「も、もうランディさまに言うことなんてないですもん!」 睨み、アンジェリークはそっぽを向いた。 (ランディさまがなんて言ったって、許さないんですからね!) ふう… ランディがため息をつく。 (一体、どうしたらいいっていうんだよ。) その時、風が吹いた。 窓を小さく揺らし部屋に入ってきた風が、甘い香りとともに、小さな白い花びらを運んできた。 近くにユキハラの木でも植わっているのだろうか?そういえば、今がちょうど花をつける時期だったっけ…。 自分の目の前を舞ってきた花を見たランディが、何とはなしに窓の前に立つアンジェリークを見つめた。 いまだそっぽを向く彼女の金の髪に、舞い込んだ白い花びらがまるでヴェールのように織り込まれていた。 思わず失笑してしまう。 「?なんですか?」 自分のそんな状態に気付いていないのだろう、アンジェは突然笑ったランディに眉を寄せた。 そんな彼女に、 「好きだよ。」 どう声をかけようか迷っていたランディだが、口に出た言葉は告白だった。 「え…?」 これには不意をついたのだろう、一呼吸遅れてアンジェリークの頬が赤らんだ。 ランディはそっと彼女に近づいて、髪に手をのばす。 ユキハラの小さな花びらを一枚とって、彼女の目の前に差し出した。 「…花?」 「金の髪の甘い誘いに負けて、飛んできたみたいだ。髪飾りみたいに、たくさんついてるよ。」 まるで炎の守護聖のような台詞を吐いて、ランディは苦笑しながらアンジェリークの頭から花びらを取り除く。 「ランディさま…。」 アンジェリークが見上げ、風の守護聖の、その精悍な顔立ちの見つめる。 「好きだよ、アンジェ。」 緑の瞳をのぞきこんで、ランディ。 アンジェリークはそのランディを見つめ返し、空を見ているような気分になった。 まぶしさに目を細めるように、彼女の瞳が閉じられる。 ランディの腕が、彼女の腰を引き寄せた。 風が吹き、昼下がりの光が白い白い花びらに反射して、優しく二人を包み込んだ。 |
晶さんのサイトのキリ番をゲットして甘々なランリモのお話を 書いて頂きました。爽やかで風の守護聖様らしいお話です。 「見つけた。」というランディ様の台詞に アンジェになった気分でドキドキしてしまいました。(^_^;) 素敵なお話をありがとうございました〜v (コメント:元PURE×PURE合同管理人 ちりさま) |
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02/04/21up