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文 / 晶 様
「オスカーさまったら…」
「オスカーさまは…」
「そしたらオスカーさまが…」
「オスカーさまなんて…」
「って言ったんですよ、オスカーさま。」
オスカーオスカーオスカーオスカーオスカーオスカーオスカーオスカーオスカーオスカー……オスカー!!
彼女の口から流れ出る名前は、さっきからある男ばかりで…。
いらいらしている心の中を必死に般若心境を唱えながら鎮めようとしているのだが、所詮ルヴァ様に聞いた1フレーズしかわからないからさっきから冒頭の一行部分をリピートしまくってつぶやくばかりなのだけど、結局それが余計に俺のイライラに拍車をかけているんだと気がついたのは、頭の中が般若心境に埋まるばかりか、余計にそれによってその男のことを考えずには入られない状態になった時だったのだから、優に三十分は超していたのかもしれない。
っていうかさぁ、アンジェリーク。
「……んで、オスカー様なんだよ。」
「え?何かおっしゃいましたか?ランディさま。」
つぶやきが、いつの間にか口に出ていたらしい。
「いや。なんでもない。」
俺を見るアンジェの瞳が怪訝に染まったかと思ったが、一瞬のうちに元に戻った。
少し機嫌の悪い俺の声に、彼女は気付きもしなかった。
「で、その時オスカーさま……」
両手を胸の前に合わせて、嬉しそうに声を弾ませる。
陽の翳る俺の部屋。
かすかに聞こえる鳥の声。
窓を揺らす夕方の風。
星のまたたきが聞こえそうなくらい静寂な空間。
ベッドに二人腰をかけて、肩を寄せ合って語り合う。
そして語り合うのは………他の男の話。
なんかさ、これって、ちょっとおかしくないか?
アンジェリークはしかし、先ほどからずいぶん熱心に炎の守護聖について楽しそうに語っている。
炎の守護聖、オスカー。
燃えるような赤い髪と、深いアイスブルーの瞳。
光の守護聖の片腕として働く有能な男で、何より女性を口説くことに関しては天下一品。
歯が浮くような台詞を常に体にまとって歩き、彼に落とせない女性はいないと自ら豪語するほどのプレイボーイだ。
…ある意味、「プレイ」ボーイだと、夢の守護聖は言っている。
確かに、あれほど女性に声をかけているし、夜な夜な聖地を離れているところから見ると、まぁ、やることもきちんとやっているのだろう。
「…ランディさま?」
アンジェリークの声に、俺ははたと思考の渦から抜け出した。
アンジェの、不安そうな瞳。
「ランディさま、どうかしたんですか?」
俺の服をそっと掴んで、アンジェリークが聞いてきた。
「別に、なんでもないよ。」
そう言った俺に、アンジェリークの形のよい眉が少しゆがんだ。
「本当に?」
「ああ。」
なんでもないわけがないだろう?
彼氏の前で他の男の話を楽しそうにする女の子を、なんでもない目で見れるわけないじゃないか!
自分の彼女が、オスカーがこの前こんな話をしてくれただの、たまたま花をもらっただの、転びそうになったところを支えてもらっただの…。
こんなことを延々と話していたアンジェリークが、口をつぐんでしまった。
俺はそれまで聞き手に回っていたので(話半分だったが)、何でか二人で沈黙してしまった。
気まずい雰囲気が、二人を支配する。
「…あの、今日は押しかけてごめんなさい。」
「アンジェ?」
数分の間二人でじっと座っていたのだが、いきなりアンジェリークが口を開いた。
「ランディさま、なんか元気がないみたいだし…調子が悪いみたいなので、これで失礼しますね。」
「アンジェリーク、俺は元気だよ?何を言っているんだい?」
彼女の肩を掴んで、俺が言う。
「だって、ランディさま、さっきから私一人でしゃべってます。ランディさまったら相鎚をうつばかりで…」
俯いた彼女の髪が、下へ流れおちる。
…君が、それを言うのかい?
「せっかく久しぶりに二人っきりになれたのに…ランディさま、そっけないです。」
膨れた口調で、アンジェリークが言った。
「それは、アンジェのほうじゃないか。」
「え?」
「さっきから、オスカー様の話ばかり。君は一体どういうつもりで、そんな話ばかり俺に聞かせるんだ?」
「……。」
ここ最近は、ずっと二人でいられなかった。
正確に言えば、あの日から、ずっとだ。
アンジェは、きっと覚えていないだろう、あの日の曜日。
俺とアンジェリークが……一つになり損ねた日。
…はあ、そうなんだよな。
あの日から、結局俺は、アンジェを抱けないでいる。
チャンスが、ないわけじゃなかったんだ。
でも、だけど、俺はなんだかアンジェリークに触れることができなかった。
無邪気に俺に腕を絡める君。
嬉しそうに微笑む君。
唇を重ねる時の幸福感。
君の、ぬくもり。
だから、俺も一人の男だ。
君のその優しい雰囲気に包まれたら、抱きたいって思うのは、当たり前のことだろう?
その柔らかい感触が伝わってくれば、やりたいって思うのは当然のことだろう??
なのに、そんな無邪気な笑顔で俺を見られたら、なんていうのか……罪悪感?そういう感情が、俺をいっぱいにしてしまうんだ。
天使の微笑み。
天使の声。
天使のような君。
俺だけのものにしたい
俺だけのものにしたい
俺だけのものに、俺しか見ない天使に……。
そんなことをいつもいつも考えてる俺って、結構やばいんじゃないのか?
考え事は、いつもそこに行き着いてしまうんだ。
天使のような君の隣で、俺はこんなことをいつも思ってる。
それなのに…それなのに、だ!
何で君は、いつもいつもいつもいつも、炎の守護聖の執務室に遊びに行っているんだよ!
いつもいつも、だ。
俺がアンジェリークを見かけるのは、いつも炎の守護聖の執務室だ。
そこにいなかったら、大体は公園でオスカー様といるか、庭園でオスカー様といるか、商人さんの店でオスカー様と一緒にいるかなんだ。
つまるところ、つまらなく言っても、オスカー様とアンジェは一緒にいるんだよ!
しかもなんだってか、君はとびっきりのおしゃれをしてるんだ。建物の影で、俺が薄着だ、胸が開きすぎているだの叫んでいたことを知らないだろう!
「アンジェリークだって、人のこといえないだろ。何でオスカー様の話ばっかりするんだ。」
「それは…」
「それは?それは一体なんだ?」
詰問するような俺に、アンジェリークがびくりと体をふるわせた。
「ここのところずっと、君はオスカー様といるじゃないか。俺に会いに来るのは決まってその後だ。」
「え……」
「俺が、君とオスカー様が一緒にいるのを、知らないとでも思っていたのか?」
アンジェが沈黙する。
やっぱり、そうなのか?
俺は、オスカー様に何一つ勝つことはできないっていうのか。
結局は、オスカー様に取られてしまうのか。
「ランディさま、誤解です…。」
小さい声で、アンジェが言った。
「ランディさまが思っていることの一つでも、私とオスカーさまはそういう関係ではありません。」
その台詞だけは、きちんと俺の目を見ていた。
でも、俺にとってはどうでもいいことだ。
今日だって、もしかしたらアンジェと…なんて淡い期待をもって、デートの場所を館にしたんだ。いろいろ考えたんだ。
甘い雰囲気になったら、アンジェを抱きかかえてベッドまで連れて行こう。
キスは最初は優しい方がいいか、服は上手く脱がせられるか、初めてだけどちゃんと出来るのか、とか…。
バカみたいなことをいっぱい考えたんだ。
この前みたいな失敗はしないように、アルコール類は一切出さなかった。
照明も、あまり雰囲気のあるものは使わないようにした。
音楽だって、今日はかけていない。さすがにロックをかければ寝ないだろうなんて、思っただけでしなかったさ!
あろうことか寝室に入ったアンジェは、ベッドの上に腰掛けてくれた。千載一遇のチャンス!って、ガッツポーズまで(心の中で)とったのに…。
最初に口を開いて、最初の話題で出たのが、オスカー様のことだった。
「じゃあ、何でオスカー様の話ばかりするんだよ。」
「それは…!」
「それは、オスカーさまが、私の悩みを聞いてくださっていたから…だから…。」
悩みだって?
俺は、アンジェを凝視した。
悩みを、なんだって恋愛専門のオスカー様になんか相談するんだよ。
俺とアンジェは、いまだにやっていないっていうだけで、上手くいっているじゃないか!
「アンジェは、俺と一緒にやっていく自信がない?」
ショックだ。
この前は、男として見られていないのかもとショックを受けていたけど…っていうか、それ以前の問題なのか?
「違います!」
はじけたかのようなアンジェの声。
「違います、そんなことぜんぜんありません!」
「じゃあ、一体何をオスカー様に相談していたんだ。俺にすら、話せないことなんだろう?」
アンジェリークは、1・2分ほど逡巡していただろうか?
不意に、体を浮かせた。
何を…
そう問う前に、俺はアンジェリークに押し倒されていた。
――――な、何が起こっているんだ?
自覚もできぬまま、気がつけば俺は、アンジェリークと唇を重ねていた。
アンジェリークの柔らかい唇と、ベッドの柔らかい感触を両側から感じる。
「アンジェ…。」
離れて、俺は真っ赤な顔をしている彼女を見つめた。
「な、何を…」
「私は…私は、ランディさまが好きです。誰よりも、愛しています!それなのに、ランディさま…」
「俺…?」
「ランディさま、私のこと…お嫌いですか?」
はた、と頬に感じたのは、彼女の瞳からこぼれおちた、涙。
アンジェリーク?
「何で、私に触れてくださらないんですか?」
「アンジェ…」
「付き合って、どのくらいの月が経ったと思っていますか?どうしてその間一度も、私に触れてくれなかったんですか?」
零れ落ちる涙を拭きもせず、俺にまたがったままの姿勢で、アンジェリークが続けた。
「私、ランディさまとならいいんだって、ずっと思っていたのに、なのに…ランディさまったら、ぜんぜん私に触れてくださらなかった。私、そんなに子供っぽいですか?ランディさまを刺激するような、大人の女じゃないですか?ぜんぜん魅力はないですか?」
彼女の涙で顔が濡れて、俺は身じろぎもできなかった。
電気を消して、カーテンを閉める。
紺色のカーテンをかけてしまうと、もう明かりは一切届かない闇の世界になった。
それでも、ベッドの横にある燭台はつけたままにしておいた。
赤い、炎の煌き。
その煌きのなかで、静かにアンジェリークは微笑んだ。
「本当に、俺でいいのかい?」
そう問う俺に、小さく頭を縦に振るアンジェ。
「ランディさまが、いいんです。」
って、俺、本当にいいのか!?
自分で自分に突っ込みを入れてしまった…。
アンジェリークはそう言って笑うけど、俺の方がなんだか気後れしてしまっている。
だって、いざやるとなると、いろいろと心の準備が必要だったりするし…。
ベッドの上でちょこんと座り、俺を見ているアンジェリーク。
いや、俺だって男だ。それにこれは夢にまで見た一瞬じゃないか!
やる時はやる!!
実際、アンジェと体を重ねる夢を見たときは、本当にどうにかなりそうだった。
朝から欲情してた俺。
……男って、悲しいな…。
いや駄菓子菓子!!
今こそ、積年の夢を現実に果たす時!!
「ランディさま?」
心の中で一所懸命わけのわからない気合を入れていた俺の顔を、アンジェが覗き込んできた。
「あ、ごめん、アンジェ」
「いえ…」
なぜか謝ってしまった俺に、アンジェリークはなぜが顔を赤らめた。
うわ、かわいい……。
「あ、じゃ、服、脱ぎますね。」
「わ!」
そう言って脱ぎ始めようとする彼女を、俺は慌てて止めた。
「?」
普通、女性から服を脱ぐのって、なんか変じゃないか?
よくわからないけど、俺が脱がせた方が…いや、これは純粋に男としての意見であって、決して着せ替え気分に浸りたいだのなんて思ってないぞ!
……ちょっとは、あるかな?
どうするんだろう?普通は。やっぱり、するっと脱がせる方が雰囲気が出るんだろうか?それとも、やっぱり女性が自分で脱ぐもんなんだろうか……。
「お、俺がするよ。」
「…じゃあ…お願いします。」
なんだかんだそう言った俺に、すんなりと承諾したアンジェ。かえって困惑してしまう。
俯き加減に俺の正面に座りなおして、じっと動かない。
俺は、ゆっくりと彼女に手をのばした。
まずは、彼女の着ている紺のカーディガンから…。
小さなボタンを一つだけはずせば、これはすぐに肩からはずれた。
なんだか震えてしまう手つきで脱がせる。
アンジェは、俺の動きにならって体を動かす。
カーディガンを、ベッドサイドのテーブルに置いた。
次は、フリルのついたブラウス。
これは最初から最後まできちんとボタンがしめてあるので、全部とらなくてはいけない。
襟元を、まずはずす。
俺の指が彼女の首に触れて、アンジェの体がぴくりと震えた。
やばい、変な気分になってきた…。
二つ目のボタンをはずす。
三つ目にいたって、俺の腕に緊張が走る。
弾力性のある感触。
む、む、胸が……!
意識しまいと意識をしてしまい、指がもどかしく動かない…!
顔を真っ赤にして奮闘する俺に見かねたのか、アンジェの細い指が俺の手に添えられた。
「手伝います…」
小さな声でそう言って、アンジェリークは俺の手の上から、自分のブラウスのボタンをはずした。
ボタンがはずれて、下着が見えた。
薄暗い照明で色は正確に判別できなかったけど…淡いピンク色かな?
胸の谷間がはっきりとわかって、俺は目をそらした。
こんな調子で、大丈夫か、俺…
その下からのボタンは、何の障害もなくはずれた。
袖を抜いて、ブラウスも脱がせ終わる。
華奢な体があらわになった。
蝋燭の光の上でぼんやりと浮かび上がる彼女の白い体。
は、鼻血でるかも……!!
自分でも驚くほど自制をしつつ…次はし、下着だ!
…って気合を入れても、一体どう脱がせればいいのか……
相変わらず下を向いているアンジェリーク。まぁ、恥ずかしいんだろうけど…。
俺、この前はどうやって脱がしたんだっけ?
このときに至って、ようやく俺は気がついた。
俺もなんだかんだいって、酒に酔ってたんじゃないか…!
どうしてあの時は、あんなにすんなり服を脱がせられたんだろう?
そうしてあの時は、あんなにすんなり下着をはずせられたんだろう?
俺だって、酔っぱらってたんじゃないか!!
「あの…?」
動かない俺に、アンジェが不思議そうな顔で見ている。
ううう、あの時はぜんぜんわかんなかったけど…俺ってやっぱ酒に弱いんじゃん……
「いや、なんでもないよ。」
情けないかな、さっきよりも震える指で、彼女の胸に手を伸ばした。
そんな俺、ちょっと怪しい。
アンジェは、目をつぶって俺の指を胸に迎えた。
そう、確かあの時は、前にホックがあったんだよな。
……あれ?
両指でおずおずと探るが、そこには金具らしきものはなかった。
「?」
眉をしかめて、今度はちゃんとまさぐった。
ホックがない?
「ラ、ランディさま、ホックは背中です…!」
両指で胸の間を一所懸命探っていた俺に、アンジェリークの恥ずかしそうな声。
くすぐったかったのだろう。
「わ、ごめん!」
慌てて手を引いた。
顔を真っ赤にするアンジェ。俺も真っ赤になった。
静まれ、心臓!
ばくばくと打ち鳴らされる心臓に叱咤しながら、俺は立ち膝をついて、彼女のを抱きしめるように背中に腕を回した。
ああ、あった。
ホックをはずす。
陳腐な表現かもしれないけど、下着という枷をはずされた彼女の胸は、本当にみずみずしい果実のようだった。
きっと両手で隠したいだろう彼女は、しかし大人しく座っていた。
このまま観賞しててもいいなぁ…なんて思ったが、今日の目標は胸じゃない!
でも、ちょっとだけなら、触ってもいいか…。
伸ばされた指に緊張したのか、アンジェの体が少し動いた。
俺は、指で胸を触った。
ふにっ
うわーーーーーーーー!!
何でこの前は、この柔らかさに驚かなかったんだ!?こんなの、人間の体じゃないぞ!
ふに、ふに、ふに
思わずつついてしまう。
やばい、気持ちいい…!
熱中しかけた俺に、またアンジェリークの声。
「ランディさま、は、恥ずかしいです…!」
そ、そうだな。アンジェの胸で遊んでる場合じゃないよな。
手を引いて、俺は自分の上着を脱いだ。
トレーナー一枚だったので、すぐに上半身は裸になる。
「ランディさま…」
「立って。」
俺はベッドの上に立ち上がって、アンジェの手を取った。
不安定なベッドの上に立って、今度はアンジェのスカートに手を伸ばす。
俺は片膝をついて、スカートから伸びる紐を引っ張った。
腰で止めていた紐をほどくと、スカートは簡単にベッドに落ちた。
予想もしていなかった速さで彼女は下着一枚の姿になる。
下から見上げる俺に、彼女は視線をそらした。
何もいわずに、俺はそっと下着に手をかける。
両側からゆっくりとおろしていく。
わわわ!
俺、ここまでしてもいいのか!?
だけど、アンジェは何も言わず脱がされるままだ。
――――!
だめだ、直視できない!!
俺もバカみたいに下を向いたまま、腕だけを動かす。
下着が、足首まで降りた。
「アンジェ、足を上げて。」
「はい…」
お互いに消え入りそうな声で言葉を交わす。
アンジェが右足を下着から抜いた。
瞬間――――
「きゃ!」
アンジェがバランスを崩して、背中から倒れてしまう!
「アンジェ…!」
慌てて支えようと立ち上がった俺。
しかし自分のベッドなのに、俺はあまりの足場の不安定さに、アンジェをそのまま押し倒すかのような勢いで倒れてしまった。
ばすっと、大きな音がした。
「いてて…」
そう口に出た言葉とは反対に、体に感じたのは柔らかい感触。
頭を少し左右にふって、閉じていた目を開ける。
目の前に、アンジェリークの真っ赤な顔。
「アンジェ?」
目を大きくしてアンジェがこちらを見たかと思うと、首を横に向けてしまった。
どうやら俺は、アンジェの上に乗っかっているようだ。アンジェはベッドと俺に挟まれて、動けない。
「ごめん、アンジェ。痛かった?」
「……いえ…あの……」
そう聞いた俺に、アンジェは首を横に向けたまま口を濁した。
「?」
どうしたんだろう?なんて思った俺は、すぐに理由を理解した。
俺の右手が、アンジェの片胸をわしづかみにしていたのだ!!
「!!!!」
ものすごいスピードで手を離す。
「ご、ごめん!」
「いえ…。」
手は離したものの、そのままの体勢で俺はアンジェを見る。
アンジェも、顔を赤くしたまま俺の体の下で動かない。
なんか気まずいんだけど…。
だけど、アンジェはそらしていた目をこちらに向けた。
「…ね、ランディさま。」
「?」
「この前の日の曜日のこと、覚えてらっしゃいますか?」
アンジェが、そんなことを言い出した。
この前の日の曜日って、もしかして…
「アンジェが、酔っ払った日のこと?」
俺が、結局アンジェを抱けなかった日だ。
「はい。私、あの日のこと、よく覚えていないって言ってましたけど…実は、覚えてるんです。」
「え!?」
俺は、自分でも驚くくらい、大きな声を出した。
アンジェは今、覚えてるっていったのか?
俺はあの日のこと、よく覚えていないって言うアンジェに詳しく話してないんだ。
結局アンジェが寝てしまったので、俺は起こさないように四苦八苦しながら服を着せて、何事もなかったかのように目を覚ましたアンジェを部屋まで送ったのだ。
酒で酔った彼女をどういう状況であったにせよ、襲ったのだ。
アンジェがしてくれって言ってたと俺が言っても、それは酔っ払った彼女の言葉だ。真剣に受け止めちゃいけなかったんじゃないかって責められることを、俺は恐れたんだ。
だから言わずにいたんだけど…
「い、今なんて…」
「だから、わたし、覚えてるんです。」
アンジェは、俺を見つめる瞳をうるませて顔を相変わらず赤くして、ゆっくりと語りだした。
「あの時、私、確かに酔っ払ってましたけど、意識ははっきりしてたんです。自分が何を言っているのか、何を考えていたのか、自覚してました。
確かに、すごく気分が良くて調子にのってましたけど…でも、ランディさま。あの時私がしゃべったこと全て、自分の正直な気持ちだったんですよ。」
目を見開いて、彼女を見つめかえす。
「…じゃあ、アンジェ、俺が君を抱きしめたことも、キスをしたことも、全部覚えて…」
「はい。覚えています。」
嘘だろう?
だって、アンジェ、君は結局あの後寝てしまったじゃないか…!
俺の言いたいことに気がついたのだろう、アンジェは続けた。
「ごめんなさい。意識ははっきりしてたんですが、体は酔ってたんですね。あんな状況で寝てしまうなんて、私、どうかしてました。だから、ランディさまにあの日のことを覚えているかって聞かれたとき、恥ずかしくて覚えていないなんて…。」
最後は、本当に消えてしまいそうな声だった。
「だから、あの、私、酔っ払って、あんなことを言っていたわけじゃないんです!」
一転して、力のこもった声。
「私、ずっと、ランディさまに抱かれたかったんです。私に触れてほしかった。私を感じてほしかった。でも、こんなこと言えないし…。
お酒によってしまえば、言えないことも言えるんじゃないかって、思ったんです。あの日、ランディさまがワインを出してくれて、私、本当に嬉しかったんです。だって、そうしたら、もし酔えなくても酔っ払ったフリができるって思って…。」
アンジェの瞳から、涙が流れた。
まさか、アンジェがそんなことを思っていたなんて…
「ランディさまに抱きしめられて、私嬉しかったです。寝てしまったのは…予想外だったですけど。」
苦笑して、アンジェリーク。
「…こんなこと考えてた私、ランディさま、嫌いになりますか?」
俺が何も言わずにいたので、アンジェがそう聞いてきた。
嫌いになるわけないじゃないか!
「ありがとう、アンジェ。俺たち二人して、同じこと考えてたんだね。」
俺は、そっとアンジェリークの額に口付けた。
「俺も、ずっと君を抱きたいと思ってた。でも、タイミングとか、雰囲気とか、やり方とか…いろんなこと考えてしまって、結局今まで抱けずにいたんだ。」
俺も苦笑した。
「でも、そんなこと考えるだけ無駄だったね。」
「ランディさま」
アンジェリークの甘い声に呼ばれて、俺はゆっくりとキスをした。
長く時間をかけて、彼女の唇を味わう。
そう、無駄だったんだ。
こういうことは、考えちゃいけないんだよな。相手のこととか、自分のこととか、状況とかシチュエーションだとか…。
考えるだけ、無駄なんだ。
だって俺は、あんなに戸惑っていたのに、アンジェがずっと同じ気持ちだったと知って、今はこんなに気持ちよく素直に彼女の胸に触れることができる。
あの日の曜日だって、俺は素直に自分の感情に従った。だからアンジェを抱けたんだ。
だけど今日はいろいろと思考のほうが先走りして、彼女の服さえまともに脱がせられなかった。
簡単なこと。
自分の感情に、正直に従ってみること。
「アンジェリーク、愛してる。」
金の髪を梳きながら、俺は微笑んだ。
「私も、愛しています。」
唇から漏れる愛の言葉さえ意味が分からなくなるまで、俺たちは体を重ね合わせた。
「結局アンジェ、一体何をオスカー様に相談してたんだい?」
「それは…。」
俺の腕枕でまどろんでいた彼女に、俺は率直に聞いた。
こういうことは、尾を引いてしまう前に解消しておいた方がいいと思ったのだ。
「だから、オスカーさまに教えていただいてたんです。」
「何を。」
アンジェが、シーツを口元まで引っ張って言った。
「……思わず抱きたくなるような女性の仕草について……。」
「あ、あ、ランディさま、今笑ったでしょう!」
「わ、笑ってないよ…」
「ほら、口元がにやけてる!ひどい!ランディさまから聞いたのに!正直に答えたのに!!」
上半身を起き上がらせて、アンジェは頬を膨らませて俺を睨んだ。
「笑って、ないって…」
「笑ってます!!」
ばすっと、俺の顔に枕が落ちてきた。
押し付けられて、一瞬息ができなくなる。
「ア、アンジェ…」
「もう!らんでぃさまのバカ〜〜〜〜!」
結局俺たちって、似た者同士なんだよな。
アンジェの枕攻撃を軽く腕で受けながら、俺はそんなことを考えていた。
今度は亜綿が晶さんのサイトのキリ番をゲットしたので「sleep princess」の続きをお願いしました♪ 前作同様、ランディ様もアンジェもお互いに相手と結ばれたいと一生懸命考えを巡らせてる様子や、 そこに至るまでにスムーズに行かないランリモならではの不器用なところがやっぱり可愛い〜(*^^*) 願い叶ってやっと結ばれて、良かったね〜♪ |
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01/11/27 up