sleep princess |
文 / 晶 様
どうして、そう、君は無防備なんだろう?
俺は、自分の左腕に感じるやわらかい感触を意識しまいと務めながら、横目でこっそりと君を見る。
「それでね、ランディさま。ロザリアったら…」
顔を赤くして、さっきから百面相をしながら、今日一日朝から夜まで全ての出来事を話している。
俺はその合間に相鎚を打っているけれど……。
「ロザリアったら、こんなこといったんですよぉ。信じられられりらぁ…!」
…………。
「らんりぃさま、聞いてらっさってまふか!?」
はいはい。
小首をかしげて、俺を見上げてくるアンジェリーク。
まったく…。
アンジェリークの顔が赤く、ろれつが回っていないのはその左手に持っているグラスのせいだ。
「聞いているよ、アンジェ。ちょっと飲みすぎじゃないか?」
「えへへー。らんりぃさま、だあい好きです〜〜vv」
俺の言葉は、きっと彼女の耳には届いていないのだろう。そんなことを言って、またぴったりとくっついてくる。
だから、どうしてそんなに無防備なんだ!!っていうか、そんなにお酒に弱かったっけ?
「あれ?どこまではなしましたっけ??」
そうしてまた、アンジェリークの話は繰り返される。
ふう…
ため息ひとつ。
日の曜日に俺の館に来るのは、もういつものことだし、特別に何かをするのでもない。
女王補佐官の彼女は、たぶん聖地で一番忙しい身だ。女王を補佐し、守護聖を補佐し、聖地そのものを補佐する。
だから俺は、きっと疲れているだろう彼女を想って、
せめて日の曜日くらいは俺の館でゆっくりしてもらいたいと考えているんだ。
今日も、オリヴィエ様から頂いたアロマキャンドルを焚いて、眼が疲れないくらいの明かりだけを残し、
リュミエール様からお借りした異国の不思議な曲を音量を下げて流している。
寝室にテーブルと絨毯を引いて、適当に座って食事をする。これは、オリヴィエさまからお借りした雑誌に載っていたんだ。
見よう見まねで部屋を飾ってみたけど…俺にしてみては、よくできた方かな?
何よりも、アンジェリークにとって気持ちのよい空間をつくるために。
俺にはアロマも音楽も良くわからないから、他の守護聖たちにいろいろ体にいいものを教えてもらったんだ。
……まぁ、その度に何を言ったわけでもないのに「金の天使様によろしく伝えてください」なんて言われちゃうんだもんな。
ばればれだよ…。
別に俺とアンジェリークの仲を秘密にしているわけじゃないけど、どうしてすぐにわかるんだろう…?
マルセルに「ランディはすぐに顔に出るから」って言われたけど…そんなに顔に出てるのかなぁ、俺。
「ランディしゃま!聞いてましゅか!?」
いてて!
物思いにふけりかけた俺の左頬が、彼女の細い指でつねられた。
「だから、聞いてるって。」
「うそ!今、考え事をしてらっしゃったでしょう?」
……やはり、顔に出るらしい。
「アンジェがしゃべってるときはぁ、一言一句、一挙手一投足をみのがしてほしくないんですぅ!」
…………どうしてこんなに酔っているのに、『一挙手一投足』なんて単語が言えるんだ?
酔っ払っている人は、よくわからないな。
ぷうっと頬を膨らませるアンジェリークの頭に、手を乗せる。
「それじゃ、君と一緒にいる時は、一瞬たりとも気を抜けないな。」
「もちろんです!」
何が。
「らんりーさまは、私といる時は気を抜いちゃいけません!」
本気?
「わらしはですね〜らんりーさま。らんりーさまと一緒にいる時は〜、いつもきんちょーしちゃってるんですよぉ〜。」
そう言って、俺の左腕を抱きしめる。
「らんでぃーさまに見つめられた時とかぁ、手をつないでるときとかぁ、もう、ずーっとどきどきしちゃうんですぅ。」
こてんと、肩に頭を預ける。
抱きしめる手に力が入った。
「だって、らんでぃさまが好きなんですもん。」
頬を、腕にこするようにつける。
わわわ!
む、胸が…!
アンジェリークの胸の感触が、生々しく腕に伝わってきた!
「すきでふ〜〜。」
だ・か・ら!どうして、そう無防備なんだ!!
やっぱり、ワインなんて飲ませたのがまずかったかなぁ…?
マルセルがカティス様から譲ってもらったワインを、一人で持っているのももったいないと言って守護聖たちに配っていた。
俺も4・5本もらったんだけど…。
俺自身そんなに酒に強くない方だから、アルコール度数の少ないのをオリヴィエ様に選んでもらったんだ。
実は、俺よりアンジェリークのほうがお酒に強かったりする。
今飲んでいる白ワイン(銘柄は読んでもわからなかった)も、そのうちのひとつで、
口当たりが良く、ジュースのように飲んでしまえるようなものだ。
アンジェリークとお酒を飲むのは初めてじゃないけど、今日はなんだか酔いがひどい。
いつもなら、俺が先にダウンしてしまうんだけど…。
「ね、らんでぃーさまは?」
「え?」
「わたしのこと、好き?」
……。
やっぱり、言うのか?
アンジェが俺の腕を放して前に座り込んだ。
「ね?すき?」
膝立ちした両足の間に手をついて、俺を覗き込むように見る。
薄いカーテンの隙間から、夕方の優しい光が入り込んでいる。
「…好きだよ。」
俺は、多小の気恥ずかしさから顔を赤くして、でもしっかりと答えた。
それを聞いたアンジェが、もう一歩、俺に近づく。
顔をぐいっと寄せて、まるで嘘を暴こうとするような眼で俺を覗き込んだ。
「本当にすき?」
嘘なんかつくもんか。
赤い頬を、潤んだ目を、つきそうなくらいに近づける。
「好きだよ。」
アンジェリークにおされぎみだった体を元に戻して、そっと彼女の頬に手を添えた。
「誰よりも…」
彼女の頬が赤かったのは、お酒のせいでもなく、彼女を照らす夕陽でもないなんて思うのは、
自意識過剰…じゃないよな…。
「えへへへ〜。幸せっていうんですよねー、これって!」
一瞬二人の間に流れた甘い空気を、しかし気付いたふうでもなく彼女はにぱっと笑って一掃した。
アンジェリークは、そのまま体をこちらに倒してきた。
うわ!
もたれた体に力を入れずに、完全に身を任せてくる。
「ふふ。らんでぃさまのからだ、冷たくてきもちいい〜。」
シャツの冷たさのことを言っているのだろう。彼女の体は、アルコールのせいで火照っていた。
俺は、無邪気に笑うアンジェリークの体に腕をまわそうか迷っていた。
別に、いい…よな?
アンジェリークと付き合いだして5ヶ月。白状すると、俺達はまだ「ヤッて」いない。
オスカー様に「甲斐性なし」とか言われそうな気もするけど、
実はキスだって、別れ際とか、本当にムードがあった時しかしてないんだ。
キス、してもいいかな…。
結局抱くような形で腕をまわした俺。
やましいきもちじゃないぞ!ただ、このままだとアンジェの体が落ちてしまうから…さ、支えてるんだ!
誰にともなく弁解しつつ、俺はそんなことを考えていた。
まどろみ始めた彼女を見つめる。
「ん…」
ピンク色の唇を少しだけ開けているアンジェリーク。
やばい
やばいやばいやばいぞこれってもしかしなくてもやばい感じ!?
彼女の髪の匂い、柔らかいからだ、俺の手に絡められた細い指。
不意に、押し倒したくなる衝動に駆られた。
これも、白状してしまおう。
俺だって男だ。
こんな美味しいシチュエーションで、やりたくないはずないじゃないか!
キスだけでも、いいよな。
彼女の顔を支えるようにして、俺はそっと唇を重ねた。
俺の好きな、きもちのいい感触。
「ん…ラン…ディ…さまぁ?」
そっと顔を離した俺に、甘い声。
やばい!
俺は瞬間的に頬に添えた手を放した。
「どうしたんですか?」
怒られる!?
こんな状態の彼女に手を出すなんて…もしかしなくても、俺って卑怯者なんじゃ…。
そう思った俺が目をつぶった。
しかし、アンジェリークの非難の声が飛ぶかと思いきや、感じたのは頬に小さなアンジェのキス。
「アンジェ?」
「ずるいです!アンジェだってアンジェだって、ランディさまとキスがしたいのに!」
ええ?
「これでおあいこです。」
そう言って笑うアンジェリーク。
「怒ってないのかい?」
おずおずとそう聞く俺に、アンジェリークが心底不思議そうな顔をした。
「どーしてですかぁ?」
「君に内緒で、キスをしたから…。」
「怒るわけないですよぉ、らんでぃーさま。」
「でもね、アンジェに触れてくれないらんでぃーさまには、ちょっと怒ってます。」
理性が飛ぶ瞬間は、本当にある。
たとえば、今。
俺は、本当に何を考えるでもなく、彼女を抱きしめていた。
「…らんでぃーさま?」
アンジェリークの可愛らしい声が、耳元でする。
(理性が飛ばないように、あんまりためるなよ。)
(オスカー様じゃありませんから、平気ですよ!)
俺がアンジェと付き合い始めてきた頃、にやっと笑ってそう忠告してきたオスカー様との会話がよみがえった。
あの時は、自分の理性が飛ぶだなんて考えたこともなかったけど…
君と付き合いだして5ヶ月。その間に、何度君を抱きたいと思っていただろう…!
「アンジェ、好きだ。」
一方的にそう告げて、アンジェの唇をふさぐ。
2・3回角度を変えてキスをして、俺は一度、彼女の目を見つめた。
ぽうっとした目をしている。
酒のせいか、俺のキスのせいか…
そして、今度はむさぼるようにキスをした。
「…ふ…ん……ン………」
俺の唇に合わせられないアンジェの口から、声がもれる。
指の合間を、柔らかい髪がくすぐる。
緩慢な動きをとるアンジェの唇を無理矢理あけるようにわけ入り、舌を絡ませた。
「…んん……」
こんなキスしたこともなかったけど、体が勝手に動いていた。
ぐいっと顔を押し付けて、舌でなめる。
何分の間、そうしてキスを繰り返していたのだろうか。
俺はゆっくりと唇から離れ、今度は指でそっと彼女の髪をかきあげて、耳をなめた。
「…あ…」
感じる…のだろう。身をよじる彼女を逃がすまいと、抱きしめる腕に力を込めた。
耳をくすぐるように舐めて、そのままなぞるように首もとへと移動する。
背中にあるファスナーを、ゆっくりと下へ降ろしていく。
「ラン…ディさま…?」
熱っぽい声が、俺を呼ぶ。
返事もせずに左手で彼女の背中を支えて、なるべく静かに体を倒した。
アンジェの胸に、手を伸ばす。
決して大きくはないが、十分にふくらみのある胸を手の中におさめて、俺はもう一度彼女と唇を重ねた。
もう、引き返せない。
引き返すことなんかできやしない。
「らんでぃさま?」
アンジェの声に答えることすらもできない。
俺が思うことはひとつ。
アンジェを抱きたい。
最初は、ゆっくりと。
まるで禁則の花に触れるかのように、アンジェリークの胸に手を置いた。
思ったより、ずっとずっと柔らかかった。
「あ…」
指先で押すように触っていたのを、今度は手でもみしだく。
「あ…だ、めです…!…や…………ん…!」
俺の手が動くたびに、アンジェは甘い声で鳴いた。
だめだなんて言われて、はいそうですかって、止められるわけがない!
こんなに強い思いが俺の中にあったなんて、少し信じられない気がした。
ただ今は、アンジェリークがどんな声をあげようと、やめるつもりはなかった。
引き返せない、止められない。
先ほど降ろしておいたファスナーのおかげで、彼女の着ていたドレスはいとも簡単に肩からおちた。
白いブラジャーをどうやって脱がせるか、俺は自分自身でも信じられないくらいに冷静に考えていた。
とりあえず、鎖骨にそって舌を這わせる。
きめの細かな彼女の肌は、とても気持ちがよかった。
ゆっくり、本当にゆっくりと、舌を胸まで持っていく。
右手は、裾をめくり上げて太ももを撫でる。
「ふ、ん………ん!」
もそもそと俺の体の下で動く彼女の体が、一瞬びくりと反応した。
俺の指が、内太ももをなでたのだ。
「アンジェ?」
それまでされるがままだった体に緊張が走る。
足を閉じようとしているのに気がついて、俺は慌てずに手に力を入れた。
つまり、足を抑えているのだ。
酒には弱いけど、純粋な力ならアンジェリークに負けるわけがない。
俺は、彼女の胸を強く吸った。
少しして離すと、まるで花が咲いたように肌が赤く染まった。
「アンジェは、俺のものだ。」
「…ラン…リィ……さま…」
泣きそうな声。
その時になって、ようやくその白いブラジャーのホックが前にあったことに気がついた。
しかし…。
はずし方がいまいちよくわからなかった。
女性の下着なんて、見ただけでわかるもんか!
ここまできて終わりだなんて、ちょっとあんまりだろう?
今まで強引だったのとは違ってもたつく俺に、アンジェリークはくすりと笑って、自ら下着をはずした。
「アンジェ?」
「ランディさま、気持ちいいから…」
……実は、まだぜんぜん酔っているんじゃないか?
さっきより言葉がまともになってるから、酔いが覚めたと思ってたのに…
「きもちいいこと、してください。」
胸の頂をそっと口に含んで舌で転がすたびに、彼女は甘く鳴いた。
歯を立てると、その度に体が細かく反応する。
そんな彼女がいとおしくて、なぜか切なくて……。
下腹部に、キスの嵐。
強く吸い、花の刻印を刻む。彼女の所有権を主張するように、俺は何度も何度もアンジェの体に印をつけた。
その合間も、足の愛撫は止めない。
少しでも俺の手が中に入ろうとすると、その度にアンジェの体が緊張する。
可愛いしおもしろいので、俺はそれ以上進まない。
それに、すべすべとしたその肌が気持ちよかった。
「……ぃさま…」
浮かされたつぶやき。
まだアルコールが残っているのだろうか?
俺の舌に翻弄されていた彼女が、動いた。
俺のシャツのボタンを、一つずつはずしていく。
「アンジェ?」
時間をかけて、ボタンをはずすだけなのに失敗しながら、アンジェは俺のシャツを脱がせた。
「何を…」
「ランディさまも、脱いで…ほしかった…から…」
にっこりと笑うアンジェリーク。
外はもう、夜の帳が落ちていた。
唇を重ねても、なぜか先ほどのような満たされた気持ちにはならなかった。
舌を絡ませても、唇をかまれても…。
とどのつまり、俺はもう我慢ができなくなっていたということなのだろう。
ほんと、男はケダモノだな…。
そんなことを思っている最中のキスに、彼女は満足そうにしている。
俺の感情を知られまいと、先ほどまで飲んでいたワインを口に含んだ。
そっと唇を通して彼女に運ぶ。
口移しなんてやったことないけど…できるもんなんだな。
こくん、とアンジェの喉が動いた。
「アンジェリーク。愛してる。」
耳元で囁く。
そして…
「え!?」
俺は驚いて、彼女を見た。
規則正しい呼吸、閉じられた瞳……
「アンジェ?」
答えはない。
「アンジェリーク?」
顔に手を添える。
しかし、それにかえってくるのは静寂だけ。
…………。
「もしかしなくとも……寝てる?」
それについての返事は、やっぱりなかった。
結局、あの癒しの部屋を作ったのが間違いだったのかもしれない。
多忙な彼女に、飲みやすいワインを出したのも原因かもしれないし、
俺があんまりにも優しく愛撫をし続けたのもいけないのかもしれないけれど…。
初めて体を重ねるって時に、まさか寝られるなんて…!
つまり、男としての魅力はまだまだだってことか……。
…………。
正直言って―――…ショックだった。
男として、こんなにショックだったことはないんじゃないか?
俺の隣で気持ちよさそうに寝息を立てている彼女を見て、俺は誓うのだった。
今度こそは、絶対に寝させないぞ!!
実際、それから彼女と一緒になれたのは、そのあとずいぶん経ってからのことだったのだが……それはまた別の話。
晶さんのサイトのキリ番のリクエストでランリモの甘々なお話を書いて頂きました。 ランディ様があれこれ考えを巡らせてる様子が滅茶苦茶可愛いです。 今回はこういう結果に終わってしまいましたが 次回はきっとまた頑張ってくれることでしょう。 ランディ様、がんばれ〜!(笑) (コメント:元PURE×PURE合同管理人 ちりさま) |
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01/11/18up