「ざくろ 」

「ざくろ 」 大杉 涼


	げっぷりと大きな口を開けて
	実ったざくろがゲラゲラと笑っている。
	手首を切った時に見えた
	脂肪のつぶつぶのような果実を
	子供をあやすように引きちぎった。
 
	ざくろで野球
	軽くトス
	思い切りスイング
	ぱーんという乾いた音
 
	ああ、なんという事なのでしょう!
	挽肉ざくろが出来ました。
 
	初雪を踏んだ時のあの「キュッ」という感触が
	悩下垂体にあふれかえりました。
	俺の顔面から
	背中から
	人差し指の第二関節から
	背骨から
	ひびのはいった木のバットから
	無造作に張り巡らされたフェンスから
	3階建ての白い銀行の壁から
	ケーキ屋のネオンサインから
	路往く人、人、人から
	真っ赤な液体がばたばたと流れ落ちていました。
 
	真実を取り戻したかのように。
 
	てなわけで俺は今
	挽肉製造技術者の資格を取るために
	来る日も
	来る日も
	バットの素振りを続けているのです。
 

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