「野性 」

「野性 」 大杉 涼


	目を閉じてみる。
	耳をすましてみる。
 
	度重なる武装解除。
	強制労動の日々。
	牙はついに歯槽膿漏で抜けた。
	爪は無惨に踏み折られた。
 
	絶対絶命?
	そんな事はないさ。
	野性という切札がここにある。
 
	噛みつく為の牙はいらない。
	未来を切り開く爪はいらない。
	目を閉じて
	耳をすませば
	俺の体にある
	素晴らしい野性の牙が
	俺の生きている証だ。
 
	全ていらない
	形骸化されている。
	全てをすててみる。
	洗練された野性だけが爪を持つ。
	カーンという甲高い音が聴こえる。
	頭のすみずみまで冴えわたる。
	大地の感触が体温を上げる。
	俺はここにいる。
	両の眼にあふれる野性の輝き。
	生きるものの証だ。
	まだ俺は生きている!
 
	ようし、今夜は一丁
	月に向かって吠えるとするか!!
 

文庫索引に戻る