「タイミング 」
大杉 涼
会社から帰ると
ネコがいた。
大きさから推測するに子ネコと思われる。
三毛ネコなのでメスと思われる。
鳴き声はハイトーンでかわゆいが
ボリュームが壊れているらしく、
とてもうるさい。
状況から推測するに
このネコは野良で、ハラが減っていると思われる。
しかし家にはタバコとカップめんばかりで
喰わせてあげられるような物はなかった。
俺が寝ようと布団にはいっても
悲痛な叫びはやまなかったのだ。
会社帰りにコンビニで
ドライフードでも買って行こうかとは
何回も思ったよ。
出かける時には「ああ、今日こそは」と思うのに
帰る時にはすっかり忘れているんだ。
しまいにゃ俺は
ネコに餌も買ってやれないゲス野郎なのかと
自己嫌悪しちまったぜ。
今日も子ネコは鳴いている。
ネコの吐く息も白いんだ。
そして数日・・・
ついにおれは餌を買った!
待たせた詫び、といってはなんだが、
ちょっと背伸びして
モンプチのゴールド缶舌平目のムニエルだ。
本当は俺が喰いたいモンだぜ。全く。
ネコがうまそうにガツガツ喰う姿を想像して
ちょっとイイ気分で帰宅したが・・・。
ネコはいなかった。
布団にはいるときも
シーンという空気の振動が
鼓膜の後ろ辺りで聞こえるだけだった。
それ以来、ネコは来なかった。
数週間が過ぎ
何枚かの月めくりを捨てた。
モンプチゴールドは
存在を忘れられた。
家は引っ越しが決まった。
荷物をまとめて
不要な物は捨てた。
モンプチも・・・捨てた。
ネコは自分の死を悟るといなくなるという。
あのネコは今ごろどこかで土になっているのか。
全ての荷物を積んだトラックが出発し、
俺も車に乗った時
うにゃー
あのネコが鳴いていた。
・・・いつも俺はタイミングが悪い。
モンプチ持ってればよかったのに、と思う。
そんなもんじゃない。
もっと大切なものまで捨てちまった。
肝心な時には何も出来ない自分がそこにいる。
ただ ただ 立ち尽くすだけさ。
タイミングで人生GOOD OR BAD
酒はうまいかい?
たまには1秒前で
爆弾のスイッチ止めてみたいもんだ。
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