「ステアウエイ

「ステアウエイ 」 大杉 涼


	夜明け前の月明かりに
	幾筋もの銀の糸
 
	頬を刺す様な秋雨に見えるは
	悪夢の螺旋階段
 
	切り交ぜられたカードから
	たまたま道化師を引いたと言っても
	残り五十二枚の悪夢が続くのなら
	血管が何十本あろうと足りはしない
 
	雲の彼方へ行く迄に
	何百リットルの血を流せばいいんだい?
	痛み止めのモルヒネが
	もう効かなくなってきてるんだ
 
	静かに!
	空が狂っている
 
	陰謀だ!
	階段に悪夢を紡いでいる
 
	ものすごい数の絞首刑人だ
	よく見るとみんな同じ顔だ
	みんな俺の顔だ・・・
 
	これは愛のような脚色
	これは肉に盛られた毒
	これは脊髄を侵す病気
	これは真実のような爪
	これは真綿のような針
	これは力のような芋虫
	これは舌を切るナイフ
	これが死を買える札束
 
	俺を寝かせてくれ
	たのむから静かにしてくれ
	夜明け前に夢をみたいんだ
	あのとき見損なった夢の続きがみたいんだ
	だめだ!
	だめだだめだだめだ悪夢が割り込んで来ている!!
 
	・・・そうして俺はカラになった。
 
	カラな俺がまだ階段を登っている。
	道化師の笑いに誘われながら。
 
	ちょっと唇を嘗めてみた。
	ぬめぬめとした。
	リアルな俺がまだ生きていた・・・

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