「試 食
」 大杉 涼
デパートの食料品売り場から
試食コーナーが姿を消しつつあるらしい。
例のO−157のせいで
誰も試食してくれないのだという。
試食品というのは当然
売れ残りや返品などの過剰在庫で作られるから
デパート側としては在庫の処分におおわらわである。
でもそんなのは都会での話。
ウチの近くのジャスコでは
今日も試食コーナーは大賑わい。
赤や緑に染められたパンや
血のついた鶏の手足が
バセドウ病の末期患者のごとき形相のおばさま達によって
片っ端から消化されてゆく。
そのスピードが凄まじいので(地域性、あるよね)
店員も大変そうだ。
「ダンナ!塩辛、おいしいですよ!」
アイソのいい店員に呼び止められて
塩辛のコーナーで足を止めた。
いろいろな塩辛が樽に詰まっている。
塩辛を発明したヤツはきっと内臓フェチなんだろうなー
などと思いつつ
塩辛につまようじを刺した。
「イテエーーーーーッッ!!」
俺はたまげたね。
ようじを刺したのは塩辛じゃなくて
店員の内臓だったんだ。
でも店員は「イタイ」とはいったものの
汗びっしょりになりながら
ニコニコ笑ってたんだ。
内臓いっぱい出しながらね。
俺は一言、言ってやったよ。
「イイ趣味してますね。」
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