「老人野球」 大杉 涼


まだまだ夏は暑い 俺達の夏は終わったというのに・・・   みんなが燃えていた。 たぶんこれが最後のセンバツになるだろう。 この日のためにみんなつらい練習をしてきたんだ。 血マメをつくりながら バットを振り続けて コーチに竹刀で叩かれながら 河川敷を走り続け みんな必死で頑張ってきたんだ。 負けるものか!絶対に!   それなのに 勝負の女神は 微笑んではくれなかった・・・   最終回   アウトひとつとって 勝てる! そう思ったのに・・・   俺の投げた老人は不運にも ホームベース手前で息を引き取っちまった。   デッドボール!   ランナーが一塁に出た 同点のランナーだ   俺は次のバッターに集中することにした。 死んじまったものは仕方無いし。 俺は変化球で勝負にでた。 老人に右ひねりを加えて 投げる!   何事かわめきながら老人はくるくると ホームベースへよろばって行く。 決まった!俺の得意のコースだ!   ボキィィィィン うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!   バットは見事に肋骨の上から6本目をとらえた。 俺の決めダマが打たれた! 三塁手が老人を担架に乗せて一塁へ転送! 判定はきわどかったが 老人は死んでいた。   セーーーーフッ!   ・・・・・ そのあと俺はどんなタマを投げたのか 誰に打たれたのか よく憶えていないんだ。 完全に自制心をなくしちまったし。 ただ ホームランでサヨナラ負けして 老人のうらめしそうな顔がゴロゴロと 足元に転がって来たのは いまでも忘れてないけどね。   俺達の夏は終わっても まだまだ夏はつづいてゆく 高齢化社会の夏がね。   来年は老人ラグビーだってさ。   俺達はボールになった時 どんな顔をすればいいのかなぁ・・・。  

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