「ネット 」

「ネット 」 大杉 涼


	アタシの話、聞いてくれる?
	アタシはね、下館市に住んでいたの。
	過去形なのはね、もういないの。
	死んじゃったの。
	事故だけどね。
	アタシ、一生懸命自転車こいでたの。
	そしたらね、Xだか、Zだかの車にひかれたの。
	かわいそうね。まだ高校生だもの。
	かわいそうなアタシ。
 
	川島の火葬場で火葬になったわ。
	カサカサと、白い灰になっちゃったの。
	でね、灰になったアタシは風に吹かれて、
	すぐ隣の豚の屠殺場に飛んで行ったの。
	いつも搬送口のシャッターが開けっぱなしに
	なっているから、
	出来たての豚肉にたっぷり振りかかっちゃった。
	でね、その豚肉は日本ハム下館工場に直送なの。
	新鮮さが売りなのよ。
	で、アタシの灰は豚肉と一緒にまぜまぜされちゃって、
	かわいらしい、
	ピンクの腸詰になったの。
 
	どお、ステキでしょ?
	さすがは下館市の産業ネットワークよね。
	今晩のお夕食は
	絶対、ぜーったい、
	日本ハムの荒挽ソーセージよ!
	かわいいピンクの
	アタシが目印。
 
	かわいそうなアタシの
	最後のお願いよ
 
	アタシをお・い・し・く・食べてね・・・・・。
 

文庫索引に戻る