「モデラーの死」 大杉 涼


	頭がパックリと割れちゃってたよ。
	瀬戸物の貯金箱のようにね。
	あたりには一面に
	青い血がアルミニウムのように固まってた。
	ぺかぺかとね。
 
	公安やらケイサツやら救急隊員やら
	ヤジウマ連中やら近所のおばさんやら
	みんな指さしてげらげら笑ってたよ。
	大切な紙袋が無惨に破けちゃって
	H同人誌の紙吹雪の中
	アイツは胎児のように丸まってた。
	たくさんたくさん汗かいて
	胸に綾波のキット抱き締めてね。
 
	よってたかって
	みんながアイツを殺っちまったのかもしれない
	変わってるとか
	不気味だとか
	シンナーやってるだとか
	ひそかに女の子誘拐してミイラ作ってるだとか
 
	だからあいつはショップから
	猛ダッシュでウチに帰ろうとしたんだぜ。
	少しぐらいは気にしてただろうさ。
	じゃなきゃホームに落ちたりするもんか。
 
	でもアイツはそれどころじゃなかったのかも。
	だってバイト料がはいったらすぐだーって
	目ん玉光らせてたんだから。
	ボークスもすばらしいが
	烈風の6分の1だとか
	俺には解んなくて悪かったな。ほんとに。
 
	しあわせのカタチは人の数だけ
	ふしあわせのカタチは人の数だけ
	それ以上はないね。
	それ以下もないね。
 
	でもアイツはしあわせだったと思いたいね。
	買ったばかりの綾波のキット
	ぎゅーっと抱き締めてね。
	ニッコリ笑って死んでたしさ。
 
	額にも
	ほっぺたにも
	鼻の頭にも
	びっしりと汗かいてたよ。
	かげろうのタマゴのようにね。
 
	タマゴはいつかえる?
	アツいアツい夏の夜です。
 
	無数のかげろうが舞った夜
	アイツは伝説のモデラーになりました。
	それは本人にはどうでもいいことなんだけどね。
	死んだんだし・・・。
 

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