「 みずばしょう 」 大杉 涼
気を許してはならない毎日がある。
境界を引かなければならない毎日がある。
自己防衛の日々。
だけど蟻の入る隙間は必ずあるし、
死体には必ずウジが涌く。
ミズバショウは俺の精神の隙間に
巧みに割り込みやがった。
そう、はじめはほんの数ミリの根っこだったんだ。
しかしその根は
心のスキを衝き
身体のスキを突き
のたうつように
枝葉を伸ばしやがった。
そうして・・・とうとう・・・
左右非対称の花を
俺の右目眼底部で誇らしげに咲かせたのだ。
おかげで俺はノイローゼだ。
見るもの見るもの全てがミズバショウ。
食事はミズバショウ。
朝起きる前に見るのはミズバショウの夢。
着ている服はミズバショウ。
空にミズバショウ。
死んだのはミズバショウ。
・・・声が聞こえた。
ミズバショウのコエ。
ダマサナイデクダサイ
ウラギラナイデクダサイ
コロサナイデクダサイ
それから数日
俺は13〜17度の低温障害に見舞われ
震えの止まらない手は
一つのオブジェを必死に作っていた。
みずばしょう・・・
オブジェが完成すると
俺の体からはミズバショウの姿は消えていた。
腹をぼんぼんぼんと3回叩いてみた。
喰い破って出ていった訳では無いようだ。
エイリアンじゃねーっつうの。
俺は地面に置かれたオブジェを見ながら
色々と考えてみた。
みずばしょう。
それはもう一つの自分のカタチか
世界か
傲慢か・・・
ちょっと、そこのキミ!
だから「みずぼうそう」じゃないんだってば!

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