「映画館 」
大杉 涼
とても憂うつである。
うつ病患者というものがあるならば、
それは今の俺のようなものであるだろう。
気分転換と思い立ち映画館に行く事にした。
市役所近くのミラノ座。映画は何でもよかった。
とりあえずコヲヒイィというものを買って
座りごこちのいいような悪いような椅子にすわる。
ブザーがなって照明が落ちる。
10、9、
映写機が回り、字幕のカウントが始まる。
ところでここはミラノ座。下館市の、だ。
映画館のマナーなんてものはみじんもない。
じゃれあうお二人さんや、筑波山のガマせんべいを
がりんがりんと喰い散らかす者、
新聞を読む者、うおおぉくまんをカサカサと聴く者、
はては点滴をうつ肺結核患者までいる。
とどめは天井に張りつくように浮かんでいる
3つの首なし死体だ。
どこからどう入ってきたんだか。
カウントは続く
5、4、3・・・・・
あくびがでる。あくびしまくり。
カウントは3で止まっている。
止まったままだ。3で。止まったまま。
映写機の故障なのだろうか。
いつまでたっても映画は始まらない。
そんなことはおかまいなしですか?みなさん?
新聞を読む人はひたすら読み続け、
ガマせんべいは必死の形相に喰い荒されてゆく。
結核患者は点滴が切れて目玉が飛び出した。
だったらこんなとこ来んなよ。全く。
腹が減った俺は売店でチキン弁当を買った。
温かくも、冷たくもないチキン弁当は
とてもまずく、
チキンに箸を刺すと
真っ赤な血しぶきが20mも吹きあがった。
全身に怒りの電流が駆け巡り、
俺は弁当を床に叩き付けた。
飛び散るごはんつぶが
スローモーションの映画のようだった。
3で止まったカウント
3つの首なし死体
白いTシャツと青いジーンズが
やんわりと 本当にやんわりと
映画館の中を泳ぎ回っていた。
俺は禁煙のカンバンを蹴倒して粉々に破壊し、
ピース・ライトに火をつけると
映画館を後にした。
外では警察が待っていた。
「器物損壊の現行犯だ!」
俺はむくれたよ
「死体や点滴はいいのかよ!!」
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