06.12.10
働きマン



漫画とアニメでやってる「働きマン」。
主人公の女性が、出版社での激務っぷりをドラマチックに描いた作品。
いやあ、自分も「働きマン」しましたよ。

ながーいシリーズを誇る食玩のオールカタログ本を作ろうという企画が持ち上がったのが、
今年の春頃。
自分も企画書作成から携わることに。
その企画書で、メーカーは大いに乗り気。
でも肝心の出版社が、コスト面でシブイ顔。
長いこと時間かけて根回しし、なんとか出版社のOKが出たのが、11月の中頃。
同時に、本の発売日も決定。12月中旬。
……まず、この時点で青ざめる。制作時間が短すぎ。

ともあれ、制作開始。
自分は画像担当。2000点オーバーの画像を、メーカーから取り寄せたり、
カメラマンに発注したり。
デザイナーにラフを送るも、多すぎる画像点数が次第に相手を混乱させてゆく。
カメラマンはベテランながらも、膨大な発注量の撮影に、電話口の対応も刺々しくなってくる。
時間ばかり過ぎてゆく。
1日12時間労働では足りなくなってくる。
12月に入り、家に帰る時間も惜しみ出す。
ライターを担当している上司と一緒に、泊まり込みでの作業が続く。
「これ、携わっている誰か一人でも倒れたらアウトですよね」
そんな会話をしていた次の日、上司が激しい腹痛に襲われる。
自分も胃炎が再発。しかしこの状況では、そのことを口に出せない。
続く泊まり込み作業。上司と私だけの、妙な流行言葉が続々登場。
「知るかボケナス」
「1500円分のお使いは、オールサンドイッチ」
「夢のタク帰り」
「おつかれちゃんちん、ボブチャンチン」

デザイナー、電話口で妙なハイテンション。
「不眠不休記録、更新しましたよヘヘヘッ」
出版社の担当編集さんも、日に日にしおれてゆく。
上司は脂汗流して唸りながらネーム書いてる。
私は…もはやカメラマンに依頼している時間は無いと、小さな画像は自分で撮影開始。

画像抜け、ネーム抜けママ、出版社に入稿。
初稿が上がってきたら、それに抜け画像・抜けネーム添付して校了にしてしまおうという
恐るべき計画。

しかし…印刷所から上がってきた校了紙を見て、己の目を疑う。
全ての画像に、びっしりと貼り付けられた付箋。
すべての付箋には「実データ無し」の文字が。しかも手書きで。
(印刷所が、キレた…)
そう悟った。画像データが、デザイナーから渡されていなかったということが原因なのだが、
そんなの「画像データ来てませんよ」と電話一本くれれば解決すること。
それを、この時間のない最中に、すべて手書きでネチッこくやらかしてくれたのだ。
(この無茶なスケジュールを押しつけたのだから、キレるのもムリはない。ムリはないが…)
「ふざけんなこのやろーーーー!!!」
夜空に吼えた。

編集さん、ぽつりとつぶやく。
「この本は、もう発売予定日にはお店に並ばないんですよ。ぼくらは、それを知らずに、無駄に走り続けているんですよ。僕らは死んでいるんですよ。死んでいることに気が付いていないんですよ……」
「そんなことありませんから! 死んでませんから! 本は並びます。並ばせて見せます!!」
私と上司、編集さんを強引に励ますも、その言葉に何の根拠も自信もなし。

初稿校了計画は取り止め。
再校は、出版社に直接乗り込んでいっての出張校正。
その際、メーカーのエライ人も参加しての万全の耐性。
ここで私の往年の技術、「パタパタ校正」がフル稼働。
出版社が見落とした直しミスを拾いまくり。あー、この技術持っていてホントに良かった。

全て終わったのが、8日の金曜25時。
「おつかれしたーっ!」
皆が、まるで別れを惜しむかのように、大声で叫ぶ。長い戦いのラストを、己の胸に刻みつけながら。
私は皆を見送ってから、疲れ果てて座り込む。なんとかタクシーに乗り込み帰宅、すぐに深い眠りにつく。
夢の中で思う。ああ、この本が、15日に本屋に並ぶのか…。我ながら信じられんことだ…。

翌日、昼頃起床。
携帯電話を見てドキリ。留守録が入っている。
恐る恐る再生。ああ、編集さんの声だ。
「すみません、画像が足りないと印刷所が言ってまして。なんとか手配できませんか…!!」
終わってない、終わってないよ…。
この本、ホントに本屋に並ぶのかよ…。


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