05.08.30
内定物語



思い返せば今年の3月から仕事探しに明け暮れていたわけで。
編プロ中心に応募を繰り返すも、ほぼすべての会社で書類落ち。
あっというまに日々は過ぎ、失業保険の給付残日数も残りわずかとなり、かなり精神的に追いつめられてきた。
「好きな仕事で高給」はハナから諦めていたが、「好きな仕事で薄給」という募集も少なく、たまにあっても受からない。
仕方なしに「興味のない仕事で高給」に路線変更するも、これもかなわず、「嫌いな仕事で薄給」の路線もやむなしか、とすら覚悟していた今日この頃。

8月8日、電話がかかってくる。
「以前当社に採用応募いただき落選となりましたが、今2次募集をしております。あなたは今も仕事探している身ですか?」
確かにその会社の名前は覚えていた。6月頃に応募した児童誌系の小さな編プロで、マンガやアニメの原作脚本も手がけていると言うところに惹かれて応募したのだった。「好きな仕事で薄給」の路線だった。
以下この会社をC社と呼ぶ。
「はい、探してます」と喜んで答えた。すると、「はあそうですか、ではまたご連絡します」とその人は答え電話を切った。
ん? 面接の日取りとか決めないの? と思ったが、また連絡すると言っていたし、まあ待たせてもらうことにする。

それから数日間連絡無し。連絡先聞くの忘れていて電話もかけられない。なんか頭に来る。でもまあ一度落とされている会社だし、諦めて忘れることにする。

8月18日。C社から電話がかかってくる。
「あの、まだ仕事探してます?」などと言ってくる。
「ええ、貴社からの電話を待っていたところです」とついキレ気味に答えてしまう。
「では、面接なんですけど、また連絡します」
「え? お待ちしていて良いんですか?」
「はい。よろしくどうぞ」
電話が切れた。またしても日取り決定成らず。なんだこりゃと思う。
なんか精神的に参ってた時期でもあり、21・22で箱根に行くことにする。宿を取る。

8月20日。C社から電話が来る。
「あの、面接なんですけど、来週ならどこでもいいですけど、都合どうでしょうか」と聞いてくる。
「22日以外なら、どこでも良いです」
「そうですか、ではまた連絡します」と電話を切ろうとするので、慌てて電話番号を聞き出す。
すると、会社の電話番号の他に、その人の携帯番号まで教えてくれる。普通そういうの教えるか?と思う。
それよりも何よりも、面接できる日取りを決めてから電話かけてこいよ!と内心で憤る。

8月21日、22日は箱根。いいお湯だった。

8月23日。ひょっとしたら旅行中に電話もらったかもしれぬと思い、C社に電話かけてみる。
「すみません、採用担当の方お願いします」
すると電話先の男はぶっきらぼうに「彼は今日16:00出社です。が、16:00に会社にいるとは限りません。どうします?」と言う。
「どうしますと言われても……じゃあいいです」と電話を切る。
16:00出社か……大変そうな会社だなあ、と思う。
16:30に、彼の携帯宛に電話をかけてみる。彼が電話に出る。
「採用面接の日時が決まったかどうかお伺いしたいのですけど」
「ああ、まだ検討中です。こちらからご連絡します」と言われる。

大型の台風が来て、そして去っていった。

8月25日朝。メールが来ている。
「C社です。26日夜に面接したいのですが、いかがでしょうか。しかしまだ時間を決めていないので、とりあえず夕方〜夜の時間を空けておいてもらってよろしいでしょうか」
返事を書く。「はい、どうにでもなさって下さい」

8月26日朝。メールが来ている。
「C社です。では本日18:30、弊社まで来て下さい」
持ち物とか何も書いていない。
まあ常識の範囲で、履歴書・職務経歴書・過去の作品など用意する。
時間が来て、スーツに着替え家を出る。
地下鉄を乗り換える時に、革靴の底がまっぷたつに割れる。しばらく履いていなかったので、風化していたらしい。さい先悪いなあと落ち込む。

C社到着。マンションの一室みたいな構え。
靴を脱いであがるように言われる。靴を脱ぎそろえようとすると、若いお兄ちゃんが「わたしがやっておきますので」という。
冗談じゃない、割れた底がプラプラしている革靴だと悟られてはいかん! と素早い動作にて自分で靴をそろえる。

面接開始。社長、採用担当、秘書、ライター長の四人に取り囲まれる。
過去の作品を渡すと、じっくりと読まれる。その後、批評される。
履歴書を社長が読む。「校正やってるって書いてあると、すなわちライティング出来ないって判断することがこの業界は多いから、今後気をつけたほうが良いよ」と言われる。今後、と言われヘコむ。
好きなテレビアニメを訊かれる。ボトムズとイデオンと答える。「暗いねえ」と笑われるも、その後ボトムズの雑談が20分間。
最近読んだ本を訊かれ、「銀座のカラス」と「烏森口青春編」を読んで勤労意欲を高めていた、と答える。変な人だねえ君はと笑われる。

結局、1時間半もたっぷりと面接され、ヘトヘトになりつつ終了。
「では連絡しますから」と言われ、また待たされるのだろうなあと思いつつ、よろしくどうぞと頭を下げる。
会社から出て、すぐに煙草をくわえ火をつける。が、目の前に「この地域は路上禁煙です。罰金有り」と看板。急いでもみ消す。

8月29日。連絡無し。既に他の仕事を探し始めている。

8月30日。C社から電話。
「あなたに決めました。採用です」

こうして、内定物語は幕を閉じた。

はたして、こんな会社に入ってしまっていいのかどうか、非常に疑問かつ不安なのだけれど、
今は深いこと考えず、内定のヨロコビを噛みしめることに専念していたい。
ちなみに、仕事初めは、
「9月の5日か、12日あたりを考えているのですが、また連絡します」と言われている。
だんだん、待たされることに慣れてきている自分がいる。


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