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鍵盤調律法の話


宣伝で恐縮ですが、『鍵盤調律法 理論と実践』と題した冊子を出版しています。チェンバロオーナー向けに書き始めたものですが、古典的な調律法のいろいろに興味のある方、またピアノ技術者のみなさんにもわかりやすいと評判です。                         目次   序文
目白の東京古典楽器センター、ピアノ部品のイトシン、弦楽器のドンマイヤーなどで入手できますが、当方でも直接お買い求めいただけます。 定価2000円です。ご希望の方はメールでお申し込み下さい。

さて、今回は「フィート」の話題から…

チェンバロとつきあうと必ず聞かされる「フィート」という言葉です。
「8ft」「4ft」あるいは「8'」「4'」などと表記されます。
「8フィート」のチェンバロとは、8本足のチェンバロのことでしょうか?















違います。





失礼しました。


「8フィート」とは鍵盤どおりの実音、「4フィート」は1オクターヴ高い音がでるレジスター(一揃いの弦列) のことです。 「16フィート」は実音より1オクターヴ低いレジスターです。
正解、その通り。
さて…問題はこの先です。

なぜそのように呼ぶのか、そのわけです。
チェンバロの長さでしょうか? 違います。 (でもね※↓のようなこともあって…。)
弦長でしょうか? 違います。
チェンバロは弦の太さや張力を調節すれば、どんな長さの弦でも原理的にはどんな音でも出せるはずですからね。
正解はオルガンの「最低音のパイプの長さ」です。
1フィートを約30cmとして、8フィートつまり約2.4mのパイプを笛にして吹き鳴らすと、オルガンの(一般的な)最低音の鍵盤である「へ音記号譜表下二線のド」の音がボーッとでるのです。振動数は約65hz 。 その2.4mのパイプを最低音の基準にして、1オクターヴ高いところでちょうど半分の長さになるように、順に少しづつ短い笛をずらりとならべていくと、鍵盤に対して実音がでるパイプ列ができるのです。 そしてこんどは、その半分、長さ4フィートのパイプを最低音の基準にしてずらりならべれば、鍵盤に対して1オクターヴ高いパイプ列が作れるというわけです。
もちろんここでは、管口補正や基準ピッチ、1フィートの実長の時代や地域差などは問題にしていません。 それから、なんで最低音がド、Cの音なのかというコワイ問題も論じません。
ここまではまあ常識。

(※リュッカース一族はさまざまなサイズのヴァージナルをつくり、その全長で「6フート」、「5フート」、「4と2分の1フート」などと呼びました。 これらは各種の音高で移調楽器としてつくられています。 「6フートのヴァージナル」が「8フィート」の楽器だったりして、ややこしい。)

人間が聴くことのできる音の周波数の範囲は普通、モノの本によると20から2万hzとか、一説には16hzから2万hzなどといわれています。 さてこの16という数字はどこからきたのでしょうか? 16フィートではありません。
32フィートです。 32フィート、つまり約10mあまりの巨大なパイプ見たことありませんか? NHKホールの壁にもあるやつ。 あの一番長いやつが32フィートの最低音ドのパイプです。 鍵盤の実音より2オクターヴ低い音がでてるわけですが、なんhzでしょう。 65hzの半分の半分。 ほら約16hz。

なに? ここまでも常識の人はつぎへ。
ソプラノリコーダーの指を全部ふさいだパイプの長さはどのくらいでしょう?
そのオクターヴ下のテナーリコーダーは?
さらに5度下のバスリコーダーは?
答えは順に、1フィート(1フットですかね)、2フィート、3フィート。 面白いでしょ?

そうそうついでに、レジスターの名称としては日本では何「フィート」と呼びますが、欧米ではすべて何「フット」と単数形で呼ぶようです。

欧米の文献で、たとえば「1ftのド」などという表現がでてきてまごつくことがあります。
そう、これは「ト音記号譜表第3間のド」のことですね。ソプラノリコーダーの最低音の実音程ですね。

最後に勢いで。
F管のナチュラルホルンの管長は?
(FホルンはCの5度下、つまり3/2倍だから…。)

ブランデン2番のトランペットの管長は?
(マーク・ベネットが軽々と吹いていたラッパは1往復半巻いただけの細長いシンプルな形で全長は70センチくらいだったと思う。)

マイルス・デイビスが吹くBフラ・トランペットは?
(B♭はその5度下だから…。)

ではまた。

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答えは12フィート、6フィート、9フィート、のはずです。

モノの本によると現代のF管ホルンは3700mm、Bフラット管トランペットが1300mmとでています。 ホルンはok。 現代トランペットの方は、ナチュラルトランペットにピストンがつけられたときに、全長を半分にして、低い安定した倍音を使うようにしたもののようです。だから、4と1/2フィートが正解になっています。はずれでしたがok。