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チェンバロFAQ・自己紹介のページ

みなさんからしばしば受ける質問=FAQにお答えする形で、「チェンバロ」と「私」の事を書きます。


FAQ.1 『1台作るのにどのくらい (の期間が) かかるんですか?』

なんとこれが、もう不思議なほどにダントツでしばしば受ける質問です。 最近は、『平均すると年に2台くらいのペースですよ。』 と簡単に答えてしまいます。
でも尋ねた方は本当は、どういうふうにして作っているのか想像が難しくて、いっぺんにききたくて、ついこの質問が口をついてしまうようなのです。 だから、『そうですね、何か作りたいタイプのチェンバロがあれば、まず資料を手にいれてよくしらべ、図面を描き、材料を探してそろえ、道具や治具を工夫し、…できる範囲で装飾仕上げをして、音とタッチを揃えて、ああでもない、こうでもないとため息をついて… まあ10年はすぐですね。』 が本当の答えです。

FAQ.2 『きれいな楽器ですねぇ。横田さんは絵もかくんですか?』

つぎに多いのがこの賛嘆のお言葉。 でも…絵は『絵かきさんにお願いしてます。』 あとは脚の挽物も挽物屋さんにお願いしています。 その他は全部、全部自分でやってるんですけどね…。(そうそう、ギャラリーのページの楽器のうち、フレミッシュヴァージナルと初期フレミッシュチェンバロのスタンドは腕ききの家具屋さんに作っていただいたものです。)
それにしても楽器に絵がかいてあるといいですね。 いかにも貴族の楽器。 それに蓋の内側に風景画があると、どんな息苦しいホールやスタジオでもふっと窓が開いたように解放感が出て、コンサートの雰囲気は最高です。

FAQ.3 『ほーっ、(楽器をのぞきこんで) どこで叩いているんですか?』

すいません、叩いていません。 ピアノは弦を叩いて音を出しますが、チェンバロは弦を引っ掻いて音を出します。 ジャックレール(アクション部の蓋)をはずしてみると、ジャックについた小さなツメが弦をはじくところが見えます。 鍵盤を離したときジャックは元へ戻りますが、そのときツメが弦をなでるだけではじかないところがチェンバロのアクションのミソです。 『よーくご覧ください。』

FAQ.4 『何の木でできてるんですか?』

お願いですから、そう簡単にきかないでください。 何を使えばいいのかけっこう苦労してるんですから。
『本体は、様式によってイタリアンならできればサイプレス(イトスギ)、フレミッシュならポプラ、後期フレンチならシナノキ、初期フレンチやジャーマンならクルミかオークといったところ。 肝心の響板はトウヒ、トウヒというのは唐檜つまり中国のヒノキだけれどそうじゃなくて、トウヒ属、ドイツトウヒ、ピセア・エクセルサかピセア・アビエス、英語ではスプルースまあマツやスギの仲間ね。 鍵盤の表張は黒檀か牛骨、これは木じゃないか、イタリアンはツゲ、庭にあるツゲはイヌツゲでねモチノキのなかまで全然ちがう。 ジャックはツルツルに仕上がる洋梨、ツメがついているタングはめったに割れないヒイラギ、駒はブナか洋梨かシカモア、カエデの類。 それから、えーと…』

FAQ.5 『ピアノがひければ (チェンバロは) ひけるんですか?』

鍵盤の色や、数や、大きさが違う、タッチの感じももちろん違う、ペダルもない、 それにピッチ(音高)が低かったりして絶対音感の人は大変だけれど、 ドレミ は ドレミ。 『ピアノがひければとりあえずチェンバロはひけます。』 でもね…。
一番困るのは、一番違うのはレパートリーです。 チェンバロはピアノの先祖にあたる古い時代の楽器。ピアノのためのに書かれた曲はチェンバロではたいていうまくひけません。 一方、チェンバロのために書かれた古い時代の音楽は楽譜が「一見簡単そう」なことが多いのですが「慣習的に書きこまれていない情報」を補わないと曲にならないことが多いのです。

FAQ.6 『どういうきっかけで (またチェンバロなんか) 作り始めたんですか?』

きっかけって、ないんですね。 答え…『子どものときから楽器が大好きでした。今でもいろいろな楽器が好きですが、やっぱりチェンバロが一番好きなんです。』

横田誠三プロフィール
1951年東京生まれ。東京大学農学部農業工学科卒後、林産学科木材物理教室研究生となり木材の研究をするかたわら、堀栄蔵の指導を受け製作を開始。レオンハルト、アーノンクール、コープマン、ピノック、インマゼール、コーネン、アレッサンドリーニ等の来日の際、また小林道夫、渡邊順生をはじめ多くの邦人演奏家のコンサート、録音において調律担当、楽器提供等をして数々の貴重な示唆を得る。東京芸大、沖縄芸大、桐朋学園大、国立音大、洗足学園大、放送大学、古楽研究会、ピアノ調律師協会、オルガン研究会、札幌音楽祭等でチェンバロの歴史や調律法について講演を行う。現在、埼玉県滑川町の工房で製作を続ける一方、グローヴ音楽辞典など古楽関連図書の翻訳や監修、また栃木[蔵の街]音楽祭や地元でのサロンコンサートシリーズ『折々の会』のプロデュースにも携わる。著書『鍵盤調律法 理論と実践』。日本音楽学会会員。東京芸術大学非常勤講師。

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