大陸命第千三百八十一号〜第千三百九十二号 

大陸命とは天皇の陸軍に対する統帥命令。大本営で立案され、参謀総長から天皇に上奏され、天皇の裁可を受けた後、各指揮官に伝達される。

昭和20年8月15日、大詔渙発以降の大陸命。

 ポツダム宣言13条では、日本国に対して、ただちに軍隊の全面的な無条件降伏を宣言することが定められている。しかし、日本政府は8月14日にポツダム宣言受諾の意思を連合国に伝達した後も、日本軍の無条件降伏命令を8月15日以降も出すことなかった。大陸命による停戦命令は以下のようになっており、ポツダム宣言により指示された無条件降伏命令は9月2日の降伏文書調印まで出されていないことが分かる。

 8月15日、各軍は現任務を続行、但し積極進攻作戦を中止する。
 8月16日、即時戦闘行動を停止する、但し止むを得ざる自衛の為の戦闘行動は之を妨けず
 8月19日、内地の陸軍は、8月22日0時以降一切の武力行使を停止する。
 8月22日、外地の陸軍は、8月25日0時以降一切の武力行使を停止する。但し支那派遣軍は局地的自衛の措置を実施することを得。



(旧字を新字に変え、カタカナをひらがなに変えた)


大陸命第千三百八十一号
  命 令

一 大本営の企図する所は八月十四日詔書の主旨を完途するに在り
二 各軍は別に命令する迄各々現任務を続行すへし
  但し積極進攻作戦を中止すへし
  又軍紀を振粛し団結を堅固にして一途の行動に出て且内地、朝鮮、樺太及台湾に在りては治安の動揺防止に努むへし

     昭和二十年八月十五日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 参謀総長 梅津美治郎殿
 第一総軍司令官 杉山元殿
 第二総軍司令官 畑俊六殿
 南方軍総司令官伯爵 寺内寿一殿
 関東軍総司令官 山田乙三殿
 支那派遣軍総司令官 岡村寧次殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿
 第五方面軍司令官 樋口季一郎殿
 第八方面軍司令官 今村均殿
 第十方面軍司令官 安藤利吉殿
 第三十一軍司令官 麦倉俊三郎殿
 小笠原兵団長 立花芳夫殿


大陸命第千三百八十二号
  命 令

一 第一総軍司令官、第二総軍司令官、関東軍総司令官、支那派遣軍総司令官、南方軍総司令官、航空総軍司令官、第五方面軍司令官、第八方面軍司令官、第十方面軍司令官、第三十一軍司令官、小笠原兵団長及参謀総長は即時戦闘行動を停止すへし
 但し停戦交渉成立に至る間敵の来攻に方りては止むを得さる自衛の為の戦闘行動は之を妨けす
 諸部隊は宿営、給養等の便を顧慮し適宜の地域に集結し爾後の行動を準備することを得
二 前項各軍司令官は戦闘行動を停止せは其日時を速に報告すへし
三 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月十六日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 参謀総長 梅津美治郎殿
 第一総軍司令官 杉山元殿
 第二総軍司令官 畑俊六殿
 関東軍総司令官 山田乙三殿
 支那派遣軍総司令官 岡村寧次殿
 南方軍総司令官伯爵 寺内寿一殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿
 第五方面軍司令官 樋口季一郎殿
 第八方面軍司令官 今村均殿
 第十方面軍司令官 安藤利吉殿
 第三十=車司令官 麦倉俊三郎殿
 小笠原兵団長 立花芳夫殿

       注)関連:大陸指第二五四四、二五四五、二五四六、二五四七、二五五七号


大陸命第千三百八十三号
  命 令
南方軍総司令官は軍状報告を中止すへし

     昭和二十年八月十七日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 南方軍総司令官伯爵 寺内寿一殿


大陸命第千三百八十四号
大海令第五十号
  命 令

陸軍中将河辺虎四郎は聯合軍最高指揮官に対し帝国陸海軍の配置に関する情報を提供し且帝国陸海軍に対する正式の要求を受領する目的を以て聯合軍最高指揮官の指定する地点に出張すへし

     昭和二十年八月十八日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎
     軍令部総長 豊田副武

 陸軍中将 河辺虎四郎殿


大陸命第千三百八十五号
  命 令

一 別に示す時機以降第一総軍司令官、第二総軍司令官、関東軍総司令官、支那派遣軍総司令官、南方軍総司令官、航空総軍司令官、第五方面軍司令官、第八方面軍司令官、第十方面軍司令官、第三十一軍司令官、小笠原兵団長及参謀総長に与へたる作戦任務を解く
二 前項各司令官は同時機以降一切の武力行使を停止すへし
三 詔書渙発以後敵軍の勢力下に入りたる帝国陸軍軍人軍属を俘虜と認めす
速に隷下末端に至る迄軽挙を戒め皇国将来の興隆を念し隠忍自重すへき旨を徹底せしむへし

     昭和二十年八月十八日
  奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 参謀総長 梅津美治郎殿 
 第一総軍司令官 杉山元殿
 第二総軍司令官 畑俊六殿
 南方軍総司令官伯爵 寺内寿一殿
 支那派遣軍総司令官 岡村寧次殿
 関東軍総司令官 山田乙三殿
 第五方面軍司令官 樋口季一郎殿
 第八方面軍司令官 今村均殿
 第十方面軍司令官 安藤利吉殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿
 第三十一軍司令官 麦倉俊三郎殿
 小笠原兵団長 立花芳夫殿
 陸軍大臣 稔彦王殿下
 教育総監 土肥原賢二殿


大陸命第千三百八十六号
  命 令

一 大陸命第千三百八十五号第一、第二項に示す時機は第一総軍、第二総軍,及航空総軍に在りては昭和二十年八月二十二日零時とす
二 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月十九日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 第一総軍司令官 杉山元殿 
 第二総軍司令官 畑俊六殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿


大陸命第千三百八十七号
  命 令

一 聯合軍は八月二十六日以降本土に進駐を開始す大本営の企図は八月十四日詔書の精神の貫徹を図り進駐する聯合軍との紛争の生起を絶対に防止
し且帝国の信義を中外に宣明するに在り
二 第一総軍司令官、等二総軍司令官、航室総軍司令官及参謀総長は各級指揮官をして部除の掌握を確実にし且左記第一号の地域に在りては八月二十五日十二時迄に、左記第二号の地域に在りては八月三十日十二時迄に夫々当該地域内に在る隷下指揮下部隊を夫々作戦地域内他地区に転進せしむへし
但し所要の部隊及一部兵力を残置することを得
 左記
第一号 天津町―千葉市―多摩川ろ―多摩川―八高線多摩川鉄橋―上野原―大月―御殿場―大仁―石室崎―式根島―新島(各含む)を連ぬる線内の地域(自今東部甲地域と呼称す)
第二号 串木野―加治木―末吉―油津(各含む)を連ぬる線以南の薩摩及大隅半島(自今西部甲地域と呼称す)
第一総軍司令官、第二総軍司令官、航空総軍司令官及参謀総長は転進する部隊の部隊装備を現地に残置することを得
自今 銚子―潮来―石岡―古河―熊谷―秩父―大月―沼津―伊豆牛島西岸―式根島―新島―房総牛島東岸(各含む)を連ぬる線内の地域を東部乙地域
と呼称す
細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

    昭和二十年八月二十一日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 参謀総長 梅津美治郎殿
 第一総軍司令官 杉山元殿
 第二総軍司令官 畑俊六殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿

       注)関連:大陸指第2549、2550、2551、2554、2556、2560、2561号、大陸指特第2、4号


大陸命第千三百八十八号
  命 令

一 大陸命第千三百八十五号第一、第二項に示す時機は南方軍、支那派遣軍、関東軍、第五、第八、第十方面軍、第三十一軍及小笠原兵団に在りては昭和二十年八月二十五日零時とす
但し支那派遣軍は重慶軍及延安軍の無秩序なる行動に対し万止むを得さるに於ては局地的自衛の措置を実施することを得
二 第十七方面軍を関東軍戦闘序列より除く
但し関東軍総司令官は「ソ」軍に対する停戦に関し第十七方面軍司令官を指揮すへし
指揮隷属転移の時機は八月二十五日零時とす
三 細項二関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月二十二日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 参謀総長 梅津美治郎殿
 南方軍総司令官伯爵 寺内寿一殿
 支那派遣軍総司令官 岡村寧次殿
 関東軍総司令官 山田乙三殿
 第五方面軍司令官 樋口季一郎殿
 第八方面軍司令官 今村均殿
 第十方面軍司令官 安藤利吉殿
 第十七方面軍司令官 上月良夫殿
 第三十一軍司令官 麦倉俊三郎殿
 小笠原兵団長 立花芳夫殿

       注)関連:大陸指第2552、2558、2559号


大陸命第千三百八十九号
  命 令

一 第二、第九航空特種通信隊を参謀総長の指揮より脱せしめ且之を原所属に復蹄せしむ
指揮転移の時機は八月二十五日零時とす
二 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月二十三日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 参謀総長 梅津美治郎殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿


大陸命第千三百九十号
  命 令

一 大陸命第千三百七十七号に拠り第三飛行師団編合より除き航空総軍戦闘序列(直轄)に編入すへき
部隊の隷属転移は之を中止す
二 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月二十五日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 航空総軍司令官 河辺正三殿
 第十方面軍司令官 安藤利吉殿


大陸命第千三百九十一号
  命 令

一 第十八軍を南方軍戦闘序列より除き第八方面軍戦闘序列に編入す
二 南方軍総司令官は前項部除を第八方面軍司令官の隷下に入らしむへし
三 隷属転移の時機は八月三十日零時とす
四 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月二十四日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 南方軍総司令官伯爵 寺内寿一殿
 第八方面軍司令官 今村均殿
 第十八軍司令官 安達二十三殿


大陸命第千三百九十二号
  命 令

一 南方軍総司令官は夫々第十四方面軍を大本営の直接指揮下に、「パラオ」地区集囲を第三十一軍司令官の指揮下に入らしむへし
第十方面軍は支那派遣軍総司令官の指揮下に入るへし
二 航空総軍司令官は在朝鮮第五航空軍を第十七方面
三 軍司令官の指揮下に入らしむへし
四 指揮隷属転移の時機は八月三十一日零時とす
五 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月二十八日
奉勅伝宣 参謀総長 梅津美治郎

 南方軍総司令官伯爵 寺内寿一殿
 支那派遣軍総司令官 岡村寧次殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿
 第十方面軍司令官 安藤利吉殿
 第十四方面軍司令官 山下奉文殿
 第十七方面軍司令官 上月良夫殿
 第三十一軍司令官 麦倉俊三郎殿


出典:「大本営陸軍部」 大陸命・大陸指 総集成 第10巻 昭和20年
    森松俊夫/監修 エムティ出版 (1994)


北方領土問題の先頭ページへ   北方領土問題関連資料のページへ