ビア・ディスペンシング・キャビネット

(Beer Despensing Cabinet)
1.はじめに
適度に冷えたビールはとても美味しいものですが、味の分からぬほど冷えたビールや、泡だらけのぬるいビールなど飲みたくはありません。せっかくケグを買い、中に自分のビールを詰めたなら、出来るだけ良い条件で飲みたいものです。春夏秋冬、外気にさらしたままのケグで飲むのも、季節感を味わいたい風流な方には良いかも知れませんが、やっぱり私は適正な温度でビールを飲みたい。そうなればビールを冷やす何らかの手段が必要です。
2.市販サーバの構造
市販のサーバ、と言いましても個人が買う物ではありませんが、酒屋等が飲食店にレンタルしているサーバは、仕組み上ふたつに分別できます。ひとつはケグ全体を冷やす方式。つまり大きな冷蔵庫にケグが入っていると思えば良いわけです。そしてもう一方は、ケグからフォーセットまでの間に冷却機構を設け、その間を通すことでビールを冷やす方式です。居酒屋等でよく見かけるサーバはほとんど後者の方式です。

後者のタイプのサーバの冷却機構は二種類あり、ひとつは冷蔵庫と同じように冷媒による冷却を行っているものです。おそらくこれが一番多く目にするものでしょう。この装置の中には水槽があり、その中の外側を冷媒用コイルが、内側をビール用コイルが通っています。冷媒がコイルを通ることで水槽の水が冷え、その冷えた水の中にある別のコイルをビールが通ることでビールが冷えます。なお、水槽の外側部分の水が凍ると冷却が停止する様にこの装置は作られており、氷の持つ冷熱量によって大量のビールを安定して冷却できる様になっています。

もうひとつはコールドプレイトという方式です。コールドプレイトは放熱フィン(羽)の付いたアルミ等の固まりであり、中にはステンレスのパイプがうねって通っているそうです。このアルミの固まりを氷で冷やし、そして中のパイプ中にビールを通すことでビールを冷却します。あまり大量に連続しては冷やせませんので、スナック等で良く使われています。
3.私のサーバの構造
ビアキャビネットの写真
私のサーバをどのような構造にするか決定するにあたり、以下の様なことを目標としました。

(1) 最低2本のケグからサービスできること。
(2) 温度が安定していること。
(3) 氷などを用意する必要がないこと。
(4) 制作が容易であること。
(5) 外見は木製キャビネットにタップのついたタワーが立っている形。
(6) 0℃まで冷やせること。(これはカウンタプレッシャボトリングするときに、この温度まで冷えていると炭酸の抜けをかなり防げるためです)
これらの要件を考慮すると、コールドプレイトが普通は入手できないことや、(3)の理由からコールドプレイト式が除外できます。コールドプレイトを氷で冷やすのではなく、冷蔵庫で冷やしても良いのですが、熱量の関係から数杯程度しか供給できませんので、やはりコールドプレイトは止めることにしました。また居酒屋サーバ式では(1)(4)が満足出来ませんので、この方法も却下です。となると残る方法はケグごと冷やす。この方式に決定しました。
4.冷却器
(1)冷蔵庫はあきらめた
ということでサーバの構造は決定しました。今度は冷却ユニット探しです。簡単な話、キャビネット内に収まって、かつケグが2個入る様な大きさの冷蔵庫があれば良いわけです。そこで冷蔵庫を色々物色しましたが、良いものがありません。大体にして扉の数が多すぎます。昔風のワンドア冷蔵庫がいちばん良いのですが、そんなもの見当たりませんでした。その上どうも冷蔵庫はスペースファクタが悪く、ケグをたった二本収めるのにも大袈裟になってしまいます。どうも冷蔵庫はあきらめざるおえません。

冷蔵庫のコンプレッサ (2)冷蔵庫の中身を使おう
幸いな事に、友人が私に75リットルの小さな古冷蔵庫をくれました。残念ながら中にケグは入りませんが、冷蔵庫の冷却装置(コンプレッサや放熱・吸熱フィン等)は使えますので、それを取り出して使う事にしました。なんといっても只ですから、失敗してもあきらめが付きます。やってみると冷蔵庫の中身を取り出すのは案外と簡単で、中身を取り出すとき、配管を破って中のフロンを逃がさないようにすればいいだけでした。配管自体は軟銅管ですのでかなり自由がきくため、適当に曲げてキャビネット内にユニットを配置できました。
5.キャビネット
木製キャビネットを目指すのですから、当然筐体は木製で制作しました。予算の関係から家具に使うような高級な木材は買えませんでしたので、シナ合板で我慢しました。ただしシナ合板そのままでは見栄えが悪いため、ローズウッドのニスを塗って高価な木材を使っている様に見せかけあります。
キャビネットの内部(ケグを入れるところ)の写真 この筐体は左の部屋にはケグを置き、右側には冷蔵用のコンプレッサや放熱フィン等を置く様に、仕切板で縦に二分割してあります。左の部屋の上面に冷蔵庫ユニットの吸熱板を配置し、ケグ側の熱を吸って右の部屋から外に熱を放出できるようにしています。ケグを置く部屋は、保冷性を高めるのと結露防止のために、全壁面に20mm厚のスタイロフォームを2重(つまりは40mm)に張ってあり、底面はビールがこぼれてもいいように、サイディング坂を張っています。またスタイロフォームは押し入れ用のアルミ蒸着シートでカバーし、湿気を外に出さない様にしています。
6.電気系統
温度コントローラの写真 過度の冷却の防止のために、設定温度以上の時だけ冷却器が働くように、温度コントローラを作って制御しています。このコントローラーは Marty Tippin さんの小道具ページにあった冷蔵庫用温度コントローラの制作記事を参考にしたものです。このページは電子工作の趣味がある方なら非常に参考になります。なお私が使っている回路は、この記事の内容を少しモディファイしたものです。私の使っている回路について、詳細を知りたい方は私までご連絡をください。それ以外には、2点観測のできるデジタル温度計で、保冷室と室温の両方を観測できるようにしています。なおこの温度計は水銀電池1個で稼動するものでしたが、電池の交換がわずらわしかったので、先の温度制御装置の5Vを1.5Vに落とす回路を造り、それからこの温度計に電源を供給するようにしています。
7.タワー
タワーの入手には苦労しました。米国の自家醸造店でも置いていない店が多いのです。また仮に扱っていても日本との取り引きに積極的でなかったりで、なかなか入手できませんでした。結果的には Beer At Home という店から買うことができたのですが、2タップタイプのクローム仕上げの品で$165程度でした。 BrewCrafters でも取り寄せてくれます。興味のある方は問い合わせて見てください。
8.試用感想
真夏の室温が平均で30℃とした場合、その状態でケグを0℃まで冷やせるとなると、室温に対して最低30℃冷やせる能力が冷却ユニットには必要です。真夏はカウンタプレッシャボトリングをあきらめるとして、それでも25℃程は冷却できる能力が必要です。実はこの点が最大の懸念だったのです。実験では室温に対して最大29℃程度冷やせる様で、満足しています。
さて、肝心の使ってみた感想ですが、ビールの温度が安定していますし、泡の量も変化せず中々良いです。なんといってもその外見が良いので、苦労した甲斐がありました。これが完成してからは毎晩の晩酌がより楽しくなりました。

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